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幼竜使いの少女

小竜使いの幼女ではありません。念のため。

 ウィリーさんに店を売るという約束をしてから数日後。

 俺達3人は、ウィリーさんを伴ってリノリアの街へとやって来た。

 ファニーさんに挨拶に来たのだ。ファニーさんは俺の店に茶葉を卸してくれる大事な取引先。店長が替るのなら、その旨を伝える義務があった。

 元々ウィリーさんとファニーさんは顔見知りだ。引継ぎの話はスムーズに進んだ。

 その上で二人でしたい商談があるという事なので、俺達は手持無沙汰になった。

 折角だからリノリアの街を観光して回ろうという事になり、まだ日も高い街に繰り出したのである。


「何度来ても新鮮ですね。この街は」

「流石に規模が大きいからな。商人や大道芸人も入れ替わりが激しい」


 とは言え、次はリノリアよりもっと大きい街で店を持つつもりだ。もっと刺激の強いことが多いだろうな。


「あ! あれ見てください! ハルイチさん!」


 リネットに手を引かれ、小走りで街を掛ける。

 たどり着いた場所にあったのは、大きなテントだ。


「これ、もしかしてサーカスか?」

「そうみたいです!」


 へえ。この世界にもサーカスがあるのか。

 だが、サーカスっていうのは地球でも結構起源が古いからな。おかしくは無いのか?


「サーカス、か」


 興奮するリネットとは対照的に、レイラは冷めた声だ。そんなレイラに気づいてないのか、リネットは嬉しそうな声をあげる。


「あ、ハルイチさん! 詳しい内容が書いてありますよ!」


 リネットが指さす先には、大きな看板があった。

 ええと、なになに……、


「『ドラゴンの子供による曲芸が目玉です』だと!?」


 レッドウルフとの一戦でファンタジスタな雰囲気には少し慣れてきたが、まさかドラゴンまでいるとは……。想像以上にファンタジックな世界だな、ここは。

 まあ、俺自身が魔法で転生させられた以上、今更な気もするが。


「み、見て行きましょうよ!」


 サーカスねえ。そこまで興味があるわけでもないが、まあいいか。


「いいよ。見て行こうか」

「はい!」


 満面の笑みを浮かべるリネット。


「私は失礼する」


 だが、その気分に水を差すような冷たい声。


「レイラさん?」

「済まないな。私はサーカスは苦手なんだ。二人だけで楽しんでくれ」


 そう言ってレイラはリノリアの街の方に去って行った。

 サーカスが苦手って……意味が分からないが、無理やり見せるような物でもない。


「ま、いいよ。レイラなら一人にしても大丈夫だし。サーカスを見ようか」

「は、はい!」


 気を取り直してサーカスに向かう俺達。


「うわ、凄い人ごみだな」


 テントの外には、かなりの人数が待機していた。


「入れるでしょうか……?」

「そればかりはなんとも」


 入れるように祈るしかない。

 と、そうやってしばらく待っていたのだが、行列は全然進まない。


「どうしたんでしょう?」

「わからない、けど……何か前の方が騒がしくなってきたな」


 それに、列も乱れ始めている。


「ちょっと様子を見てくるよ」

「はい」


 俺は列から外れ、前方の様子を伺いに行った。

 そこでは、いかにも曲芸師と言う格好の男性が、必死で頭を下げていた。


「ご容赦ください! 今日はドラゴンの体調がすぐれないので、公演は中止です!」


 何だ。今日は公演が中止になったのか。俺は構わないが、他の客はそれ程聞き分けが良いわけでもないようだ。『ふざけるな!』だの『一目見せろ!』だのと大声で曲芸師を罵っている。そんなことやっても結果は変わらないだろうに。

 FXをやったら損切りが出来ないタイプだな。

 冗談はともかく、いつまでもここに居ても仕方がない。俺はリネットの下に戻った。


「残念だが、今日の公演は中止みたいだ」

「ええ! そんなぁ……」


 ショックを受けるだろうと思っていたが、想像以上だ。ちょっと可愛そうになってしまう。


「何とかドラゴンさんだけでも見たかったです……」


 そんなにドラゴンが見たかったのか……。

 仕方ないな。


「じゃあ、ちょっとサーカスの裏手に回ってみようか。姿ぐらいは見られるかもしれないぞ」

「ちょっとお行儀が悪いですけど……行っちゃいましょう!」


 俺達は入り口に殺到する人々の横を抜け、サーカスの裏手に回った。

 本来なら『立ち入り禁止だ』とか注意を受けそうなものだが、すんなり進むことが出来た。

 サーカスの裏手にはもう一つ小さいテントがあり、恐らくそこが団員達の控室になっているのだろう。


「ドラゴンさん、いるでしょうか?」

「ちょっと覗いてみようか……」


 俺たちがテントの中を覗こうとした瞬間。


「離して! ミミカに触んないでよ!」


 控室のテントの裏手から、女の子の声がした。

 何とも穏やかじゃない声音だった。


「ハルイチさん……」

「わかってる」


 俺はリネットの手を引いて、テントの裏手に向かった。

 そこでは、黒い服を着た二人の男が、小さな女の子を羽交い絞めにしていた。


「大人しくしろ!」

「嫌! 離して!」


 酷く犯罪臭のする光景だ。だが、あの子があの男たちの財布を盗んだとかそう言う可能性もあるわけで。まだどっちが悪いのかわからない。だが放っておける光景でもないな。

 俺が止めに入ろうと思ったその時。


「ギャオ!」


 恐竜みたいな声をあげて(本当はそんな声聞いたこと無いけど)、何か小さな動物が男たちに襲い掛かった。


「な、何だ!」

「ど、ドラゴンだ!」


 男たちに言われて気が付いた。男たちを襲っているのは、小さなドラゴンみたいだった。全体的に羽の生えたトカゲを思わせるフォルム。緑色の鱗に鋭い爪。小型犬くらいの大きさしかないが、そいつは立派なドラゴンだった。


「アル! 来ちゃ駄目って言ったのに!」


 悲痛な声をあげる女の子に構わず、ドラゴンは女の子を羽交い絞めにしている男の腕に噛みついた。


「痛てて!」

「こいつ!」


 もう一人の男が咄嗟にドラゴンを殴ろうとする。

 

「やめて!」


 しかし自由になった少女はドラゴンを庇って、代わりに殴られてしまった。


「あう!」


 地面に倒れる少女に、男は侮蔑の視線を向ける。


「素直に言う事を聞かねえからだ! 馬鹿が!」


 ……もう黙って見てられる感じじゃないな。どっちが悪いかは置いといて、とりあえず今は場を収めよう。

 おれはいつぞやレイラに貰った、折り畳み式の棒を取り出した。町の中で槍は振り回せないので、中々重宝している。

 男には悪いが、先手必勝で行かせてもらう。

 俺は一気にテントの陰から飛び出し、男二人の足を思いっきり棒で払った。


「うわ!」

「おう!」


 男二人は簡単にすっころんだ。


「なんだお前!?」

 

 驚愕の声をあげる二人を見下ろし、出来るだけ紳士的に告げる。


「事情は分からないが、暴力は感心しない」


 自分の事は棚に上げる。


「もう少し、落ち着いて話を……」

「話しても無駄! 来て!」

「うお!」


 いつの間にか立ち上がっていた少女が、俺の腕を掴んで走り出した。


「ギャオ!」


 その後ろからは、さっきのチビドラゴンも飛んでついて来る。

 この腕を振り払うことも出来たが、俺はそうしなかった。

 確かに、落ち着いて話すような雰囲気でもないな。

 俺はひとまず少女についていくことにした。


新ヒロイン、登場です。

後1回か2回は彼女がらみの話になりそうです。

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