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魔物討伐

 ファニーさんの屋敷を訪れた日、俺達はファニーさんが手配してくれた宿屋に泊った。そして俺とレイラは、翌日の早朝から魔物退治に出発した。

 戦えないリネットを連れて行くわけにはいかないので、ファニーさんの屋敷で預かってもらうことにした。これならまず安心だろう。

 俺とレイラは徒歩で山道に向かった。魔物が住んでいるのはリノリア寄りの場所らしいので、昼過ぎごろには着くとのことだった。

 それで、その魔物と言うのだが端的に言うと狼を巨大化した様な奴じゃないかと俺は思っている。『思っている』と言うのは、当然推測にすぎないからだ。

 そもそもファニーさんは『狼』と言う存在を知らなかったので、突っ込みようが無かったのだ。もしかしたら、この世界には狼がいないのかもしれない。

 それは兎も角、ファニーさんから聞いた情報は次のようなものである。

『成人男性の2倍はありそうな四つん這いの獣で、街では「レッドウルフ」と呼んでいる。その毛は赤く、手足には鋭い爪、口には鋭い牙。今までに10人以上が犠牲になっている。似たような獣が何匹かいるが、一番大きいのを倒せば他のは逃げて行くはず』

 との事。『狼』を知らないのに『ウルフ』と言う言葉が出てくるあたりに違和感があるが、このあたりの言語がどう翻訳されているのかはアルミリアにしかわからないので、深く考えるのは止める。

それより問題はその獣の脅威である。全力で逃げ出したい所だが、レイラがやる気になってしまっている上に、倒さなければ商売が出来ない。

 まあ、ヤバくなったら逃げ出したらいいし、それほど気負わずに行こう。


 歩き続けてもう5時間近く。ようやっと山道に入ることが出来た。ここから先はいつ魔物が襲ってくるかわからないので気を付けよう。

 今回は討伐なので当然だが俺達は武器を持ってきている。だが、あまりガシャガシャやると魔物に要らない刺激を与えるので、出来るだけ静かに進む。

 山道はあまり広くなく、二人並んで進むと結構手狭だ。馬車で行くならそれなり以上のコントロールが必要になるだろう。

 俺達が今進んでいる山道は両側が壁の様になっており、前後にしか進めない。

 もし俺が魔物なら、ここで挟み撃ちにするね。


「グルルルルル……!」


 ……マジかよ。そんなことを考えていたせいか、壁の上に5匹の魔物が姿を現した。しかも、ご丁寧にも前に2、後ろに3と散会している。


「囲まれたな……」

「何、慌てることは無い。こいつらの親玉はまだ出てきていないさ」


 レイラの落ち着いた声のお蔭で、俺も平静を取り戻せた。

 確かに見える獣の姿はファニーさんから聞いていたような、赤い毛の獣だ。恐らくこいつらがレッドウルフだ。その姿は狼と言うよりハイエナに近く、何処か狡猾そうだった。

だが、どれも全長で1メートル歩かないか位。こいつらの中に親玉はいない。。


「私が前方を守る。ハルイチは後ろを……」

「いや、俺が前を守る」


 敵の数が少ないから。

 レイラも俺の意図に気が付いたらしく、呆れるようなため息を吐いた。


「仕方がないな……」


 と言いながらも、レイラは俺に前を譲ってくれた。

 俺とレイラは互いに背中を合わせ、魔物の襲撃に備える。


「グガアっ!」


 レッドウルフは意外なほどコンビネーションよく、一斉に襲い掛かって来た。

 

「おら!」


 俺は飛び掛かって来たうちの一匹を槍で貫く。恐らく即死だろう。

 そして、もう一匹跳びかかてっきた方は前転して避ける。

 俺は獣の死体が刺さったままの槍を振るい、死体を生きているレッドウルフにぶつけた。


「ギャン!」


 悲鳴を上げてぶっ飛ぶ獣。だが、これでは致命傷には至らないな

 俺は急いで槍に刺さった死体を抜き、その槍の先でぶっ飛ばしたレッドウルフを貫く。


「ギャ……ア……」


 悲鳴を上げる暇すらなく、レッドウルフは絶命した。

 こっちはこれで良い。

 振り返ってレイラの方を見ると、流石だな。

 もう既に二体切り殺しており、最後の一体と向き合っている。

 最後の一体がレイラに飛び掛かる。

 レイラはそれを横に跳んで避けながら、獣の足を切った。


「ギャン!」


 右の前脚を切り落とされた獣は、悲鳴をあげながら逃げ出した。

 だが、レイラは追う素振りも無い。


「おいレイラ! 逃げるぞ!」

「分かっている」


 何が分かっているのやら。俺は急いで最後の生き残りを追おうとしたのだが……。


「まあ待つんだ」


 何故かレイラに止められた。思えば、こいつはさっきからおかしい。こいつの腕前なら、レッドウルフなど一撃で仕留められるだろうに。


「だが! 一匹でも減らしておかないと!」

「考えてもみろ、あの獣、逃げて何処に行くと思う?」

「そりゃ当然仲間を呼びに……あ!」

「そう言う事だ。あいつに案内してもらおう」


 レイラはわざと最後の一匹を逃がして、案内役に利用したわけだ。

 あいつは片足を切り落とされているから動きは遅いし、血を引き摺るために追跡は容易だ。

 ……流石だな、レイラ。このような場に慣れている。

 俺達は慎重に、逃げた獣の後を追うことにした。


***


 崖を登り、谷を下り、木々を抜けて……。と、中々険しい道程を抜けて俺達はついにレッドウルフの巣にたどり着いた。

 レッドウルフの巣は、山道を随分と逸れて歩き続け、草の一本も生えていないような不毛な岩場にあった。

 自然に発生したのか自分達で掘ったのかはわからないが、連中は岩場に空いた大穴を住処にしているようだった。

 目視できる範囲で言えば、噂の親玉が1匹、他に5匹ほどいる。

 親玉以外の奴は先程の奴と同じサイズなので、脅威には至らない。

 だが、問題は親玉である。デカい。そりゃもう、デカい。全長2メートルぐらいありそう。


「なあ、レイラ……。本当にあれとやるのか?」

「当然だ。私達が何をしに来たと思っている」


 そりゃそうなんだけど……。はあ、こいつの胆力が羨ましい。


「だが、どうする? 真正面から責めるのはさすがに危険だ」

「そうだな……ハルイチが囮になって、その隙に私が後ろから切る」

「ふざけてんのかお前は」

「ふざけてなどいない……が、少し言葉が足りなかったな。つまりだな、ハルイチは石か何かを投げて、連中を挑発する。親玉は簡単には動かないだろうから、君を追って来るのは周りの雑魚だ。その隙に、私が親玉を一対一で戦って仕留める」

「……そう上手くいくか?」

「代案があるなら聞こう」


 言葉に詰まる。レイラのが良い案とは思わないが、かといって代案があるわけでもない。

 ……仕方がない。


「わかった。やろう」


***


 俺は息を殺して連中の巣に近づいた。臭いで気付かれない様に、出来るだけ風上に立つなどの工夫も忘れない。その甲斐あって、石の射程圏内までは近づくことが出来た。

 背後に隠れているレイラに視線を向けると、頷きで返された。準備はOKだ。


「行くぞ……」


 狙いは親玉の周りの雑魚。

 俺はそこら辺で拾った石を振りかぶって、投げた。

 石は順調に巣の中に飛び込んでいき、がっつりと当った……親玉に。


「グガアアアアアアア!」


 怒りの絶叫を上げ、親玉が巣から飛び出てくる!


「やべえミスったああああああああああああああ!」


 しかもまずいことに、親玉だけでなく残りの5匹も一緒に追いかけてくる。

 俺は6匹のレッドウルフに同時に追われるという悪夢のような状況に陥った。

 っていうか、レイラの奴! 何が『親玉は簡単に動かないだろうからな』だ! 滅茶苦茶アクティブじゃねーかあああ!

 振り返って反撃の一つもしてやろうと思ったが、6対1では流石に無理だ。

 俺は死ぬ思いでレッドウルフから逃げていた。


「ギャン!」


 その時、1匹のレッドウルフが悲鳴を上げてぶっ飛んだ。


「ギャン!」


 続いてもう1匹。

 何事かと思ってみると、どうもレイラが石を投げつけてくれたようだ。

 雑魚のレッドウルフどもはレイラを敵と認めたらしく、5匹揃ってレイラの方に駆けだしていった。

 ……こうなれば話は別だ。俺を追いかけているのは、俺に石を当てられて頭に血が上っている親玉1匹。これぐらいなら、やってやれないことも無い。

 囮役が入れ替わっただけ。そう考えると、納得できる。

 俺は槍を構え、レッドウルフの親玉と向き合った。


「来い! 相手になってやる!」


 親玉の振るう爪を槍で受ける。


「ぐっ……!」


 少し力を逸らすように受けたっていうのに、何ていう膂力だ……。

 受け止めるのは無理だと悟った俺は、何とか後ろに飛んだ。

 参ったな……こいつは本当に化け物だ。力比べは絶対にしちゃいけない。

 爪の攻撃を避けつつ、その胴体を狙って槍を突き出す。

 しかし、相手も反射が早く、簡単に弾かれてしまう。

 このままじゃ戦いが長引くだけだ……。俺は流石にこんな化け物よりも体力は無いので、先に力尽きるのは俺。

 どうすればいいのか……。

 おれはジリジリと後退し続け、ついには崖に追い詰められてしまった。

 このままじゃ崖から落ちてしまう。いや、それ以前に足場が崩れるかも。なんかグラグラしてるし……。

 ……ん? 足場が崩れそう? もしかしたらこれって使えるんじゃ…………かなり危険だが、やって見るか!


「うら!」


 俺は思い切って、全力で槍を振るった。

 ただし狙いは親玉じゃない、その足場だ!

 元々不安定な足場、それに男一人と化け物一匹、支えるだけでもやっとだった。そこに槍の衝撃を加えてやれば……!


「グガア!」


 そう、決まっている、足場が崩落するんだ。俺とレッドウルフの親玉は、崩れる足場に飲まれて谷底に落ちていく。

 だが、俺はこんなけだものと心中なんて御免だ!


「届け!」


 俺は必死で槍を崖に突き立てた。

 ザクッ! と言う小気味い音を立て、槍は崖に刺さった。

 ……ふう、何とか一命をとりとめたか。

 俺と違って捕まる物の無いレッドウルフの親玉は、崖の底に落ちて行った。

 これで何とか討伐完了だ。


「相変わらず、無茶をするなハルイチは……」


 崖の上から、レイラの心底呆れたような声が聞こえた。


「レイラがもうちょっと早く来てくれたら、こんな無理をしなくて済んだぞ」

「それは済まなかったな」


 ごちゃごちゃ言いながらも、レイラは俺を崖の上に引き上げてくれた。


「討伐完了だな」

「だがな、ハルイチ。レッドウルフの親玉は谷底に落ちてしまった。間違いなく殺したと証明する為に牙か爪が欲しかったのだが……」

「あ」


***


 結局、ファニーさんの輸送隊を一度だけ無料で護衛するという事で手を打ってもらった。その際にレッドウルフが一匹も姿を見せなかったことで、ようやく信用してもらえた。


 ま、いろいろ苦労はあったけど、こうして俺達の紅茶の買い付けは成功に終わった。


魔物討伐終了です。

そろそろシリスタ編も終わりに向かおうとしています。

次はさらに大きい舞台に進むので、お楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[一言] 臭いで気付かない様に、出来るだけ風上に立つなど ❌                 風下      ⭕️
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