経営会議
その日の夜。俺はリネットと二人、作戦、もとい経営会議を行っていた。
「ハルイチさん。売り上げを二倍するなんて言ってましたけど、何か見込みはあるんですか?」
「具体的にこうすればできる! ってところまではさすがにちょっと決まってないな。でも、俺は経営の知識が豊富だから、出来ないことは無いと思う」
実際経営したことは無いけど、フェイスブックとかで経営者の人と連絡とったりしたことあるし、大丈夫だと思う。
「まず考えられるのが、多角経営化だよな」
「タカクケイエイ?」
「ああ。簡単に言えば、商品の種類を増やすのさ」
「新しいパンを開発するんです?」
「いや、新しいパンじゃあ需要がかち合う。新商品が売れても、既存の商品の売上高が下がるんじゃ意味が無い。俺が考えてるのは、補完財の販売だ」
「ホカンザイ?」
……いちいち説明が必要なのか。
「つまり、相互に補完し合えるような商品の事さ。パンに対していうなら、ジャムとかバターだな」
「うーん……」
いいアイデアだと思ったのだが、リネットは難しい顔だ。
「何か問題があるのか?」
「そうですね……出来れば止めて欲しいです」
「何で?」
「ロルカ村には、既にジャムやバターを売っている店があります。ジャムは農家の方の、バターは牛を飼っている方の貴重な収入源です」
「別に競合する相手がいるからと言って心配はいらない。シリスタあたりから安く買い上げて販売すれば……」
「いえ、そう言う問題じゃないんです」
ん? どういう事だろう。
「この村では、大体誰が何を販売するかは決まっているようなものなんです。もし私達がジャムやバターを売り始めたら、他の村人たちは私達を非難するでしょう」
……成程。自由競争と言うものが根付いていないが故の事態か。
しかし、それは上手くない話だ。新しい商売に手を出した結果、村人の反感を買って売り上げ激減。これでは本末転倒どころの話では無い。
「そもそも、お父さんは売上2倍なんて言ってましたけど、あれは絶対に無理だと思っているから言ったんです」
「無理、かね」
「断言はしませんけど、厳しいです。そもそも、このロルカ村と言う村自体が豊かな村ではないんです。たとえどれだけ美味しいパンを作ったとしても、それを今までの二倍買ってくれるだけのお客さんがいないんです」
……ふむ。買いたくても買えない、か。誰もが質素な生活を送っているのなら、それも無理からん話かもしれない。
単純に言うと、この村に存在する貨幣が足りないのだ。それでは二倍の売り上げを達成するなど無理なのか……?
……いや、違う。それはあくまでこの村の中に限った話だ。
「リネット。この村には確か、商人が来るんだよな?」
「ええ。一月に1回ほど来られる商人の方が5人程いらっしゃいます。大体バラバラの日程で来られますから、毎週誰かしらは来ていると考えていいかと」
「狙い目はそこだな。村の中で貨幣が足りないなら、外から持ってきてもらえばいい。つまり、俺が考えるべきは外の世界、とりわけ商人にアピールできる商品の開発だ」
「で、でも、村の他の店と被るような商品は……」
「わかってるよ。他の村人の反感は買わない。あくまで作るのはパンだ。外の世界にアピール出来るような、飛び切りの新商品を開発してやる! リネット、手伝ってくれるか?」
「はい!」
こうして、俺とリネットの新商品開発が始まったのである。
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