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出資の条件

お願いします! 俺を雇って下さい!」


 場所は再びロルカ村。パン屋に戻った俺は、マラカイさんに必死で頭を下げていた。


「お前はシリスタで仕事を探すんじゃなかったのか?」

「探したんですけど、全く雇ってくれるところが見つかりませんでした!」

「『俺はこの村に収まる器ではない』とか散々好き勝手なことを言っていたくせにな」

「もう! お父さんったら、何でそんなに意地悪言うのよ!」


 リネットが割って入ってくれた。


「リネット。だがな、うちだって裕福なわけじゃないんだ。余計な人員を雇う余裕は……」

「余計な人員なんかじゃないわ! ハルイチさんは私の命の恩人よ! ハルイチさんがいなかったら、私盗賊に攫われていたかもしれないのよ!」

「だが……」

「いいじゃないか、あんた」


 今度はアナベルさんも加勢に来てくれた。


「リネットが世話になった分、あたし達もちゃんと恩返ししないと見っともないよ。それに、このお兄ちゃんは盗賊を倒せるほどの腕前なんだよ。きっと仕事の方もしっかりこなしてくれるさ」

「むう……」


 マラカイさんは自分の劣勢を悟ったらしい。ここはあと一押しだ。


「お願いします! 俺、一生懸命働きますから!」

「ほら、ハルイチさんもこう言ってることだし」

「あんた」

「……わかった。暫くの間、お前を雇ってやる。ただし、役に立たないと思ったらすぐに追い出すからな。覚悟しておけ」

「はい! 有難うございます!」


 こうして俺は、最初の足場を作ることに成功した。


***


 俺の仕事は住み込みで行う。この小さなロルカ村には賃貸などもないし、宿屋に泊り続けるほどの蓄えがあるわけも無いので融通を利かせてもらった。

 さて、そのパン屋での仕事ぶりはどうかと言うと、俺は上手くやれていると思う。

 そもそも、パン屋と言うのはパンさえ焼いていればいいと言う訳でもない。

 材料を仕入れる、水を引く、販売する、帳簿をつける、薪を割る、火を起こす、全てがパン屋の仕事である。まあ、俺の世界ならいくつかは電気やガス、水道などで代用も出来よう。しかしこの世界では全てが手動である。単純作業ではあるが、仕事はいくらでもあった。

 それに住み込みで働かせてもらっている以上、家事に関わることもしないわけにはいかない。料理はリネットやアナベルさんの仕事だから、俺は専ら家の修繕や買出しがメインだ。

 アルミリアの言った通り、俺はこの世界では強い体を持った人間らしい。力仕事に関していえば、あんなに体格が良いマラカイさんより活躍することが出来た。

 

 そうして二か月ほどリネットのパン屋で働いたのだが……賃金が安い!

 最初の一月は給料が出なかった。二月目に貰えたのは、銀貨10枚。俺の感覚で言えば、銀貨一枚は日本円にして1000円ぐらいなので、一月の給料は一万円。

 衣食住の面倒を見てもらっているので単純には言えないが、これだけ見たら……ブラックってレベルじゃねーぞ!

 まあ、そもそも人出が増えたからと言って売上が急に伸びるようなことも無いので仕方がない側面もあろう。

 しかし、このままでは資金がまるで貯まらない。起業など夢のまた夢である。

これならレイラと組んで傭兵でもやっていた方が儲かるのでは……いやいや、それは俺のプライドが許さんぞ! あくまで商売で身を立てる。それが俺の夢見るビジネスマンのあるべき姿である。

……となれば、俺のやるべきことは一つだ。


***


「二号店を出店させてほしい?」


 あからさまに呆れた様子でマラカイさんは言った。

 まあ、無理も無い話だろう。働いて二か月にしかならない俺が出店させてほしいなどと言い始めたのだから。


「はい。シリスタに、このパン屋の二号店を出店させてほしいんです」

「資金はどうする?」

「貸してください」

「論外だ」


 ……まあ、それはそうだよな。だが俺は二か月間この店で働いて、ここの蓄えがどのぐらいのものなのかは大体把握している。働けなくなった時等に備えてであろうが、金貨300枚ぐらいは有ろう。金貨1枚は銀貨10枚と同価値なので、日本円では300万円ほど。実際にはそれよりも少し高いので、330万円ぐらいだろうか。

 この世界は土地が安いので、金貨100枚から150枚もあればシリスタにも出店できるだろうと読んでいる。

 しかし、それは蓄えの半分近くを貸せと言っているに過ぎない。幾ら相手が娘の命の恩人と言えど、おいそれと出来るものではないだろう。


「お兄ちゃん……それはさすがに難しいと思うよ」

「私も、賛成はできません……」


 今回ばっかりは、リネットもアナベルさんも渋い顔だ。

 だが、俺だって二人に援護してもらえると思ってはいない。自分がどれだけむしのいいことを言っているかは理解しているからな。


「でしたら、条件を下さい」

「条件だと?」

「はい。俺はこれから一月の間にこの店の売り上げを伸ばして見せます。そして、見事マラカイさんの期待に応えられたら、出店を許可してください。

 どれだけ売り上げを伸ばせば許可してくれますか?」


 マラカイさんは少しの間だけ考え込んだ。


「2倍だ」

「お父さん、それはいくらなんでも無理よ」

「そうだよ、あんた。出来ないならはっきり断った方が……」

「わかりました」


 3人は、驚きの表情を俺に向ける。


「これから一月の間に、俺がこの店の売り上げを2倍にして見せます」

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