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その男、春一

「馬鹿な……有り得ない……」


 俺、矢澤春一やざわはるいちは、手に持った書面を読み上げて戦慄した。

そこに書かれていたのは『お祈り』の3文字。

勿論それ以外にも色々な言葉は書かれていたのだが、つまり簡単に言うと『お前はうちの会社には要らねーよ』って事である。

 今、俺は大学四年生。季節は既に冬、月で言うならディッセンバー。俺の友人はNT〇に内定が決まったのに、俺は未だにNNT。いや、友人だけじゃない。殆どの大学生は内定をもらって、最後のモラトリアムをきゃっきゃうふふと楽しんでいるに違いない。


「何故……こんなことに……」


 今となっては何の自慢にもならないが、俺はかなり先進的な考え方をする男だった。

 就職活動へのモチベーションも高く、一年生の頃からかなりのアプローチを掛けて来た。

 ツイッターなんかでも毎日『俺の格言』を発信していて、3人もフォロワーがいる。

 これから成長するであろうベンチャー企業を率先して受けて、いつかは起業するという夢も見ていた。いつかデカいことをやってやる自信もある。

 周りの人間からは「就活のプロ」と敬われているし、「意識高い系」の称号ももらっている。なぜ俺が就職活動に失敗するのだ……。


「このままじゃ就職留年するしかないのか……?」


 何をするにも、取りあえず親父に話してみなければ。

 俺は携帯を取り出し、親父に電話を掛けた。


「あ、親父!」

『春一か……。例の商社はどうだった?』

「お、落ちちまったんだ……。そ、そこでさ! 今年は諦めて、留年するっていうのは……」

『馬鹿者! お前を東京に住まわせるだけでいくらかかってると思ってる! そんな無駄金を使えるか!』

「で、でも、もう碌な企業が残ってなくて……」

『お前が選り好みできる立場か! 雇っていただけるところを必死で探せ! 留年なんぞ許さんぞ! もし就職できなかったとしても、バイトでも何でもして働け! 自立しろ!』


 ガチャ! と電話を切られてしまった。


「だ、駄目だ……。親父にはモダンな就活事情と言うのが分かっていない……」


 その時、部屋の郵便受けに、何かが投函される音がした。


「何だ?」


 取り出したのは一通の封筒。そこには、俺にとって最後の持ち駒となった商社の名前が書かれていた。


「た、頼むぞ!」


 しかしそこには、無慈悲な『お祈り』の3文字が。


「終わった……。もう何もかも終わった……」


 もう持ち駒は無い。留年も出来ない。

 日本は、新卒を逃したらいきなり難易度がベリーハードに跳ね上がる、初心者には厳しいお国柄。俺は大企業にも入れず、起業も出来ず、バイトをしながら一生生きて行くのだろうか。


「嫌だー! そんなのは嫌だー!」


 どうしよう? 死のうか? 自殺しちゃおうか?

 ……何てな。俺はそこまでメンタルが弱くない。だが、流石に今日ばっかりはへこんだぜ。

 俺はとっておいた、秘蔵の酒を取り出した。

 『スピリタス』

 度数は90度を超える、酒と言うよりアルコールだ。ゼミの先輩に貰ったものだが、臭いをかぐだけで吐きそうになったので今まで手をつけなかった奴だ。

 何故かこいつが二本、1ℓある。

 頑張らなかった自分へのご褒美ってことで。


 今日はこいつを一気飲みだ!


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