絶対心感
今日も外は音で溢れている 自然音
人の声
そして、心の声
「祐ちゃん、おはよう~!」
「……」
「止めなって。挨拶しても無駄だよ」
「そうだね……」
『折角挨拶してあげてるのに』
『いつもイヤホンしちゃって感じ悪』
「……聞こえてるよ」
私こと灰谷祐はちょっとばかり変わった"力"を持っている。それはサトリって妖怪の使える力と同じ。テレパシーとか呼ばれる類いのもの。
私には、人の心の声が聞こえる。耳で聞く訳じゃなく、直接脳に響くように聞こえてくる。まるで絶対音感みたいに。
『あの子可愛いな~』
『はぁ。今度のテスト、赤点かな……』
『めんどくせー』
声はその人の声で聞こえてくる。誰が何を思っているのかすぐわかってしまう。意識して聞くんじゃなく、駄々長しのラジオのように嫌でも声は聞こえてきた。常時イヤホンをしているのもそのせい。耳を塞いだって聞こえるんだから正直意味はないんだけど気休め程度につけている。
小五の頃にやっと自分がおかしいんだと言うことを理解した。隣にいる人の本音がわかるなんて当たり前だと思っていた、小三の私。
成長するに従って周りの人達は嘘をつくようになった。本音と違うことを言うようになった。本音が聞こえる私は大いに困惑し、次第に人と関わらなくなっていった。
嘘をつくなら言葉なんて必要ないのに。どうして人は声に出すんだろう?本音じゃないなら何も言わないのと変わらないじゃん?
だから。
言葉は本音を隠すためにあるものなのだと理解した。
嘘をつくために人は言葉を話す。声に出す。
それだけだ。
授業中は流石にイヤホンを取りざるを得ない。普通の声と心の声が一緒に聞こえてくるためすごくうるさい。
「えー、ここ、平岡君」
『はぁ、授業なげえ』
『今日は部活サボろ』
「えっと、sinΘ=53度です」
『あれ、46じゃないんだ、当たんなくて良かった』
『次ってなんだったっけ……』
「はい、よく出来てますね。じゃあ(2)を……」
この力があるせいもあるけど昔から人混みは嫌いだった。
ほんとは学校へも来たくはないけど、行かないと母さん(心の声が聞こえる?ああ、独り言が聞こえたの?)が心配する。バスに乗るのも嫌なので高校は徒歩で行ける比較的小さな学校を選んだ。
通学路は車があまり通らない道で人通りも多くない。
心の声も滅多に……
『ごめんね』
……え?
声の聞こえた方に目をやる。見慣れた制服を着た髪をポニーテールの女子がしゃがんでいる。
その子が見ているのは段ボールの中の子猫だった。
(捨て猫……朝はなかったのに)
『私の家では飼えない……助けてあげられなくてごめんね』
声はずっと謝り続けている。イヤホンをしているのに聞こえてくるってことはこれは心の声……
音楽のボリュームを落とし離れたところから声の主を見つめる。
「寒いよね。飼える人を探してみるよ。だから待っててね」
子猫に優しく語りかける一方でさおりちゃんはどうだろうとか家で頼んでみたらとかそんな声が聞こえてきた。
「またね」
子猫にそう言うと彼女は去っていった。
……なんで?
言葉は嘘をつくためのもの。本音を隠すためのもの。
なのにあの子は本音と同じことを子猫に言っていた。
……別になんてことないか。単純に思ったことが一致しただけだろう。大したことじゃない。
子猫にふと目線を落とす。私を見てにゃー、と鳴く子猫。
「……うちでも飼えない」
猫は好きなんだけど。
今日の朝も子猫はいて、あの子は子猫の世話をしていた。待っててね、お家を見つけてあげるから、そんなことを心で言いながら。
知らないふりをして通りすぎる時鞄に「高橋千歳」と書いてあるのが見えた。同学年で、B組ってことは隣のクラスだ。
高橋さんは毎朝子猫の世話をしている。いつのまにかこの道を歩くと自然とボリュームを落とすようになっていた。里親はなかなか見つからないらしくため息をつくことも多い。毎日その様子を見て、見てみぬふりをして、高橋さんの声を聞いた。
高橋さん、案外いい人かもしれない。他の人とは違うのかもしれない。そう思い始めたその日、いつものところに高橋さんはいて、小さな愚痴が聞こえてきた。
「最近ママと上手くいってなくてね」
『どうして私はこうなんだろう。本音を言うなんてことがどうして出来ないんだろ……』
軽く失望した。
なんだ。……結局、あなたもそうなんだ。本音じゃないことを言ってるんだ。他の人と変わらないんだ。(勝手に期待して勝手に失望して、私はなんて身勝手なんだろう……)
じゃあなんで、子猫には本音を言うの?わからない。わからない……
高橋さんを見かけるようになって三週間が経った。
朝から雨が降っていて、傘を叩いて割りと大きな音がした。その雨音に混じって、高瀬さんの声は聞こえてきた。
『ごめん、ごめんね。間に合わなくてごめん……』
間に合わなくて?
傘に隠れてよく見えなかったが、高瀬さんは泣いているようだった。
どうやら雨に濡れて子猫が死んでしまったらしい。
「ごめん……ごめんなさい……」
ひたすら謝る高瀬さん。
「……なんで」
気づいたら駆け出していた。スカートが派手に濡れるが気にならない。
なんで、どうして?本音を言ったって責めもしない子猫の死体になんであんなに。
なんでなの。
その日の授業はいつも以上に上の空で珍しく二回も当てられたのにどっちもまともに答えられなかった。
◆
「私、祐ちゃんのこと大好きだよ」
『取り敢えずそう言っておこう』
「取り敢えずって何?」
「え?」
「ほんとにそう思ってるわけじゃないじゃん。どうしてそういうこと言うの?」
「祐ちゃんなにいってるの?」
「嘘なんかつかなくていいよ!ほんとのこと言って!?」
『何で取り敢えずって思ったの知ってるの?怖い』
「祐ちゃん、怖いよ」
「あの子いつもそうよね」
「見透かしたようなこと言って。気味悪いわ……」
「だって……聞こえるんだもん……」
……そうだ。言葉と本音はいつも違うことを言っていて、私はそれがわからなくて。
今思えば本音なんて知らないふりして適当に話を合わせていれば良かったのかもしれない。そうすれば何かが変わっていたの?
◆
次の朝、久しぶりに外出しようと思った。いつも通りイヤホンをつけ、曲を流す。
空気が湿っている。通学路の側を通るとき、見覚えのあるポニーテールが前を横切った。
(高瀬さん)
高橋さんは門をまがりその先の公園へに行くらしい。
手に花を持っているのがわかった。
何があるのか何となく予想はつく。
あの子猫のお墓だ。
大きめの石の前に花を添え、手を合わせる高橋さん。
「私ね、進路ちゃんと決めたの。ママともちゃんと話して決めたんだ。本音ちゃんと言えたよ。君のお陰」
子猫はいつのまにか高橋さんの進路の相談相手になっていたらしい。
『「ありがとう」』
感謝の本音。それは清々しく、今まで聞いたことがないような音ではっきり届いた。
言葉は本音を隠すためにあるもの。本音を言わないならなにも言わないのと同じ。
その通りだと改めて思う。でも全部が全部悪い訳じゃなかったのかもしれない。
高橋さん。本音だけで教えてくれてありがとう。
お陰でこれからも私は声と向き合っていける。
そっとイヤホン外しポケットにしまう。
自然音が流れ込んでくる。久しぶりに何も通さないで聞く、外の音。
声、かけてみようかな。
「ねぇ……」
その時。
「危ない!」
聞いたことのない声が叫んだ。
キキーーーッ
テレビでしか聞いたことのないような車のブレーキ音。
最後に聞こえたあの声は心の声だったのか、それとも……
fin.
お久しぶりです黒井です。
えっと、いつもに増して読みづらいと思いますが、主人公が語り口調であることと時々祐ちゃんの主観が入って書かれている点から察して頂ければと思います。
更新これからこまめにするようにしますm(__)m
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