こたつと妖精
大学四年生である俺は冬の寒さからこたつから抜け出せなくなっていた。
「寒い……寒すぎる……」
どうしても出ないといけないとき以外はずっとこたつにいる。そのせいか、こたつの周りは生活していくうえでどんどん便利になっていった。
「ここから出なくても十分生きていけるなあ」
そんなこんなで一週間以上俺はこたつで過ごしていた。
「ふう、これで彼女とかいれば最高なんだけどな」
彼女いない歴がそのまんま年齢となっている俺はエロゲーをしながら怠惰に今日も終わると思っていた。
「なあ、あんちゃん。そろそろこの生活やめないか?」
「え?」
どこからともなくおっさんの声が聞こえてきた。一人暮らしであるこの部屋にはもちろん俺しかいない。
「なあ、あんちゃんもわかってるだろ? この生活が良くないって」
周りを見渡すが誰もいない。俺はもしかしてと思い、声のした方、主にこたつの上を見やった。
「う、うわあ!」
こたつのノートパソコンの隣のプリッツの空箱を椅子に小さなおっさんが座って煙草をふかそうとしていた。
「あんちゃん。この生活は人をダメにする。わかってるだろう?」
「お、お前なんなんだよ!」
小さなおっさんに向かって俺は叫んだが、おっさんはそんなのものともしないで紫煙を吐いた。
「おっさんか? おっさんはな。こたつの妖精だよ。このこたつに宿ってたんだ」
「うぇ?」
こたつの妖精だということは、俺はおっさんに包まれながらエロゲを楽しんでいたということか? そう思うと一気にやる気がなえてきた。
「おっさんはな。あんちゃんのことが大好きなんだよ。こたつを愛してくれるし、大事にしてくれている。でもな。だからこそおっさんはあんちゃんを突き放さなくちゃいけない」
「え、あ、ありがとう」
小さなおっさんにとはいえ、なんか好きと言われると嬉しいものだ。
「ふぅー。おっさんはなあ、あんちゃんがちゃんとした真人間になれるように、神様に頼んでこうやって実体化したんだよ。普段はおっさんのこと見えないからな。レアだぞこの展開は」
「はあ」
俺はノートパソコンを閉じ、おっさんの方に体を向けた。
「はあ、じゃないよまったく! あんちゃん、この生活を十日も続けているんだぞ! わかってるのか? これで体調でも崩したらと考えてたらおっさん居てもたってもいられんかったよ」
「え、その、ごめんなさい」
なんか、すごい説教されてる。とにかくこのこたつの妖精という小さなおっさんは俺の健康を憂い出てきたらしいということはわかった。
「なあおっさん」
「ん? ああ、おっさんの名前は『田中・グレイテスト・フェアリー・太郎』っていうんだ。気軽に田中さんと呼んでくれ」
とんでもない名前だなと思ったが口にしないことにした。めんどくなりそうだし。
「じゃあ田中さん。俺の健康を憂いて出てきたのはわかったんだけど、具体的になに? 説教しに来たの?」
小さなおっさん改め田中さんは紫煙を上に吐いたかと思いきや首を横に振った。
「説教も勿論だけどね。おっさんそんなことだけのために出てきたんじゃないよ。おっさんそんな暇じゃないからね。おっさんはあんちゃんを更生させるために出てきたんだよ」
「え? やっぱり説教だけなんじゃ?」
「あんちゃん。忘れてもらっちゃ困るよ。おっさんこう見えても妖精だからね。不思議な力だって使えるんだよ」
田中さんは腰を上げてストレッチをし始めた。
「不思議な力?」
「そう。不思議な力。魔法と言ってもいいな。おっさん魔法であんちゃんを更生させるから」
田中さんはポッケから出した携帯灰皿に煙草をかたし、思いっきり伸びをした。
「そんなの受けて俺大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫! おっさん得意だから。こういうの」
正直この生活をダメだと思っているのは本当だったので、俺は田中さんの魔法を受けてみることにした。
「じゃあ行くぞぉ!」
田中さんは腰を低くして唸り始めた。
「うおおおおおおお」
田中さんが白く発光し始めた。これはもしかするともしかするかもしれない。
「かあああああああ!」
白い光が田中さんから俺に向かって飛んできた。
「う、うわあああああ!」
白い光が俺を包み込むと何かが頭の中に浮かんできた。
「こ、これは?」
走馬灯とはこういうものなのか? 過去の映像が映し出されていく。
うっすらとしていた映像が、しっかりと見えてきた。
見えてきたのはこの部屋だった。俺がとあるエロゲをしている姿だった。
「なんだろう。これは?」
延々と俺の生活が、具体的にはここ十日の映像が映し出された。
トイレに行くか、風呂に行く以外はほとんどこたつから出ずに、ぶつぶつ言いながらエロゲをしている姿を第三者視点で俺は見ていた。
『くふふ、恋ちゃん可愛いなあ。ああ、星ちゃんもいいなあ。ああ、可愛いなあ』
そんな気持ち悪い姿を俺は見せつけられたのだ。完全に自己嫌悪ものである。
「こ、こんな生活をしていたのか俺は――――」
そう思った瞬間、床がなくなり、俺は真っ逆さまに落ちて行った。
「はあ!」
飛び上がるとそこはいつもの部屋だった。腕を見てみると涎が垂れている。どうやら寝ていたようだ。
「あ、田中さん?」
見回すもどこにも田中さんはいなかった。
「夢……だったのかな?」
夢にしろ何にしろ、俺の姿を気付かせてくれたのはこたつの妖精田中さんだ。少しずつ改善していこうという気になった。まだ完全にはこたつ離れはできそうもない。
俺は心の中で田中さんにお礼を言い、こたつから出て寒い中、外へ出た。部屋から出るとき。田中さんがこたつの上で煙草をふかしながら手を振っているように見えた、気がした。
<了>
結構キャラクターを気に入ってる作品。即席で作った作品ながらも愛着がある。