悪女の懐柔計画 2
パステルのカラフルな色彩で彩られたバスルーム。
清潔感あるソープの匂いと、それに調和するような気品溢れるローズの香り。
メルヘンな猫足のバスタブの中で、私はおよそ似つかわしくない気難しい顔をして、自らの肩を揉んでいた。
「さーて、明日はいよいよ、ユルウル伯爵家主催のお茶会ね」
件の、オマケにエリオットが付いてくる最初のお茶会である。
サラはその言葉に頷いて、私の足をマッサージしていた手を止めると、紐で束ねられた書類を手渡した。
「明日のお茶会に出席されます方々の名簿ですわ。そこから、ピックアップした、いじめやすそうなご令嬢のリストがこちらになります」
その言葉に、気難しい顔が益々歪んでしまう。
「ありがとう。助かるわ。………いじめやすそうなご令嬢…ね。自分でいうのもなんだけど、すっごい性格悪いわね……」
「まあ、今更ですわディアナ様」
ほほほ、と笑うサラのほうが、最近はよっぽど悪女に向いている気がする。
私たちが言う、いじめやすそうなご令嬢とは、口が達者でなくて地位も権力もそれほど持っておらず、決して公爵家に仇討ちなど考えたりしないようなご令嬢のことだ。
しかし、それだけではない。いじめに耐えれず、病んでしまっては駄目なのだ。
悪女にいじめられても、心が折れたりしないような、強い芯を持った強かなご令嬢。悪女に便乗したバカなご令嬢にいじめられても、ガツンと言ってやれるご令嬢が必要なのだ。
そんなご令嬢を、リサーチしてはいじめ、リサーチしてはいじめ、…………うう。ほんとごめんね…っ! ごめんね!!
考えて、気分が滅入った。ほんと、自分悪女ってゆうか最低だよな…。
「また落ち込んでますの? 慰めるのも、いい加減だるいですわ」
「あなたが慰めてくれたことがあったかしら? サラ」
はあ、と溜め息をついたら、足のツボをしこたま押されて激痛した。もうマッサージ中に口答えはしない。
「そういえば、当主様がエリオット様をお呼びになったらしいですわ。もうすぐで、こちらへいらっしゃるようです」
「あら! チャンスじゃない!」
「そうですね、わざわざこちらから城へ赴こうかと思っていたところですものね。エリオット様がでかけられるときは、かならず騎士様をお連れになられていらっしゃいますから、きっとシェイド様もいらっしゃいますわ」
「わー! よっしゃー、みなぎってきたー! エリオットと一緒にお茶会行くはめになって、ヘコんでる場合じゃないわ!」
「ええ!崇高なる目的のもと、落ち込んでる暇なんてありませんわよ!」
サラはそう言うと、私に靴を履かせて立ち上がった。
一緒に立ち上がる。
「では私は、正確にいつ頃シェイド様がいらっしゃるのかリサーチしてきますわ」
「ええ、お願い」
にこりと笑って立ち去るサラ。本当に頼りになる姉御である。
私は書類に目を通しつつ、身仕度を整えることにした。