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悪女の条件。  作者: ジェル
第一条件
2/25

悪女の思惑

 エリオット第一王子に第一王位継承権はない。



 現在、王家に王の直系血族は3人いる。

 まず、齢18のエリオット第一王子、その次に5つ下のステファン第二王子、さらにそのステファン王子より3つ下のアリア第一王女だ。

 アリア王女だけが側室の娘で、エリオットとステファンは王妃の子である。

 通常ならば、エリオットが王になるだろう。

 しかし、そのエリオット第一王子に王位継承権はない。


 それは、彼が5歳のときに王位継承権を破棄したからだ。

 よって、次期国王の座は、彼の弟であるステファン第二王子にある。

 しかし、王は子煩悩で特に長男であるエリオットを溺愛しており、エリオットが継承権を破棄したにもかかわらず、第二王位継承権は未だエリオットにあった。

 これは民には知らされていないことではあるのだが、我々貴族の間では暗黙の了解となっていた。また、それについて言及することも、暗黙のうちに禁じられている。


 この国では、直系であることを重んじる風習があるため、王女のアリアも継承権を持っており、ステファン、エリオット、アリアの順に継承権があることになる。




 ここで疑問を抱くとすれば、何故、エリオットが第一王位継承権を捨てたのか、ということだろう。

 それには、我がド・シルヴァ公爵家の話をする必要があるだろう。



 我が公爵家には、現当主であり実の父であるロイネル・ファン・ド・シルヴァと、長女であり次期当主の私 ディアナ・アルゼ・ド・シルヴァ、そして、弟のセイラ・リーン・ド・シルヴァの3人と、気の許せる少人数の召使いが暮らしている。


 そう。私がド・シルヴァ公爵家の継承者である。

 そして、それを強固なものにしているのが私の婚約者の存在だ。


 私の婚約者ーーそう、あの冷え冷えとした瞳の持ち主、キーン王国第一王子 エリオット・シーガル・フェンディ・ナイ・ア・スレイ・キーファンだ。無意味に長い名前である。覚える必要はない。


 次期当主である私と結婚する、つまり、エリオットが公爵家の養子になるということだ。

 従って、エリオットは継承権を破棄せざるを得なかったのである。

 エリオットが地位を下げて、継承権を破棄してまで公爵家に養子にくるーーそれがどんなに常識外れなことであるか、想像に難くない。記憶はないが、当時のメディアはこの件で持ちきりだったと聞く。


 婚約が決まった13年前、私の弟は生まれていなかったから、公爵家の跡継ぎは私しかおらず、私が王家に嫁ぐことは出来なかった。つまり、エリオットは私と結婚するために第一王位継承権を破棄したということになるらしい。


 じゃあ婚約やめれば良かったのに。なんて、言えないけど、心底そう思う。ありがた迷惑である。

 普通に考えて、この婚約が異常なことはわかる。

 王子が降格するくらいなら、他の後継ぎのいる貴族の令嬢と婚約すればよいのだ。私としなくたって、他に王族と血縁のある爵位の高い貴族はいる。

 私だって、王子とわざわざ婚約せずとも他に相手はいたはずだ。


 なのに、まるで。

 この強引な私たちの婚約は、エリオットが私と何としてでも結婚しなければならない理由があったみたいではないか。

 エリオットが私の婚約者となって彼らに何のメリットがあるのかは、私の預かり知らぬとこだが、それによって私は公爵家を継ぐことを余儀なくされた。


 私とエリオットが結婚しなければならなかった何らかの理由。

 それを私は常に探しているが、誰も口を割ろうとはしない。

 それさえわかれば、私の目標はすぐそこだというのに。



 いずれにせよ、現状、王子に継承権を破棄させた私に、公爵家を継がないなんて選択肢はない。


 なんてことをしてくれたんだ、バカ父とバカ王とバカ王子よ。



 ーーー私は、公爵家を継ぐつもりなんて毛頭ないのだから!




 私には、目的がある。


 そして、それを達成するための目標もある。


 その目標の一つが、私が公爵家を継がないための婚約の破棄だ。






 さて。

 今まで、バカ王子がどうとか、継承権だとか公爵家だとか、色々長々と説明してしまったが。



 もう、ずばり、言ってしまおう。




 ―――私の目的は、弟に公爵家を継がせることである。




 私には、5歳年下の弟がいる。まだ12歳であるが、その整った顔立ちと優雅な物腰は、近い将来、社交界のご令嬢を手玉にとること間違いなしだ。

 私と同じ琥珀色の瞳と、父様と母様の髪の色を掛け合わせたような黄色がかったエメラルドグリーンの癖毛。

 名は、セイラ・リーン・ド・シルヴァ。

 私のイケメン教育により、彼は早くも社交界で一目置かれる存在となりつつある。


 しかし、セイラには自信というものが壊滅的になかった。

 いや、もう、自信というか希望というか、自分のことを過小評価しすぎなところがある。ネガティブの塊みたいな男だ。

 私たちの母は、セイラが生まれたときに死んだ。よくある話で、彼は、現王の妹で王宮の至宝とも唄われるほどだった私たちの母を殺したのは、自分が生まれたせいだと思っているのである。

 そんなわけないし、誰もセイラにそんなことは言ってない。

 でも、セイラはずっと自分を責めてる。美しい母、みんなに愛された母が死ぬくらいなら、自分なんて生まれないほうが良かった。母を殺してまで生きる価値が、自分にはないのだと。

 幼少期より私や父が何を言おうとも、彼のその思考が変わることはなかった。


 だから、私はセイラに公爵家を継がせる。


 何が何でも、だ。

 そうすれば、セイラは自分が価値のある人間で、必要とされている人間なのだとわかるはずだからだ。

 公爵家当主という肩書きは、セイラに自信をもたらすきっかけになるはずだ。偉大な存在であると刷り込まれている父と同じ立場になることで、自覚や経験、その他セイラに必要なものが得られる確率が上がる。このまま、公爵家の後継ぎのスペアとしての人生など歩ませたりなどするものですか。セイラは、望まれて生まれてきたのだから、母の息子であることを誇りに強く楽しく生きてほしいのだ。



 しかし、セイラが公爵家を継ぐのに、とてつもなく大きな障害がある。


 ーーーもちろん、それが、私。

 そして、私の婚約者がエリオットであることだ。


 先ほども述べたが、エリオットが私の婚約者であるために、私は跡継ぎから逃れられない。


 よって、婚約を破棄すること。

 それが、私にとっての最優先事項だ。



 これを思いつくまでに、当時10歳の私は、頭がねじ切れるほど考えた。最善の方法を。


 そして、思い出した。




 ――『つまり、それって、―――悪女ってことなのよ』




 そう言って笑った、彼女のことを。


 …最善の方法は、悪女になること。


 一度思いついたそれは、なにをどう考えても魅力的で完璧な案だった。



 強いては、公爵家のため弟のため。

 私は最大限の力をもってして、出来うる限りを尽くすのだ。






 ってことで、ディアナ・アルゼ・ド・シルヴァ、まずは最強の悪女になります!






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