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悪女の条件。  作者: ジェル
例えば、幼馴染
16/25

悪女の混乱 1

ちょこちょこ改訂しました

そして、何年ぶりかしら

 


 どういうことだ??



 私は立ちすくんだ。



 今日の夜会。

 そこそこ大きな夜会だ。

 季節の変わり目を愛でる会らしいが、まあ、今はそんなことはどうでもいい。


 私の前には、頬を引きつらせたマーガレット。

 そして、私の背後にはユルウルのお茶会で出会ったご令嬢たちが数人群がっている。

 私を筆頭に背後に広がる彼女たちは、あのお茶会の時の穏やかさはどこへやら。バサバサギラギラの扇で口元を隠し、威圧的に立って、あらいやですわ、ほら見てくださいな、あらいやですわ、を繰り返して、ひそひそとしゃべっている。

 そんな彼女たちを引き連れた私。

 まさしく悪女の風格である。



 いいぞ!

 取り巻きを連れていてこそ、真の悪女というものよね! これでいじめにも箔がつくわ!



 ……………。



 …………いや、いやいやいやいや。



 違うでしょ。

 落ち着くのよディアナ!

 何が起こっている?

 一体どういうことだ???



 私は、現実から目を背けようとして、何故このような状況になったのか考える。

 私は始め、挨拶もそこそこにパトリシア様たちとは別れるつもりだった。怖いので。しかし、悪女として、とてつもない悪印象を与えることは忘れていなかった。

 先日の屈辱を私は忘れていない!

 ここらで一発、ガツンとでかいのを!

 しかし、私に口を開く隙も与えず、彼女たちが畳み掛けた。



「ディアナ様は今日もお美しいですわね」

「本当に本当に」

「心強いですわ」

「今日からは私たちが全面的にサポートさせていただきますからね」

「ええ、ご安心くださいませ」

「ディアナ様はお一人ではありませんわ」

「エリオット様には悪いですけれど……」



 ……?


 一体なんの話をしている?

 む!? もしや、訳のわからないことを言って、私から戦意を奪うつもりだな!?


 そうはさせぬ!と、再度奮起し、先日のお茶会へのお礼を述べつつ嫌味を言おうとした瞬間、あいつが現れた。

 マーガレットである。



「ごきげんよう! これはこれはディアナ様! パトリシア様もごきげんよう!」



 にこにこと笑みを浮かべて、ラベンダー色のドレスを翻し、颯爽とこちらに歩いてくる。


 マーガレットよ。

 あなたに会いたかったけれど、それは今じゃない。私の敵は、まだユルウルのご令嬢たちだ!


 ユルウル伯爵家令嬢パトリシア様が、ごきげんよう、とマーガレットに返した。その他数人の令嬢たちとも挨拶を交わしたマーガレットは、



「ディアナ様がどなたかといらっしゃるなんて珍しいですわね!」



 私へ近づくやいなや、このぼっち!と遠回しに悪口を言った。


 くっ! 的確に1番ダメージの大きい言葉を!

 恐ろしい女だ……! 仕方あるまい!

 まずは貴様から倒さねばならないようだな!



「ごきげんよう。マーガレット様は今日も相変わらずお一人がお好きなようで」



 いつもぼっちなのは、私と並んで性格の悪いマーガレットも同じです。

 ぼっち仲間の私の言葉に、マーガレットの眉間に一瞬しわが寄ったのが見えた。

 マーガレットの精神にも大ダメージ!



「ええ、そうですの。まあ、けれど、1人が好きでなくても、誰からも近寄ってもらえない方もいらっしゃいますものね。どなたとは言いませんけど」


「あらあら、そんな方がいまして? まあ、どなたとは言いませんけど、いつ見てもお一人の方だと、皆様から勘違いされるかもしれませんわね。おかわいそうだわ。それが本当でも嘘でも」


「そうですわね。人の本質なんて誰にも見抜けませんもの。こんなご時世ですし、(ディアナ様に)騙されて結婚してしまう(エリオット様のような)方もいるかもしれませんわ。本当におかわいそう」


「本当ですわね。(婚約破棄のためには)騙されてもらわねば困りますけれど」


「……えっ? え、あ、あらいやですわ、そんなとんでもない、流石ディアナ様、おほほ」


「そんなに褒められると困りますわ、おほほほほ」


「褒めておりませんわ、おほほほほほほ」




 おほほと笑い合う私たち。

 今日も勝ちは頂いていくわ!と意気込んだ私が再び口を開いたその瞬間ーーーー



「あらあらあら、」

「まあまあまあ」

「いやですわ」

「いやですわねえ」



 後ろから、間延びした呑気な声が聞こえてきた。



 ーーーーなにごとだ???



 思わず振り向けば、ユルウルのご令嬢たちが何処からか持ち出した扇子をぱたぱたさせて、何やらマーガレットを見てひそひそとやっている。パトリシア様にいたっては、わざとらしく首を振って、ため息などついている。


 ど、どうした?

 穏やかな雰囲気はそのままだが、言っていることと仕草が不穏だ。

 似合ってないにもほどがあるが。


 マーガレットが奇妙なものを見たと言わんばかりの顔で、私の後ろを凝視している。そして、何コレ?とありありと顔に浮かべて、私へ視線を移した。

 それは、初めて見るマーガレットの表情だった。しかし、きっと私も同じ顔をしていたに違いない。


 いや、私も何が起こったのか。

 2人して顔を見合わせ、首をかしげる。

 この時、私は初めてマーガレットと心を通わせたといっても過言ではない。



「いやですわ」

「あらあら」

「ほら見てくださいな」

「あらあら」

「いやですわ」



 私たちの反応などなんのその。芝居がかった仕草で繰り返す彼女たちの姿は、そう……まさしく取り巻き。

 けど、もっかい言う。似合ってない。こわい。何が起こった。

 そんな彼女たちに恐れおののいたマーガレットの判断は早かった。にこっと貼り付けた笑みで笑ったかと思えば、さっと踵を返した。



「ではまた! ごきげんよう!」


「まっ…!?」



 待って! 置いてかないで!

 こんな、こんな訳のわからない状況の中に!!


 私の伸ばした手は宙を掻き、マーガレットは振り返りもせずに新たな敵陣へと消えていった。

 こっ、この裏切り者ーーっ!!


 恨みがましくマーガレットを睨みつける私の背後で、何やらわっと盛り上がるご令嬢たち。



「いい感じでしたわ!」

「やればできるものですわね」

「私たち向いてるのではありませんか?」

「勉強した甲斐がありましたわねえ」



 背後から聞こえてきたのは、互いを賞賛する言葉。

 なんだ。何が起こっているのだ?

 私は先程から混乱しっぱなしである。

 目を白黒させる私の元へ、集団から1人離れたパトリシア様が近寄ってくる。



「ディアナ様! さあさあ! お次はどなたのところへ?」



 パトリシア様が両手を組んで、キラキラした目で私を見た。後ろのご令嬢たちも、うんうん!と頷く。


 えっ? なんの話?

 えっ? なんの話!?


 私は取り敢えず、傲慢に鼻を鳴らした。肩の髪を片手で払って、パトリシア様にのたまう。



「な、何のお話ですの? 私はやりたいようにやりますわ!」



「ええ、存じております」

「そこがディアナ様の良いところですわ」



 だから、なんのお話ですの!?!?



「ディアナ様は………」





「ーーーまた何してるの?」





 何か言おうとしたパトリシア様の声を遮り、ボーイソプラノの甘い美声がこの場へ舞い込んだ。



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