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中曽根心中の心中  作者: 小高まあな
第二章 家政夫代わりに
6/32

2−4

 小走りで、ここなは夜道を急いでいた。

 灯が一つ消えた地下道の階段を駆け上がる。

 マンションは地下道をあがったすぐ正面だ。

 慌ただしく鞄から鍵をだして、扉を開ける。

「おかえり。どうした、急いで? なんかあった?」

 ソファーでテレビを見ていた京介が当たり前のように言った。

 その光景に泣きそうになる。

「ううん。ご飯いっぱい食べちゃったからダイエットー」

 笑う。バカみたいに。

「ふーん? 危ないよー」

 出会った時みたいな、ぽーんっと突き放した言葉。

 でも、彼はここにいる。

 帰ったらいなくなっていたらどうしようかと、思っていた。

「寝ててよかったのにー」

 言いながら靴を脱ぐ。

「んー、家主より先に寝るというのもなー」

 律儀に京介が言う。

 京介は優しい。この同居人ごっこに付き合ってくれる。

 最初は半分ぐらい冗談だった。まさか本当に心中してくれるとは思っていない。そんな奇特な人間がいるとは思えない。

 でも今、割と本気で望んでいる。願っている。

 この心地よい関係が永遠に続くようにと、それが無理ならば一緒に終わらせて欲しいと、望んでいる。

 否、永遠に続くわけなんてないのだから、今の段階で終わらせて欲しいと、思っている。

 幸せは絶頂のうちに切ってしまうべきだ。絶頂からあとは、ただ落ちるだけなのだから。幸せのあとの不幸は、格別だ。

「もー、キョースケやさしー」

 バカみたいに甘えた声を出して、バカみたいに京介に抱きつく。

「うわっ」

 慌てた彼が肩を押すから、素直に離れた。

「ね? 心中してくれる気になった? 私のこと好きになった?」

 でも顔を覗き込むようにしながら畳み掛ける。

「だから心中しないってば」

 軽い会話を繰り返す。

 いなくならないで。ここにいて。それが無理なら一緒に死んで。もう一人にしないで。一人で死にたくない。

 言葉は外に出さず、

「もー、しょうがないから、その気になるまで待っててあげよう」

 ここなはバカみたいに笑った。

「それはそれとしてぇ、明日、おやすみもらったから買い物いこー?」

「買い物?」

 甘えるように、京介の肩に頭を載せる。京介は何か言いたそうな顔でここなを見下ろしたが、結局黙ってされるがままになってくれた。

 優しい人。

「キョースケの服とかさ、買わないとじゃん? ジャージじゃ駄目でしょう?」

「ああ、そっか。うん、すみません……」

「ううんー。私、お金たくさんもってるからー。普段あんまり使わないしー」

「……うん、財布の中に思った以上に金額が入っててビビった」

「でしょ? でも、一応家計簿付けてんの、偉くない?」

「おー、意外。偉い偉い」

「もっと褒めてー!」

 はしゃいで笑う。明るい声をだす。

「だから、明日、買い物。いい?」

 明るい声のまま尋ねると、

「うん、わかった」

 京介はあっさり了承した。

 気持ちが浮き上がる。

 これで少なくとも、明日は彼はここにいてくれる。

「えへへ、楽しみー」

 ぽんっと弾みをつけてソファーから立ち上がる。

「私、シャワー浴びてくるー。キョースケ、本当にもう寝ていいよー」

「うん、わかった。おやすみ」

「うん、おやすみー」

 ぷちっとテレビを消して、京介がソファーに横になった。

 いつまでも彼をソファーで寝かすわけにもいかないし、布団でも買おうかなーとか思いながら、ここなは浴室に向かった。

 布団まで買ったら、人のいい京介のことだ。でていけなくなるんじゃないか、そうも思った。

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