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中曽根心中の心中  作者: 小高まあな
第二章 家政夫代わりに
5/32

2−3

 コットンパックをしながら、片足を洗濯機の上に載せて柔軟しつつ、歯を磨く。

 それが終わったら、化粧下地を小鼻辺りに伸ばし、塗り込み、塗り込み、塗り込み、フェイスパウダーをはたき、黄色のコントロールカラーを目の下に、ピンクのコントロールカラーを頬に塗り込み、塗り込み、塗り込む。

 リキッドファンデーションに乳液を混ぜたものを丹念に塗り込み、塗り込み、塗り込み、塗り込み、

「塗り込み過ぎじゃね?」

「んー?」

「なんでもなーい」

 パフでしっかり抑えると、フェイスパウダーを上からはたいた。マットな肌が完成する。

 ノーズシャドーをいれて、ハイライトで目元を明るくする。ピンクのチークを丸く、頬にいれる。

 ピンク系のアイシャドウをグラデーションにして塗り、目のきわは茶色で馴染ませる。黒いアイライナーを少しオーバーにひき、目頭には白いラメを少し。アイライナーは、たれ目を強調するように。下瞼にも。

 ビューラーで睫毛をあげ、つけまつげをそこにつけて、つけて、つけて、

「三枚……」

「んー?」

「なんでもなーい」

 それをマスカラで馴染ませる。下睫毛にもつけまつげを。

 眉を書いて、ピンクの口紅を塗った上にグロスを重ねた。

 そのままコテを手に取り、毛先だけを器用に巻いていく。巻きすぎないように、ゆるくふわっと、やわらかに。

 顔まわりの髪を残して、耳上の髪を高い位置で結ぶ、ハーフアッブ。

 毛先を逆立てボリュームをだし、バランスを見ながらさらに髪を巻く。

 前髪を斜めに流して、

「かんっぺき」

 ここなは鏡をみて微笑んだ。

 子どもみたいに人参を避けていたのとは違う、完全武装した女がそこには居た。

「……女ってこわー」

 一部始終を見ていた京介が小さく呟く。

「騙されたら駄目よ? 女の人は化粧でいくらでも他人になれるのだから」

 ここなが笑う。

「肝に銘じておきます」

 胸に手を当てて、ちょっとおどけて言うと、

「その必要はないわ」

 遮られる。

「だってキョースケは私と心中するんだもんね」

「だからしないってば」

 くすくすと、ここなは楽しそうに笑う。

 しゅっと香水を宙に向けて放ち、その下をくぐる。

「さってと」

 鞄を肩にかける。

「ご出勤で?」

「ええ。先に寝てていいからねー」

 軽く言い放つと、華奢なヒールを身にまとい、ここなは出て行った。

 残されたフルーティな香りに京介は宙を見上げて嘆息する。

「完全に、ペースに飲まれている」

 いいのか悪いのか。

「ってか、冷静に考えたらこれってヒモだよな」

 誰もいない部屋に言葉が響く。

 深くかかわって、傷つくのはきっと自分だけではすまない。

 いつまでもここにいるわけにもいかないし、本当に心中するわけにもいかない。だから、さっさと見切りをつけてしまわなければ。

 そう思う。

 本当ならば、いますぐにでもここから出て行くべきなのだろう。

 それでも、まだ少し、ここでくだらない同居人ごっこをしたいな、と思ってしまった。

 明日の朝ご飯は、何にしよう。

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