2−2
「む」
お昼のカレーを一口食べたここなは、小さく唸り、スプーンをくわえたまま固まった。
「なにこれ? 何カレー? 何使った?」
ここなの眉をひそめた質問に、慌てて買って来た定番中の定番のカレールーを京介は答えた。
「お口に合わなかった?」
「ってか、なんでー、私が作るのとちーがーうー」
唇を尖らせる。
「おーいーしーいー」
言葉の割に顔が不満そうで、京介は少し呆れて笑った。
「何したの?」
「特に何も」
「嘘だー」
「あー、玉葱の薄い皮を剥がしたのと、玉葱一時間半炒めたのと、水の代わりに野菜から出た水分と野菜ジュース使ったの、ぐらいかなー?」
「玉葱一時間半炒めるとか、暇なの?」
「俺が忙しいと思うか?」
ちょっと胸をはって言った。すぐに空しくなってやめる。
「ただ、玉葱炒めるのは基本だぞ?」
「だって、あれ、涙でるじゃん」
当たり前のように言われて、少し口元がゆるんだ。微笑ましい。
「しかし、キョースケと一緒だとご飯食べ過ぎて太るな」
人参は好みではないらしく、御丁寧にいちいち避けて食べながらここなが言った。
「ココはもう少しふっくらしてもいいんじゃないかと」
その細い腕を見ながら、さりげなさを装って京介が言う。
しばしの沈黙。
「ん? ココって私のこと?」
ここなが尋ねた。
「そう、嫌?」
「嫌じゃないよー。渾名、的な」
「うん、まあ」
ここなは中曽根さんと呼ぶと怒るが、京介としてはあまり、ここなとは呼びたくなかった。呼ぶたびに、心中という字面を思い出すから。
だから、こっそり考えていた妥協案だ。
「いいねー。私、ずっと渾名って近松しかなかったから嬉しいー」
「近松……門左衛門?」
こくり、とここなが頷いた。
「まんまだな。ちょっと博識だけど」
っていうか、いじめられてただろそれ、という言葉はかろうじて飲み込んだ。
「同情した?」
飲み込んだ言葉を察知して、ここなが笑う。
「いや、別に?」
「なんだー、同情から始まる恋もあるかと思ったのにー」
「結局それかよ」
ここなは、にぱっとはじけるように笑い、
「キョースケのつっこみ好きー」
当たり前のように言った。
ジャガイモを喉に詰まらせそうになり、キョースケは少しむせる。
あまり本気にしないようにしよう、と改めて思う。いちいち驚いてたら疲れそうだし。
「で、何してるの?」
「人参きらーい」
せっせと避けた人参を、京介のお皿に当たり前のように移しながら、ここなは唇を尖らせた。
見る間に山盛りになっていく人参。なんて言葉を返すか迷い、
「あのさ、嫌いなもの、あとで書き出しといてくれる?」
結局、そう告げた。
「はーい、あとはね、セロリとかー」
人参のいなくなったカレーを、幸せそうに頬張りながらここなが答える。
嫌いな野菜はみじん切りにして混ぜてやる。考えて、京介は少し笑った。