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中曽根心中の心中  作者: 小高まあな
第二章 家政夫代わりに
4/32

2−2

「む」

 お昼のカレーを一口食べたここなは、小さく唸り、スプーンをくわえたまま固まった。

「なにこれ? 何カレー? 何使った?」

 ここなの眉をひそめた質問に、慌てて買って来た定番中の定番のカレールーを京介は答えた。

「お口に合わなかった?」

「ってか、なんでー、私が作るのとちーがーうー」 

 唇を尖らせる。

「おーいーしーいー」

 言葉の割に顔が不満そうで、京介は少し呆れて笑った。

「何したの?」

「特に何も」

「嘘だー」

「あー、玉葱の薄い皮を剥がしたのと、玉葱一時間半炒めたのと、水の代わりに野菜から出た水分と野菜ジュース使ったの、ぐらいかなー?」

「玉葱一時間半炒めるとか、暇なの?」

「俺が忙しいと思うか?」

 ちょっと胸をはって言った。すぐに空しくなってやめる。

「ただ、玉葱炒めるのは基本だぞ?」

「だって、あれ、涙でるじゃん」

 当たり前のように言われて、少し口元がゆるんだ。微笑ましい。

「しかし、キョースケと一緒だとご飯食べ過ぎて太るな」

 人参は好みではないらしく、御丁寧にいちいち避けて食べながらここなが言った。

「ココはもう少しふっくらしてもいいんじゃないかと」

 その細い腕を見ながら、さりげなさを装って京介が言う。

 しばしの沈黙。

「ん? ココって私のこと?」

 ここなが尋ねた。

「そう、嫌?」

「嫌じゃないよー。渾名、的な」

「うん、まあ」

 ここなは中曽根さんと呼ぶと怒るが、京介としてはあまり、ここなとは呼びたくなかった。呼ぶたびに、心中という字面を思い出すから。

 だから、こっそり考えていた妥協案だ。

「いいねー。私、ずっと渾名って近松しかなかったから嬉しいー」

「近松……門左衛門?」

 こくり、とここなが頷いた。

「まんまだな。ちょっと博識だけど」

 っていうか、いじめられてただろそれ、という言葉はかろうじて飲み込んだ。

「同情した?」

 飲み込んだ言葉を察知して、ここなが笑う。

「いや、別に?」

「なんだー、同情から始まる恋もあるかと思ったのにー」

「結局それかよ」

 ここなは、にぱっとはじけるように笑い、

「キョースケのつっこみ好きー」

 当たり前のように言った。

 ジャガイモを喉に詰まらせそうになり、キョースケは少しむせる。

 あまり本気にしないようにしよう、と改めて思う。いちいち驚いてたら疲れそうだし。

「で、何してるの?」

「人参きらーい」

 せっせと避けた人参を、京介のお皿に当たり前のように移しながら、ここなは唇を尖らせた。

 見る間に山盛りになっていく人参。なんて言葉を返すか迷い、

「あのさ、嫌いなもの、あとで書き出しといてくれる?」

 結局、そう告げた。

「はーい、あとはね、セロリとかー」

 人参のいなくなったカレーを、幸せそうに頬張りながらここなが答える。

 嫌いな野菜はみじん切りにして混ぜてやる。考えて、京介は少し笑った。

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