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中曽根心中の心中  作者: 小高まあな
第八章 問答の末に
29/32

8−4

 翌日、ここなが京介に連れて行かれたのは、商店街だった。

「あら、京介くん、それが噂のカノジョ?」

 八百屋のおばさんが声をかけてくる。

「そう、可愛いでしょ?」

 屈託なく、京介が笑った。

 彼が当たり前のよう言った台詞に驚いて、伺うように、京介の顔を覗き込む。

 安心させるように京介が笑う。

 だからここなも、笑顔を作って頭を下げた。

「あらやだ、見せつけちゃって」

 朗らかに笑う八百屋さんに頭を下げて、通り過ぎる。

 行く先々で似たような言葉をかけられる。

「……キョースケ、人気者だね」

 京介の右手の袖を掴んでいたここなが、小さく呟く。

「やきもち?」

「……なんで」

 からかうように言われた言葉に、少しむくれる。

 京介は楽しそうに笑った。

「あ、ここだ」

 そして一つの店の前で足を止める。

「こんにちはー」

 なんのためらいもなく、ドアを開け、中に入る。ここなは少し慌てて、その後を追った。

「こんにちは、京介くん」

 中にいた女性が笑う。

「どうも。それで、こっちが昨日話した」

 ちらり、と京介がここなをみる。

「あ、えっと」

 それを感じとると、

「中曽根ここな、です」

 慌ててここなは頭をさげた。

「京介くんのカノジョさんねー。あら、可愛い」

「でしょ?」

「……あの?」

 楽しそうな二人を交互に見る。

 けれども二人はそのまま会話を続けている。

 仕方がないので店内を見回した。

 たくさんの服が所狭しと並んでいる。

 おばさん向けの洋服屋かと、一瞬思った。偏見だけれども、商店街によくあるような。

 けれども、よく見たら流行のデザインの服もおいてある。あ、あのスカート可愛い。

「ココ」

「あ、はい」

 名前を呼ばれて、視線を京介に向ける。

「ここで働かせてもらう気、ない?」

「え?」

 首を傾げる。

「あのねー、若い子向けのお洋服も仕入れたはいいんだけどよくわかんないし。一人じゃ手もまわらなくてこんな風に雑然としているし」

 店主が喋り出す。

「はあ」

「それで、京介くんの洋服、貴女が選んでるっていうじゃない? センスいいみたいだし、うちで働いてくれたらなーって思ってたの」

「あ、でも、私……」

 下を向く。

「洋服の販売とかやったことないですし、というかその、ずっと……」

「過去の職業なんて関係ないでしょう?」

 優しい声に遮られる。

 少し太めの店主が、柔らかく微笑んでいた。

「京介くんから話は聞いたわ。不幸なすれ違いがあって、お仕事やめることになったことも」

「……はい」

「私もね、この店を始めるまではずっと水商売してたし」

「え?」

 店主は意外でしょう? とおどけた。

「それって別にマイナスなんかじゃないわよ。まあ、マイナスになる時もあるけれども、少なくともうちの店においてはマイナスなんかじゃない」

「……はい」

「結局のところね、私は貴女に働いて欲しいの、駄目かしら。まあ、以前のお仕事程お給料出せないけど」

 おどけたように、店主は笑う。

 ここなは店主を見つめ、それから京介に視線を向けた。

 彼は優しく微笑んでいる。

 店内を見回す。

 例えばあそこにおいてあるスカートには、あのシャツを合わせて……。頭の中で組み立てる。

 憧れていた。

 洋服屋の店員。

 思っていたのとは少し違うけれども、それでも。

 もう一度、店主を見つめると、

「宜しくお願いします」

 頭を下げた。

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