8−4
翌日、ここなが京介に連れて行かれたのは、商店街だった。
「あら、京介くん、それが噂のカノジョ?」
八百屋のおばさんが声をかけてくる。
「そう、可愛いでしょ?」
屈託なく、京介が笑った。
彼が当たり前のよう言った台詞に驚いて、伺うように、京介の顔を覗き込む。
安心させるように京介が笑う。
だからここなも、笑顔を作って頭を下げた。
「あらやだ、見せつけちゃって」
朗らかに笑う八百屋さんに頭を下げて、通り過ぎる。
行く先々で似たような言葉をかけられる。
「……キョースケ、人気者だね」
京介の右手の袖を掴んでいたここなが、小さく呟く。
「やきもち?」
「……なんで」
からかうように言われた言葉に、少しむくれる。
京介は楽しそうに笑った。
「あ、ここだ」
そして一つの店の前で足を止める。
「こんにちはー」
なんのためらいもなく、ドアを開け、中に入る。ここなは少し慌てて、その後を追った。
「こんにちは、京介くん」
中にいた女性が笑う。
「どうも。それで、こっちが昨日話した」
ちらり、と京介がここなをみる。
「あ、えっと」
それを感じとると、
「中曽根ここな、です」
慌ててここなは頭をさげた。
「京介くんのカノジョさんねー。あら、可愛い」
「でしょ?」
「……あの?」
楽しそうな二人を交互に見る。
けれども二人はそのまま会話を続けている。
仕方がないので店内を見回した。
たくさんの服が所狭しと並んでいる。
おばさん向けの洋服屋かと、一瞬思った。偏見だけれども、商店街によくあるような。
けれども、よく見たら流行のデザインの服もおいてある。あ、あのスカート可愛い。
「ココ」
「あ、はい」
名前を呼ばれて、視線を京介に向ける。
「ここで働かせてもらう気、ない?」
「え?」
首を傾げる。
「あのねー、若い子向けのお洋服も仕入れたはいいんだけどよくわかんないし。一人じゃ手もまわらなくてこんな風に雑然としているし」
店主が喋り出す。
「はあ」
「それで、京介くんの洋服、貴女が選んでるっていうじゃない? センスいいみたいだし、うちで働いてくれたらなーって思ってたの」
「あ、でも、私……」
下を向く。
「洋服の販売とかやったことないですし、というかその、ずっと……」
「過去の職業なんて関係ないでしょう?」
優しい声に遮られる。
少し太めの店主が、柔らかく微笑んでいた。
「京介くんから話は聞いたわ。不幸なすれ違いがあって、お仕事やめることになったことも」
「……はい」
「私もね、この店を始めるまではずっと水商売してたし」
「え?」
店主は意外でしょう? とおどけた。
「それって別にマイナスなんかじゃないわよ。まあ、マイナスになる時もあるけれども、少なくともうちの店においてはマイナスなんかじゃない」
「……はい」
「結局のところね、私は貴女に働いて欲しいの、駄目かしら。まあ、以前のお仕事程お給料出せないけど」
おどけたように、店主は笑う。
ここなは店主を見つめ、それから京介に視線を向けた。
彼は優しく微笑んでいる。
店内を見回す。
例えばあそこにおいてあるスカートには、あのシャツを合わせて……。頭の中で組み立てる。
憧れていた。
洋服屋の店員。
思っていたのとは少し違うけれども、それでも。
もう一度、店主を見つめると、
「宜しくお願いします」
頭を下げた。




