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中曽根心中の心中  作者: 小高まあな
第八章 問答の末に
28/32

8−3

 心細そうなここなを宥めて、京介は家を出た。

 あの状態のここなを置いて行くことに、心配がなかったわけではない。

 けれども、眠る前よりは落ち着いているようだったし、何よりも行動するならば早い方がいい。

 地下道は避けて歩く。

 せっかく出会った場所なのに、穢された。そう感じた。

 足早に歩き、目的地に着く。

「いらっしゃいませ」

 笑う男に、

「店長か誰か、責任者呼んでもらえますか?」

 早口に告げる。

「……失礼ですが?」

 京介は男を正面から睨みつけた。

「ここで働いていた中曽根ここなの、恋人です」

 言い切った。


 見るつもりもないテレビから、明るい音がする。

「はやく帰ってこないかな」

 もう、何回目になるかわからない言葉を呟いた。

 左手首をそっと撫でる。

 好きだ、と言われた。自分の醜態を思いだして恥ずかしくなるものの、同時に京介の言葉を思いだす。

 嬉しい。

 出来れば落ち着いて、もう一度聞きたい。

 甘えている、と思う。

 図々しいとも、思う。

 自分は何もしていないのに、ただ京介から与えられているのを待っている。卑怯だとも思う。

 それでも、はやく帰ってきて欲しい。

 ソファーに倒れこむ。

 彼の匂いがして泣きそうになる。

 話したいことがたくさんある。謝らなければならないこともたくさんある。

 時計を見る。

 まだ三十分しか経っていない。

 寝室からもってきた熊のぬいぐるみを抱えると、小さくため息をついた。


 かちゃり、と鍵が開く音に、ここなは飛び起きた。

 いつの間にか、少し眠っていたらしい。

「ただいまー」

 彼の声。

「お帰りなさい」

 駆け寄って、抱きつく。

「わ」

 京介は少し驚いたような声を出したけれども、

「ただいま、ココ」

 すぐに優しく笑った。

 優しい。

 今日の京介は、優しい。

「バイト、休みもらったからさ」

「うん?」

「明日、出かけない? 一緒に行って欲しいところがあるんだ」

「うん」

 一も二もなく頷いた。

 京介が安堵したように笑う。

 彼が望むことならば、なんだってする。そういう気持ちだった。

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