8−2
ここなが目を醒ましたとき、最初に視界に入ってきたのは、黒髪の頭だった。
事態が把握出来ず、首を傾げる。
左手に巻かれた包帯に、眠る前にあったことを思い出し、眉をひそめた。
いくらなんでも錯乱し過ぎていた、と少し冷静になって思う。京介には迷惑ばかりかけている。
「キョースケ?」
小声で名前を呼んでみる。
ベッドの脇の床に座り込んで、ベッドに顔を埋めるようにして、うつぶせで京介は眠っていた。
その髪をそっと撫でる。
さらさら、とこぼれる。意外と、髪の毛さらさらだな、とどうでもいいことを思う。
「ん」
京介が小さくうめき、
「……ココ」
顔をあげた。
「……あー、悪い、寝ていた」
少し伸びをする。
「ううん、ありがとう」
素直に微笑めた。
京介は、眠る前のことなんて何でもないと言いたげに笑う。
「今は……、夜の七時か。微妙に長い事寝ていたな」
「ん」
「なんか食べるか?」
京介の言葉に少し悩んで、頷いた。
京介は満足そうに微笑む。
「なんか作るよ」
京介は立ち上がり、ここなに右手を差し出す。
ここなは少しためらって、素直にその手を握った。
「行こう」
その手に導かれるようにして、ダイニングに向かう。
こつん、と足が何かを蹴った。
「あ」
それが何かを確認して、小さく声をあげる。
「ああ、そうだ」
京介は優しく微笑むと、ここなが蹴飛ばしたジッポを拾い上げた。
「これ、ありがとう。凄く嬉しい。お礼、言えてなかったから」
京介の手に握られたジッポは一つじゃなかった。
「あの、それ」
「お揃い、やったね」
嬉しそうに京介が笑う。
そして、ここなの方を手渡した。
「……うん」
ここなは小さく頷く。
「ありがとう、ココ」
本当に優しく、嬉しそうに京介が微笑む。
「ううん」
そういえば、この顔がずっと見たかったのだと思いだして、ここなはゆっくりと微笑んだ。
出来上がった炒飯を頬張る。
「ごめん、簡単なもので」
謝る京介に首を横に振ってみせる。
「美味しい」
ぱらぱらご飯をつつむような卵。
「本物みたい」
「本物ってなにさ」
呆れたように笑う。
「ありがとう」
頭を下げると京介は、少し困惑した表情をみせてから、
「どういたしまして」
柔らかく微笑んだ。
「……ココ」
「ん?」
「これ食べたら、ちょっと出かけてきていいかな?」
「え?」
思わずスプーンを取り落としそうになる。
顔色を変えたここなに、京介は少し慌てて、
「商店街。明日のバイトのこととか、ちょっと確認」
「……うん」
心細そうに頷くここなを見て、
「用事終わったら、すぐ帰ってくるから」
ね? と子どもをあやすように笑う。
「……絶対ね?」
下から伺うようなここなの顔に、
「もちろん」
京介は力強く頷いた。




