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中曽根心中の心中  作者: 小高まあな
第七章 鋭利な刃物
22/32

7−2

 気がついたら眠っていたらしい。

 ここなは目をこすりながら、体を起こした。

 枕元の時計は、正午を指していた。

 いつもならば九時には一度、京介に起こされるのに。朝食が片付かないし、朝日を浴びた方がいいって。でも今日は、その母親みたいな声は聞こえなかった。

 不安にかられて、ベッドから飛び降りると、部屋のドアを開け放つ。

 ダイニングには誰もいない。

「キョースケ」

 小さく名前を呼んでみる。

 出て行っていいとはいったものの、いなくなられると辛い、悲しい、寂しい、苦しい。置いて行かないで、一人にしないで。心中してくれなくてもいいから。もう我が侭は言わないから。だから、せめてそばにいて。でも、それもきっと、我が侭なのだ。

 感情が渦になって、脳内を駆け巡る。泣きそうになる。

 一つ、ゆっくり深呼吸する。

 落ち着いてみたら、昨日と同じように、ダイニングテーブルの上にメモが置いてあった。

 慌ててそちらに向かう。

「ココへ。バイトに行きます。朝ご飯と昼ご飯は用意してあるから。起きた時間によって、好きなように食べて」

 メモの横には、オムライスが置いてあった。

「お昼」

 とだけかかれたメモが、その上に置いてある。

 オムライスの隣には野菜炒め。こちらには、

「+ご飯とみそ汁」

 と書かれていた。朝ご飯なのだろう。

 泣きそうになる。

 あんなに色々自分は勝手気ままなことを言ったのに、出て行っていいとまで言ったのに、彼は普通に食事を用意してくれていた。

 それがどういう気持ちでなのかは、わからないけれども。

「……同情だったりして」

 小さく呟く。

 一人の部屋では、思った以上にその言葉が響いた。自分で放った言葉が、胸を穿つ。

 同情でいいと思っていた。同情から始まる恋もあるし、なんて言った。

 それでも、もしも京介のこれらの行動すべてが、同情に起因するものだとしたら、出て行かれるのと同じぐらい悲しい。

「好きだから」

 最初は、お人好しそうだし、突き放した言い方が好みだった。それだけの理由で家に招いた。万が一、心中してくれたら儲け物だと思った。

 今は本当に、本気で恋している。

 優しいところも、ちょっと唐変木なところも、料理が上手なところも、顔も、声も、体つきも、全部。

 京介は本当のところ、自分のことをどう思っているのだろう。迷惑なやつだ、と思っているんだろうか。

 考えれば考える程、泣きそうになる。

 メモをそっとテーブルに戻す。

 その際、なにか違うものが見えた。表の文字以外の何か。

 首を傾げて、メモを裏返す。

 そこには、やっぱり神経質そうな字で、

「プレゼント、ありがとう。すっごく嬉しい」

 と書かれていた。

 それから、なんか変な四角いもの。真ん中より少し上に横に線が引いてあって、その下には、ぐにゃぐにゃした何かが書かれている。

 これは、多分……、

「え、これ、ジッポ?」

 思わずつっこんでしまった。

「キョースケ、絵、下手。なんでこんなのも描けないのよ」

 思わず口元がゆるむ。笑みがこぼれる。

 ああ、どうしよう、やっぱり好きだ。

 涙がこぼれる、どうしよう。

 涙を拭って、席に着く。

 とりあえず、このオムライスを食べて、そしたら、キョースケに会いに行こう。

 彼がバイトしている喫茶店に行こう。

 どうしても、今、顔が見たい。

 オムライスを口にする。チキンライスに、とろとろ卵。

 美味しいな、と思った。

 でも、少ししょっぱい、かもしれない。


 クローゼットをしばらく見つめて、紺色の膝丈スカートと白いブラウスを手に取った。京介が一番褒めてくれた服。

 いつもより控えめな化粧。つけまつげはつけないで、マスカラだけ。できるだけ、ナチュラルメイクを心がける。

 京介は、これぐらいの化粧の方が好きなのだろう。自分の化粧する時の対応を見ていれば、なんとなくわかる。

 いつもより薄い化粧は、心もとない印象を受ける。少ない武装で戦場にでるようなものだ。

 だけど鏡をみて、出来るだけ笑ってみせる。

 大丈夫。好きな人に会いに行く女の子は無敵だから。

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