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中曽根心中の心中  作者: 小高まあな
第六章 残酷な現実
18/32

6−1

 んー、と小さくうなる。

 目の前に並べられたジッポの数々に、正直ここなは圧倒されていた。

 久慈から場所を聞いた店で、ジッポを選ぶ。こっそりプレゼントして京介を驚かせたい、と思って。

 吸ってもいい、と言ってからも京介は換気扇の下で煙草を吸うという、徹底ぶりだ。別に構わないのに。それに、いつも安い百円ライターを使っているし。

 本当に色々お世話になっているのだから、これぐらい。

 しかし、

「弱った」

 思ったよりもたくさんの種類があって、どれにしたらいいのかがわからない。

 ドラゴンや骸骨はなんかゴツいし、かといってイルカは可愛過ぎるし、シンプルなのもセンスが問われるし。

 あ、蛙とかある。全体的に緑で、上の部分に出っ張った目がついている。これでもいいかな。なんか意味わかんないけど、変わっていて。

 と、ここなが血迷いかけたころ、

「おねーさん、いいのあった?」

 店員に声をかけられた。

 首を横に振る。

「おねーさんの?」

「プレゼント」

「カレシ?」

 ここなはしばらく迷って、

「そんな感じ」

 笑って答えた。

 厳密に二人を表す言葉を、ここなは持っていない。

「ふーん、どんなのがお好み?」

「全然わからなくて」

 そっかー、たとえばーと、店員が系統の違うものを何種類か並べる。

「んー」

 それをゆっくりと見る。

 イマイチぴんとこないなーと思っていると、視線がある一点で止まった。

「あ、これ? ペアなの」

 ここなの視線を追って、店員が答える。

「へー」

 二つ一組になっているようで、くっつけて置いてある。

 単体で見るとなにか鳥がいるだけ。

「それ、フェニックスね。不死鳥」

 店員が絶妙のタイミングで言う。

 だけれども、二つをくっつけると不死鳥がハートのような形を描く。

「……これにしようかな」

 お揃いのものが何か一つあると、嬉しいし。

 それに、心中相手に不死鳥のジッポを贈るなんて、ナンセンスで素敵だ、と思う。

 永遠に続くことがあればいいのに。

「これにします?」

「お願いします。こっちだけプレゼント包装してもらって」

「はいはーい」

 はやく家に帰って渡したい、そう思うと、胸が弾んだ。



「ただいまー」

 部屋に戻ったここなを迎えたのは、静寂だった。

「あれ、キョースケ?」

 のんきそうな声を出しながらも、胸が騒ぐ。

 慌てて靴を脱ぎ、家にあがる。

 いなくなっていたら、どうしよう。

「キョースケ!」

 名前を呼ぶ。

 返事はない。

 泣きそうになるのを堪える。

 いつもは家にいて笑って迎えてくれるのに、どうしていないの?

 ふっと、ダイニングテーブルに視線を移すと、メモが一枚置かれていた。

 心臓が跳ねる。

 別れの挨拶だったら。

「やっ」

 思わず口からもれた悲鳴に、慌てて口を抑える。

 ゆっくりと手を伸ばし、メモに触れた段階で一度手をひっこめ、また手を伸ばし、それを持ち上げた。

 おそるおそる、文面を読む。

「ココへ」

 初めて見る、少し神経質そうな文字が並んでいた。

「商店街の人達のご飯食べに行く事になりました。急でごめん。 京介」

 それを読み終わり、ここなは一つ、安堵の吐息をついた。

 なんだ、出て行ったんじゃないのか。

 それでもまだ、このまま帰って来ないんじゃないか、という不安もよぎる。

「キョースケ」

 小さい声で名前を呼ぶ。

 ジッポなんかよりもはやくケータイを買うべきだったな、と少し後悔した。そしたらまだ、安心出来た。繋がっていられるから。

 これ、渡したかったのにな。

 手の中の小箱を見る。

 少し悩んで、それをテーブルの上に置いた。京介のメモを裏返し、ペンを握る。「キョースケにプレゼント」とだけ書いて、テーブルの上に並べておいた。

 少ししたら仕事にいかなければ。

 久しぶりの一人の部屋は、少し寒々しい。

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