5−4
「久慈さんお久しぶりですぅー。ちっとも来てくれないからぁ。メールの返事もくれないしぃ」
ここなの言葉に、常連客である久慈は黙って一つ頷いた。
久慈は、以前は毎週のように来ていたのに、最近姿を見せていなかった。
「仕事、忙しくて」
ぼそぼそと、呟かれた言葉に、
「じゃあ、今日はゆっくりしてくださいねぇ」
いつものように笑いかける。
「ここなちゃん」
「はぁい?」
小首を傾げる。
「最近も、同じ?」
それは彼が来るといつも言う言葉で、
「ええ、なんにも変わらないです」
微笑んだまま、答える。
「生き辛い?」
「そうですねー」
「心中したい?」
「出来たら良いですよねー」
朗らかに答える。
久慈は何かに満足したかのように、二度三度頷いた。
「ほらほら、久慈さん飲んでー」
お酒のグラスを渡した。
隣のテーブルで、楽しそうな笑い声がする。
俯いた久慈の顔は、長い髪に隠れて見えない。
このいつもの会話をしたら、久慈はしばらく話さない。
明るく会話とかを求めていない。彼もまた、自分よりも下の人間を見て安心しているのだろう。だってなんか暗いし、周りに馴染めなさそうだし、とこっそりここなは思っていた。
それで構わない。減る自尊心は既に無くなったから、それで構わない。
久慈がゆっくりと煙草を取り出した。
「はい」
条件反射で火を差し出す。
煙草に火がつく。
「久慈さん、ジッポお洒落ですねー」
煙草と一緒に取り出されたジッポを見つめる。
「こういうの、どこで買われるんですかー?」
ここなの問にぼそぼそっと久慈が答える。
「へー、お洒落ー、かっこいー」
言いながら、ある算段を脳内で立てた。