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中曽根心中の心中  作者: 小高まあな
第五章 問題視と楽観視
14/32

5−2

 いつもの地下道に通りかかる。灯はいつの間にか、新しいものに変えられていた。今日も壁の女の子が笑顔を浮かべている。

 笑っているのに、何故か気味が悪い。嫌いじゃないけど、薄気味悪い。いつもと同じことを思い、通り抜ける。

 ふっと、背後に気配を感じた。

 少し遠くに、誰かいる。足音がある。

 ここなは数歩自然に階段をのぼり、一気に駆け上がった。後ろの足音もそれに合わせて早くなる。

 かかかか、と自分の足音が地下道に響くのを感じながら、階段をかけあがり地上にでる。後ろはふりかえらない。

 そのまま走って、自分のマンションに逃げ込んだ。

 エレベーターの代わりに、横の非常階段を四階までかけあがり、慌てて鍵を開ける。

「おかえりー。どーした、慌てて?」

 いつもの調子で京介が出迎えてくれた。

 先に寝ていていいと、何度も言っているのに、京介は絶対にここなが帰宅する時間には起きている。たまに、その前に眠っていた気配があるので、わざわざ起きてくれているのだろう。

 そこまでしなくていいのに、と思う。そんなに気を使ってくれなくていいのに。

 それでも、家に帰ると人がいて「おかえり」と言ってくれるのは、部屋に明かりがついてるいのは、やっぱり安心する。

 こんな時は特に。

「うーん、ちょっと」

 後ろ手で鍵をかけ、チェーンもかける。

「なんか、やっぱり尾行されてるかなーって」

 淡々と呟いた言葉に、

「はあ?」

 京介が怪訝な顔をした。

「何それ? ストーカーってこと? マジ? 危ないなー、平気? 相手誰だかわかる? いつから?」

 立て続けに並べられた質問に、

「キョースケがくるちょっと前ぐらいからあって、毎日とかじゃなくてたまにだから偶然かなーとは思ってたんだけど。やっぱり偶然じゃないかも」

 靴を脱いで部屋にあがると、眉根を寄せた京介がソファーから立ち上がって近づいてきた。

「大丈夫? 平気? やっぱり夜道危ないって。どこで?」

「うーん、なんかいつも地下道で待ち伏せされてる、気がする。週一ぐらいで」

「だから地下道危ないって言っているじゃん」

 少し苛立ったような声。

 それに思わず、少しだけ笑ってしまう。嬉しくて。

「何笑ってんの?」

「笑ってない。怖かったの」

 そう言ってちょっと抱きついてみる。彼は困ったように手を動かして、結局突き放したりはしなかった。

 決して、背中に手を回してくれたりもしないけれども。

 以前は、最初は、あんなに突き放したものの言い方をしていたのに。心配だとか、危ないとかいいながらも、どこか距離をとっていたのに。

 それが今は、心配してくれる。

 悲しいぐらいに。

「地下道通らないように」

「んー、わかったー。近道なんだけどなー」

 頭の上からふってきた声に、体を離し、唇を尖らせてみせた。

「ココ」

 窘めるように名前を呼ばれて、肩をすくめる。

「わかってる」

 怖かったのは事実なのだから。心配されるのが痛くて悲しくても、心配されたかったから我が侭を言ってみただけだ。

「ならいいけど」

 まだ少し、どこか納得していないような顔をしながらも、京介は頷いた。

「っていうか、俺よく知らないからイメージだけど、送迎とかってあるもんじゃないの? ココとかの店って」

「んー、ないこともないけど、私、家近いからさ。だってほら、歩いて十分だもの」

 微笑んで見せるけど、京介の表情は和らがない。険しいままだ。

 その表情に気持ちが焦る。お願い笑って。心配はして欲しいけれども、そんなに険しい顔をされるのも不安になる。私のこと、嫌いなんじゃないかって。

「じゃあ、危なくなったら連絡するから迎えにきて」

 だから、いいことを思いついた、と両手を打ち合わせる。いつもの明るさで。いつものように少しおどけて。

「連絡って」

「電話するから」

「どこに?」

 真顔に問いかける京介に、ここなは少し固まる。

 ここなの家には固定電話はない。

「……そういえば、今まで一度も聞いたことないけれども、キョースケ、ケータイは?」

「持ってないよ」

「……なんで今時ケータイも持ってないの?」

「ケータイ持つお金があったら他のことに使うし」

 沈黙。

「……まあ、今までこの点に気づかなかった私がバカだわ。今度一緒に買いに行きましょう。安いのでいいわよね?」

「別にいらな……」

「私がピンチの時に助けにきてくれないの?」

 真顔で言い切る。

 内心では会話の矛先を変えられたことに安堵していた。

「俺、ヒーローじゃないんだけど」

 小さく呟きながらも、それでも京介は頷いた。

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