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中曽根心中の心中  作者: 小高まあな
第五章 問題視と楽観視
13/32

5−1

「ねぇー、ここなー。最近なにかあったぁー?」

 お店の女の子の言葉に、ここなは首を傾げた。

「何か?」

「いいこと。男でも出来た?」

「そんなこと、ありませんよー?」

 笑って言葉を返す。

「最近、機嫌いいから」

「それ、最近みんなに言われるけど、なんでですかねー。なんにもないのにー」

 ここなはさらりと流すと、私服に着替えた。

「それじゃあ、お先でーす」

 微笑んでその場を立ち去る。

「あたし、あの子きらーい」

 後ろから聞こえてきた声は、聞こえないふりをした。


 夜道を歩きながら考える。

 昔から、何故か同性には嫌われた。男に媚びを売っていると言われて。別に、そんなつもりなかったのに。

 かといって、男にモテたわけでもない。男性に相手をされるようになったのは最近だ。

 学生時代の自分は、暗かったな、と今なら思う。

 心中という言葉の意味を理解し、母親に対してなんていう名前付けてくれたんだ、と思ったころから、特に暗くなったと自分でも思う。

 卑屈になった。卑屈になれば卑屈になるほど、おもしろがっていじられた。考えてみたらいじめではなかったのだろう。彼らにしてみれば、変な名前のクラスメイトをいじって遊んでいただけだったのだろう。

 だけど、近松と呼ばれるのも、いつ死ぬのかと聞かれるのも、あの時のここなには本当に堪え難い苦しみだった。

 大人になって、気がついた。名前について親の学のなさとか、だから近松って呼ばれていたことなどを面白おかしく話す。それだけで、みんな面白いぐらい簡単に同情してくれることに。

 ポイントは面白おかしくしながらも、それでも少し自分が傷ついたことを示すことだ。重過ぎる話はひく人も、このレベルならうまく対応してくれる。

 同情してお客になってくれるのは、純粋に嬉しいし、ありがたい。

 それでも、同情されるたびに少しずつ自分の何かが削られていく気がしていた。多分、京介の言うところの、自尊心が。

 本当に不幸な人間を見たら気を使わなければいけない。気軽に可哀想なんて言えない。だけど、ここなの話レベルの可哀想な話ならば、ここなちゃんは大変だったねと言って同情するふりをすればいい。そうして彼らは思うのだ。世の中には可哀想な人間もいるものだ、自分に比べて。

 他人の不幸で自分の人生の幸せを実感する。そのために、ここなの自尊心は消費されていく。

 それも今では特に何も感じない。きっと、削られ過ぎて自尊心が無くなったのだ、と思っている。

 それでも京介が過度な同情をしたり、同情した自分に酔ったりしないでいてくれることは嬉しい、と思う。

 優しく慰めてくれるようなことをしたのは、結局花火大会のあの日だけで、あとは特にいつもと変わらない。口を開けば心中はしない、と言い張る。

 そうやってひきずらないで居てくれるところは嬉しいけれども、劇的に変化しない関係に少し苛立ってもいる。

 来年も来よう、という彼の言葉は聞こえていた。それでも、聞こえないふりをした。

 本当は、彼がずっと傍に居てくれるなら、このまま頑張って生きていこうかな、と思ったこともある。

 でもその度に、そんな自分を戒める。

 いまのままずっと、が続くわけないのだ。だから人は離婚をするのだ。結婚でさえも、二人の愛を縛り付けてはおけない。

 そうじゃなくても、いつかはどちらかが死ぬのだ。死に別れるのだ。

 それならば、愛がもっとも輝く時に、輝くまま終わらせるべきだ。

「一緒に死にましょう」

 唇だけで呟いた。

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