第二式:新哉は何を拾ったのか?
玄関の前まで来ると、重たかった袋をゆっくりと地面に置いた。
久し振りに味わった楽な感覚に、二人は揃って息を大きく吐く。
「つ、着いた……」
「うん……でも、お母さん怒るかな?」
新哉の何気無い一言によって、場の空気がいきなり重くなる。
こんな時のお約束は『弟の責任は、兄の管理能力の欠如』とストレートに言われる例だ。
しかも、今回は間違い無く上記そのもの。
自分が食糧を撒き散らしてしまっただけに、言い訳をする立場が無い。
「うっ!……そりゃあ、地獄巡りを経験するかもしれんな……」
声が家内へ聞こえてしまわない様に、小声で耳打ちをする。
これが母の耳に入ったりしたら、今度こそ情状酌量の余地は無い。
だからこそ、この機会に悪行を一気に話してしまおうと企む。
「この前もな、悠祐に言うなら、新哉のしつけをした方が得よ!とか何とか言われたんだぞ?」
まるで泉の様に溢れ出る言葉を、勢い良く弟に吐き出して行く。
「でも、お母さんが、お兄を下の名前で呼ぶのは珍しいよね」
「そう!だから注意しないといかんのだ」
ちなみに、悠祐が母から下の名前で呼ばれる事は万が一にも無い。
つまり、悠祐と呼んで来る時は普通に危ないという事になる。
「それに、昨日も……って痛っ!!」
耳打ちの途中、いきなり悠祐のこめかみに走った鋭い痛み。
それに耐え切れず、患部を抑えて蹲る。
「あっ……いたの?」
そして、悠祐の耳に届いた姉の声を聞いて、すぐに状況を理解した。
これは、姉きが扉を開けた事によって起きた、こめかみの打撲。
痛みのせいで軽く涙目になりながらも、悠祐は顔を上げる。
「あ、姉き……」
文句の一つでも言おうとする悠祐だが、姉は別の方向を向いていた。
関心は、完璧に弟の新哉へ注がれている。
「あの……姉」
「お姉ちゃん、これ!頼まれた買い物」
悠祐の言葉を遮り、新哉が言葉を放つ。
「偉い偉い!じゃあ運ぶの手伝ってくれる?」
「うん!」
「あ、あの……」
取り残された悠祐を他所にして、二人は袋を抱えるとそのまま家の中に入って行った。
「新哉、お前まで……」
悠祐の思いも虚しく、玄関の扉がばたんと音を立てて閉じる。
(み、未来さん……?普通そこまで本気無視しますか……)
心の中で姉の事を本名で呼びながらも、取り残された悠祐は複雑な心境で家の中に入った。
玄関の扉が、何だかいつもより重く感じた。
―――――――――――
「で、その“良いお知らせ”って何なんだ?」
晩飯を済ませると、悠祐は用があって新哉を自分の部屋に招いた。
悠祐が聞きたいのは、何を隠そう、例の『良いお知らせ』である。
この際、下らない話でも聞いて置かないと、怪我を負いながら買い物を終えた意味が無い。
内心、あまり期待はしていなかった。
「知りたい?」
「うん、知りたい」
話を先へ先へと焦らす新哉にもめげず、悠祐は根強く訪ねて掛かった。
「それは……」
笑顔を浮かべながら、新哉はポケットの中に手を入れて中を探る。
「これだよ!お兄」
そして、素早く手を出すと、得意気に悠祐の目の前へそれを掲げた。




