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第一式:時間の浪費

「ご来店、誠にありがとうございましたー!」

夕暮れ時に賑わう近所のスーパーで、買い物袋を提げた少年が一人。

両手の袋には、いかにも買い溜めが狙いとでも言いたそうな量の食料が入っている。

しかも、見た目に反していない袋の重さ。

晩御飯の調達と、言わゆるお使い係を母から頼まれた訳である。

「あっ!てめ、新哉しんやも手伝え!」

兄の事など気にせず、ウィンナーを呑気に試食している弟に呼び掛ける。

「お前そうやって、晩御飯食べられない……とか言うんじゃねえぞ?」

「らいじょーふ(大丈夫と言っている)だよ!んぐっ、お兄は買い物終わったの?」

喉に詰まらせる直前まで試食品を頬張る弟は、兄として微妙に赤っ恥な時もある。

例えば、今とか……今とか、今の行動に。

それでも、自分の事を慕って『お兄』と呼んでくれる所に弱いのだ。

「何でも良いから、早くこれ支えてくれ!」

「うん、分かった!」

側に寄って、下から両手で袋を支えながら進む。

周りから見れば、これほど珍妙な光景はめったに拝めない。

「お兄、何か周りの人こっち見てない?」

「気にするな、弟よ……世間は冷たいもんだ」

一人赤面しながら、袋の影に顔を隠す様にして家路を急ぐ。

暫くこの店には来れそうも無い……と、真剣に思える状況であった。

「し、新哉……本当に支えてるよな?」

「う、うん……」

それでも、何とか順調に歩けている二人は、今現在、人通りの少ない道を進んでいた。

理由は、足元が全く確認出来ないから。

空き缶を踏み、天下の大通りで派手に転倒。

なんて事になったら、それこそ危ないし、何より普通に出歩けなくなる。

「後ろの状態は?」

「人無し、障害物は……右と左に電柱あり」

「よし……じゃあ、このまんま真っ直ぐな」

余裕を装うが、迫る筋力の限界を感じていた。

後ろは見えないし、もちろん下も確認不可能。

「あっ!お兄、お兄」

突然、新哉は進行方向に何かを見つけたらしく慌てて口を開く。

「何だよ?後ろから誰か歩って来たのか?」

「違うくて……その」

ぐいぐいと進む兄のスピードに戸惑い、発見したそれの事を言えない。

「だから……下」

「えっ?」

聞き返した刹那、何かを強かに踏んだ感触。

声を出す前に、体が少しずつ斜めに傾いて行くのが分かった。

そして、上にのしかかる様にして迫る袋。

(新哉ぁ……、今度からそういう事は転ぶ前に言うんだぞ……)

と、地面に付くまで数瞬の間に考えた。

「お兄……無事で」

新哉は、助ける事もせずに成り行きを見守る。

次の瞬間、袋の中身をぶちまけながら、兄が激しく地面に落ちたのは言うまでも無い。

 

―――――――――――

 

「お兄、大丈夫?」

「あいてて……」

あれだけ滑稽に落ちていながら、幸運にも擦り傷だけで済んでいた。

結局、撒けた食糧を二人で回収していて、帰りが遅くなってしまった。

辺りは暗くなり、もはや晩飯の時間では無い。

「ふふん、でもお兄に良いお知らせがあるよ」

嬉しそうな顔で、新哉はポケットに手を入れて中を探った。

「お、おい!お前いきなり手ぇ離すなよ!」

急に重さを増す袋に、ぐっと両腕に力を込めて何とか堪える。

「あっ!忘れてた」

「ったく……家に帰ってからで良いから、な?」

「うん」

そしてまた、新哉が代わりに後ろを確認しながら進んで行く。

遅い様だが、今から必死に言い訳を考えている二人であった。

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