ジャングル⑥
ジリリ…… カチッ。
男は目覚ましを消してベットから起きて、冷蔵庫に向かい中から牛乳を取り出しコップに牛乳を注いで一気に飲み干す。
カーテンを開けベランダにある植物に水をかけている。
「ん眩しいなぁ。」
男の部屋は建物の10階にあり、綺麗な朝日が見える。そして男は朝日を眺めたあと、カレンダーを見て今日の日付を見た。
今日は9月26日。
「まだ少し暑いなぁ」
台所に向かい手慣れた手つきで朝ごはんを作り食べて、着替えて時計を見て言った。
「やっべぇもう8時すぎてるし。」
男はかばんを開けて忘れ物がないか確認したあと、足早に玄関にむかって歩いて行った。
男の名前は仲田ユウ。
年齢は23才で今年大学を卒業して、大手の会社に入ったばっかりの新入社員だ。趣味は旅行で、大学の時からいろんな国を回っている。
玄関を閉めてエレベーターに向かい、ボタンを押してエレベーターがくるのを待っていたら後から女の人の声が聞こえた。
「ユウおはよう。」
ユウは後を向き挨拶を返す。
「おはよう。アスミ」
女性の名前はアスミ。
年齢は20才かなりスタイルがよく、美人である会社のお嬢様でユウの幼なじみだ。
エレベーターに乗り1階のボタンを押しアスミと喋っている。
「お父さんは元気にしてるか?」アスミがクスクスと笑いながら答える。
「ええ!この前お父様がユウは元気なのか?とかまだ結婚しないのか?とかいろいろ聞かれたわ。私が知るわけないのに」
ユウも笑いながら答える。
「相変わらず元気だなぁ」
アスミが急に真面目な顔でユウを見て言った。
「何故うちの会社に入らなかったの?お父様がかなり心配してたわよ。俺はユウに嫌われるようなことしたのかなぁて」
ユウは少し申し訳なさそうに
「別にそんなことないよ。アスミの会社に入ったら、コネで入っただのいろいろ言われそうだったからさ。アスミのお父さんやアスミに迷惑かけたくなかったから断ったの。」
アスミはなるほどと自分の手を叩いた。
そんな話しをしていたらエレベーターが1階に着いてドアが開いた。
ユウは開くのボタンを押しアスミが降りたのを確認したあと自分も降りた。
マンションの玄関をを出てアスミと別れてユウは会社に向かった。ユウは会社に着いて受付嬢に挨拶をして話しをしている。
「おはようございます。」
「あら、おはよう。仲田さんお仕事は慣れましたか?」
「まぁ少し」
後から声がかかる。
「仲田。後から私のとこに来なさい。話しがある。」
話しをかけてきたのはユウの育成係でありユウの部長だった。
「は、はい。」
部長の真剣な顔にユウは少し不安になった。
ユウはエレベーターに乗り自分のオフィスに行き部長の元に向かった。
ユウは部長挨拶をして聞いた。
「おはようございます。部長先程のお話といいますと?」
「仲田、2日後アフリカに行ってもらう。」
「なぜですか?」
「お前の仕事ぶりを見ていた社長がお前を気にいってな、新しくアフリカに会社を作るからそれの視察で、お前を抜擢したみたいなんだ。よかったなぁ。」
「わかりました。」
部長がユウの顔を見て言った。
「嬉しくないのか?」
ユウはマズイと思いすぐ答えた。「いえ。少し胸騒ぎがするんで」「大丈夫。3日ほど行ったら帰って来れる。」
「明日は休め準備で忙しいだろうからな。」
「……はい。わかりました」
ユウは少し胸騒ぎを押さえつつ仕事にとりかかった。
ユウは不安であまり仕事が手につかず、机でボーとしていたら後から話し掛けられた。
「ユウどうした。」
ユウは後を向いた。そこには髪型はスポーツがりの男が立っていた。ユウは男に向かって喋った。
「はぁー、タケか。別にどうもしないけど、2日後にアフリカに行かなきゃいけないんだけど少し胸騒ぎがね……」
「何言ってんだ。昇進できるんだ少しは我慢しろ。」
ユウは少し俯いて答えた。
「それはわかってるんだけどさぁ。昔から胸騒ぎするとろくなことないんだよねぇ。」
「なんなら代わってやろうかぁ。(笑)」
「それが出来たら苦労しないよ。変わってほしいよ本当に!」
「フフッ……確かに代われたら代わってやるよ。まぁそんなに人生、甘くないね」
「確かに。ならタケまたな!仕事戻るわ。」
「はぃよ!土産忘れるなよ。」
「了解。」
ユウは仕事に戻った。
ユウはいつも通り仕事をして時計を見て喋った
「もぅ5時か。今日は早めに終わらせて帰るか。明後日の準備もあるし」
ユウは仕事を途中でやめて帰宅した。
9月28日、ユウは、家の戸締まりなどの確認したあと夕日が沈む中タクシーで空港に行き、目についた椅子に座って掲示板を見つめている。
アナウンスが流れて、掲示板にアフリカ行きの表示がされた。
ユウは旅行バックを持ってチケットを確認したあと、入口に向かって歩いた。
ユウはチケットに書いてある座席に座った。座席は窓側で、飛行機のちょうど真ん中の座席だ。
ユウはシートベルトをして窓から外を見ている。
横に女性が座った、ユウは一度女性に目をやり、意識的に窓側に体を寄せてまた外を見た。
アナウンスが流れたあと、シートベルトのランプがついた。
ユウはシートベルトをしたあと、非常事態時の対応の本を読んでいる。
飛行機が離陸したあと読んでいた本を元の位置に戻して、持っていた本を読みだした。
ユウを乗せた飛行機は海の上を飛んでいる。外は暗く、今にも吸い込まれそうな闇の広がった海、昼間の海とは違い落ちたら間違いなく抜け出せないであろう暗い闇の海。
ユウは読んでいた本を閉じ眠りについた。
ユウはなぜか急に目が醒めた。外を覗いたら景色はいつの間にか変わっていた。
暗く闇の海とは違ってどこまでも続く、緑色のジャングルが広がっていた。
ユウがジャングルを見ていたら一瞬、飛行機が上下に揺れた。
ユウは何が起きたのかわからなくて、周りを見渡したが誰も気付いてないのか周りは寝ている。
ユウは気のせいかと思いまた外に目線を戻した瞬間、凄い音と共に飛行機の左翼から煙と炎がでている。
飛行機の中はパニック状態で、スチュワーデスでは手におえないほどまわりはパニックになっている。
その時、アナウンスがなった。
「機長の宮崎です。エンジンにトラブルがあり目的地までもちません。近くに着陸しますので従業員の指示にしたがって下さい。」
機長のアナウンスのあと、スチュワーデスが順番にまわっている。飛行機はどんどん高度が下がり地面が近づいている。
ユウは飛行機に乗った時に読んだ本を思い出し不時着時の体勢にはいった。
その時、物凄い衝撃がユウを襲った。
飛行機はジャングルに墜落した。しかしユウは木がクッションとなり、奇跡的に助かったのだがあまりに凄い衝撃だったのかユウは気絶してしまった。
ユウが目を醒まして回りを見渡したが、他の客は見当たらない。
ユウは動こうとしたが身体が痛くて動けない。
ユウは身体の痛みが和らいだので、他の客を捜しにまわりを歩いたが見つからない。いや見つからないのではなく見つけた客は全く動かないのだ。
ユウはその場にいても仕方がないと思い、自分の荷物や使えそうな物を探し始めた。
見つかったのはナイフ、食料、飲料水、ライト、救急箱それに自分が持っていた小説と着替えだ。
しかし、食料と飲料水は2、3日分しかない。
ユウは近くに落ちていたバックに食料などを入れ立ち上がった。
「ここに居ても仕方がない。」
ユウは飛行機が今まで飛んできた方角に向かって歩いた。
500メートルほど歩くと近くで物音がなった。
ユウは全身から冷や汗が流れるのがわかった。
おそるおそる覗くと一人の女性が飛行機の残骸に足が挟まって動けずにいた。
ユウは緊張から解放されたのか腰が落ちそうになったがこらえて女性の元に向かった。
飛行機の残骸をどかそうとしたが重くて持ち上がらない。
ユウは近くにあった木でテコの原理を利用して何とか残骸をどかし女性の元に近寄った。
「大丈夫ですか。」
女性は安心したのかまた気絶した。
ユウは辺りを確認したあと女性の元に戻ったら、ちょうど女性の意識が戻った。
「大丈夫ですか?
痛いとことかないですか?」
ユウは女性に声をかけた。女性はまだ、混乱しているのかすぐには返事が返らなかった。
ユウは女性が落ち着くのを待って喋った。
「大丈夫ですか?」
女性は下を向いた状態で喋った。
「大丈夫です。ところでここは?」
「分からない。突然飛行機から煙が出て、気がついたら周りは飛行機の残骸ばかりで……」
「他の乗客は?」
ユウは首をひねった。
どのくらいだろうか、二人は言葉を発することができなかった。
最初に沈黙を破ったのはユウだった。
「俺はユウて言います。
よろしく。」
女性は少し間をあけて顔を上げて喋った。
「助けてくれてありがとう。私は、アスミよろしく。」
ユウは驚いた。
日本に居るはずのアスミが目の前にいるからだ。
「あ、アスミ?なぜ君がここにいるの?」
アスミは不思議そうな顔をして喋る。
「あなたは誰ですか? 」
「俺だよ。ユウだよ、忘れたのか?」
アスミは首をひねった。
「あの、本当に誰だか分からないの。」
ユウは笑いながら言った。「冗談だろ?」
アスミは首をひねって喋った。
「いいえ。冗談言ってるような顔にみえますか?」
ユウは数歩下がって地面に座った。
ユウは混乱しているのだ。確かに目の前にいるのは、幼なじみのアスミ……しかし何度聞いても知らないしか言わない……なにがどうなってるのかわからないまま時間だけが過ぎていった。
気まずくなったのだろうか急にアスミが喋った。
「ところでここは?」
「多分、ジャングルだと思う。突然飛行機から煙が出て、気がついたら周りは飛行機の残骸ばかりで……」「他の乗客は?」
ユウは下を向いて喋った。
「周りを捜したけど生きてる人は君以外いなかったよ。」
アスミは悲しそうな顔をして喋った。
「そっかぁ……」
ユウは立ち上がりバックの中から食料を出した。
「何かお腹に入れよう。」
食料といってもアンパン2つとポテトチップスだ。
アスミはいらないと言っていたがユウは無理にでも食べたほうがいいと言ってパンとポテチを食べさせた。ユウは食料を食べながら見回りにでた。
そして異常がなかったので帰るとアスミとは別にもう一人座っていた。
男の名前はケンと言うらしい。
アスミの話によるとユウが見回りに出たあと、ジャングルの茂みから物音がしたので覗くと、アスミが座っていたので話をかけたらしい。
ユウは軽く自己紹介をして二人とは少し離れた場所に座った。
三人は話し合ってジャングルを歩くことにした。
三人は荷物を持ってジャングルの中を歩いている。
アスミとケンは楽しそうに話をしているが、ユウはアスミとケンの前を歩きながら二人の邪魔にならないよう、無言で歩いている。
途中で休憩をいれながら二人は楽しそうに歩き一人は周りを気にしながら、歩き続けている。
三人は何時間歩いただろうか。
周りは薄暗く、耳を傾けても鳥の鳴き声や虫の鳴き声しか聞こえない。
三人は休憩をいれながら歩いているが、精神的に参って疲れはピークだ。ユウは周りを見渡して喋り始めた。
「あそこまで、行ったら今日は休もう。」
アスミが喋る。
「でも、さすがに休むのは危険じゃないかなぁ?」
ユウは表情をかえずに喋る。
「俺が見てるから二人は寝ていいよ。どのみち休まないと、精神的にやられるから休むなら早いうちにね。」
ユウは火をおこしその側で周りを見渡している。
ユウは二人を覗き込むと二人は、かなり疲れてたのか静かに寝ていた。
3人が歩き続けて3日がたった。
今では会話はほとんどなくただひたすら歩き続けている。
アスミが急に立ち止まった。
立ち止まったアスミにたいしてユウは喋りかけた。
「どうした?」
「遠くのほうで音がした。」
3人は耳を傾ける。
確かに音が聞こえるが、どの方向から聞こえてるか分からない。
3人は立ち止まり耳をすました。