第三章 ・・・ 3
それから午後は、まず風呂に入れさせてもらってから、スタイリストをしてるという吉野さんという女性を紹介された。二人の女性の使用人も加わって、メイクを少しされたり、俺の寸法を計ったりアレコレ着せ替えをさせられた。言われるままにやってたら、なんか操り人形みたいな感覚になった。
まー飯も食わせてもらったし仕方がない。だけどタキシードなんて柄じゃねえ…。出来れば着たくない。
「やっぱり白かしらねえ。清潔に見えるわ」
「グレーも大人っぽいですよ小百合様」
「そうねえ。でもデザインでいくと、こっちなんかも…」
「細身で身長あるし、何でも似合いますね」
あまり聞きたくない話題が続いていた。聞きたくないというか、どう対応していいか困るというか…。
玲華は、というと先ほどから一人どこかへ出ていき、戻ってくるころには様々な種類のドレスを何着か持ってきた。
「あああっ。玲華様、わたくしがお持ちいたしますからっ」
「いーのいーの。ねぇ悠汰、コレとコレどっちがいいー?」
「俺に聞くな!」
つい怒鳴ってしまったが、わかるかそんなもん。
どうして女って、ことファッションに関してはこう優柔不断になるのだろう。俺からしてみれば、露出狂扱いされず、それなりにダサくなく、その場で浮かなければそれで良いと思う。
とにかく早く終わってくれ、と内心願っていた。
「もーつまんないわね。でも悠汰の服が決まってからでいっか…合わないとヤだしなあ」
「あらー玲華ちゃんはどれ着たいの?それから悠汰くんのを合わせるって手もあるわよ」
玲華の母親(小百合さん)が指を口元に当てて迷いながら言う。なんで俺と玲華の服を合わせる必要があるのか、まったくわからない。俺は招待状を持った玲華の同伴者というカテゴリーになるからだ、と先ほど説明されたが、やっぱりわからない…。
「えー。じゃあ悠汰、色は?何色が好き?」
「………」
いろ…。
色に好きも嫌いもない。昔から必要なものは服から文房具まで、すべて買い与えられていたから、自分で選ぶことがなかったのだ。そんな概念、持ち合わせてなかった。
俺は困ってしまって、とりあえず目についたロングドレスの色を口にした。
「じゃあそれ、その黄色とか?」
「やだあライムグリーンってゆってよ!ってゆーか趣味ワルーい」
「だから俺に聞くんじゃねえよ!最初っから!」
言うんじゃなかった。 肩からガックリと力が抜けるのを俺は感じた。
そのあとも女性陣が色のことで盛り上がってしまったので、俺はこっそりその部屋から脱け出した。付き合ってられない。
そしたらこちらを窺っていたと思われる理事長に廊下で会った。壁越しに。
「なにしてるんすか?」
半ば呆れながら俺は訊く。おそらく中に入れて貰えないのが寂しいのだろう。
「いや…べつに…」
コホンと咳払いして理事長が姿勢をただした。
理事長は、多分俺の父親と同世代というのに、その中身はまるで違う。当たり前、と言われればそれまでだけど。
(こんなお父さんもいるんだ)
理事長からは、いまは娘に対する心配しか伝わってこない。こんな出来損ないの、不完全な俺の存在を気にするほど。
(だから心配なのか…)
学校で問題児というレッテルを貼られた男が娘に近づいたら、どんな親でも心配するのだろう。でもうちには娘がいないから、父親がそれに該当するかわからない。姉か妹がいたら、少しはうちの家族も違っていただろうか?想像もつかない。
「疲れただろう?ちょっと休憩しようか」
悶々と考えていると、なんと理事長からお誘いが掛かった。
「いや、でも服が、まだ着たままだし…」
自分から逃げ出したくせに、いまさら言い訳をしてしまう。確かに白いタキシードを上下きっちり着たままだった。汚したら大変だ。
「君の寸法は測り終わったのだろう?なら大丈夫だよ。あとは彼女たちが選ぶさ。服のことも気にする必要はない」
俺のことを良く思ってないはずなのに、理事長は紳士だった。
さすがだ。同じお金持ちでも綾小路とはえらい違いだ。
(いや…こんな考えこそが失礼だな…)
俺は思い直して頷いた。
理事長は葛城さんに紅茶を持って来るように頼むと、俺を連れて一階に降りた。外に続くドアを開くとそこはガーデンだった。立派な庭に、白いテーブルと椅子が日陰になるように設置されてある。
真正面になるのはなんとなく気まずかったから、俺はちょっと斜め横向きに座った。向かいでは、理事長は悠然と背もたれに寄りかかっている。
「いやー悪いね、暑いところで。ここなら女性陣の邪魔が入らないから」
「いえ、大丈夫です」
なんの話をするつもりだろうか?やはり玲華のことか?なんて考えていると、だんだん恐縮してしまう。
「今回の件は災難だったね」
「え?」
「謹慎処分の件だよ」
あの日のことは、なんだかもう遠い昔のことのような気がしていた。だけどまだ一週間経ってなかったんだ、と今さら気づいた。
「あ、やばい。俺、それ破ってますね」
よく考えると謹慎処分を無視して学園のトップに会っている今の状態は、かなりマズいんじゃないだろうか。
「構わないさ。玲華が言うには妥当性のない処分だったのだろう?」
「信じてるんですか?」
校長には何を言っても聞く耳をもってもらえなかったのに。
「親バカだと言われるだろうが、玲華のことはね。彼女はそういう…贔屓目で物事を見て嘘を言う子じゃないから」
得意気に理事長が笑って胸を張る。
いいな…そういうの……。親に信用されるって、どういう気分になるんだろう?
「俺もそう思います」
気づいたらすんなり言葉が出ていた。
そのとき葛城さんがアイスティを二つと、ミルクと砂糖をトレーに置いて持ってきた。それらをテーブルに置くと、今回はすぐこの場を離れて家の中に戻る。
理事長に手振りで勧められて、いただきますと言ってから、ストレートの状態で一口飲んだ。ストローから冷たい液体が喉を通る。
「処分のことは、確かに最初は憤りを感じました。暴力奮ったのは確かだし、処分は仕方ないと思うけど、他の連中と比べてしまって……」
ただ黙って静かに理事長は話を聞いていた。
「比べるからこそ納得がいかないんだって今なら思えるけど……、あのときは余裕がなかった」
謹慎ということは、一日中家にいなければならない。すごく不安だった。だからなんで俺ばかりが、という気持ちにも陥ったんだろう。
その他のことなら耐えれる。耐えれたと思うんだ。いろんな意味で走っている途中だったのだから。せっかく前に進んでいるのに、これで転がり落ちるんだって自覚した。
「だからもういい。今ならもう終わったことだって思えます」
また俺は立ち上がれたから。玲華のおかげで。
だけど理事長は厳しい表情をしていた。
「随分諦めが早いんだね」
「……………」
「そして君は自分の事ばかりだ。なんでそんなこと言われるのか分からないって顔だね。では今回の件、暴力を回避する術はなかっただろうか?そう考えはしなかったかい?」
「そんなのムリだ。最初からアイツらは暴力で俺を黙らせようとしていたし、俺も綾小路はムカついていたから…」
「むかついたのなら暴力を奮っても構わないと?やられたらやり返せ、という精神は感心しないな」
「だったらどうすれば良かったんだ!ただやられてれば良かったのかよ!俺だって誰が好きでっ」
気づくと敬語なんか使っている余裕がなくなっていた。
確かに俺はキレてばかりだ。とくに大人に、こんなふうに諭されたときには。だけど納得がいかないんだ。仕方ないだろ!
「誰が好きでケンカなんかするかよ。そんな回避の仕方なんか誰も教えてくれないじゃないか!玲華だって遠慮して逆らわないのは許さないって…」
はっとなって俺は途中で黙った。いまここで玲華の名前なんて出すつもりなかったのに。出すべきじゃないって知っていたのに。
これでは玲華のせいにしてるみたいじゃないか。
「どういうことだ?今回のことに玲華が関係してるのか?」
理事長の顔が険しいものになっていく。やっぱり知らなかったんだ。
あたりまえだ、一体誰が言う?
玲華は絶対言わないだろうし、綾小路だって男のプライドで言えないだろう。好きな女に近づいた男に嫉妬した腹いせだったなんて。
「なんでもありません。確かに俺はガキすぎると思います。もうしません」
すべての気持ちを封じて俺は頭を下げた。頼むからこれ以上突っ込まないでくれと祈りながら。
ガキすぎる、これは心の底から思うんだ。
もうしないっていうのはどうだろう?できるんだろうか? たとえば同じ場面になったときには…?まだ解決方法が見いだせないけど。
「君は…危なっかしいね」
次にポツリと理事長が言ったのはそんな言葉だった。どういう意味なんだろう。コロコロ変わる俺の態度か、玲華のせいにしかけたことか不明だ。
「すみません…」
深く考えないうちに謝罪が出た。なにやってんだ俺は。自己嫌悪が渦巻く。
「あー!こんなとこにいた!なにやってんのよ、二人してー」
玲華の声が気まずかった空気を打ち破った。あんまり良いタイミングとは言えないが、少しほっとした。
だけどその姿を見て度肝を抜かれる。
「玲華!ドレスはそれに決まったのかい?」
焦りながら理事長が話を振った。
そう玲華は真っ赤なロングドレスを着ていたのだ。髪も結い上げ、薄く化粧もしている。
「試着よ、ただの!それにしてもなに話してたのよ!余計なこと悠汰に吹き込んだらお父様でも殴るわよ!」
ああ、口を開かなければ可憐なのに。つい俺はそう思ってしまった。
「彼に暴力事件のことを聞いていたんだよ」
理事長は俺の内心を知ってか知らずかあっさりとバラす。
「いや、あの…俺が…」
なんとかしようと口を挟んだけど、どう言ったらいいかわからず、しどろもどろになった。
「今さらなによ!聞きたいならあたしに聞けばいいじゃない」
玲華も玲華であっさりそんなことを言う。理事長は青ざめていた。
「玲華もなにか関わっていたのかい?」
「関わったもなにも、あたしにも責任あるっていう話よ。別にあたしが暴力奮ったわけじゃ……。あー…そういやーひっぱたいたわね、綾小路に」
いまの今まで忘れていたようで、思い出したように玲華は言った。まるでどうでも良いように。
責任があるって言った。もういいとか言いながら、やっぱりまだ玲華も責任を感じていたのだ。
「違うだろ、あれはうまく俺が立ち回れなかったから…」
「えー、やだ。んなこと思ってたの?なかなかお互い割りきれないみたいね、綾小路のせいで」
「ちょっと待った!パパにもわかるように話しなさい。つまり綾小路君が悪いのかい」
「だから最初からそう言ってるじゃない。もしかしてまだ校長寄りの見方してたの?」
「いったいなにがあったって言うんだい?パパは最初から聞いたじゃないか、綾小路君をひっぱたいた理由」
「えー?もう…」
玲華が腕を組んで迷っていた。俺は親子の会話に入れず、ただ聞いているしかなかった。なにが言えるっていうんだ?
「でもアイツ、反省して謝ってきたからなー。いまあたしが告げ口するわけにはいかないんだよね」
ぶつぶつ呟いている内容にちょっと意外に思った。謝ったりしたのか、あいつ。
「えー、パパだけ知らないのはちょっと…」
「しょうがないじゃない。お父様はお父様だけど、理事長でもあるんだから」
確かに玲華は贔屓をしない。誰に対しても平等だ。好き嫌いははっきりしてるけど。
「悠汰、もう行こ。ここ暑いでしょ」
さらりと切り上げて玲華は俺の腕を掴んだ。
「え、でも…」
あまりに切り替えが早くて俺の方が焦った。理事長と玲華を見比べる。理事長は長年の経験からか、もう玲華が絶対言わないことをわかったみたいで、諦めたような顔をしていた。だったら良いんだろうか。
「まだマナー講習があるのよ」
だけど、玲華の言葉でやっぱり行きたくない!と強く思った。
とはいえ、いまさら本気で俺が拒めるはずもなく、玲華のあとに渋々着いて行く。
腕を引っ張られたまま行き着いた先はダイニングだった。空の皿やグラスが置かれている。いつの間に用意したんだろう?
玲華はこれらを使って簡単に教えていく。片手ですべてを持つやり方から、料理の取りすぎはダメだとか、温かい料理と冷たい料理を一瞬の皿に盛らないとかまで…。
「あとはそうね…。基本的にパーティはコミュニケーションを大事にする場所だから、雰囲気を壊さないようにね」
「えー」
これが一番不満に思って、つい口に出る。なんか面倒くさい。面倒だし、苦手だ。
「えーじゃない、話しかけられて無視しないこと!もちろん口論なんてご法度よ」
腰に手を当て玲華が注意する。
「それはおまえも大変なんじゃねえ?」
「あたしは大丈夫よ。猫カブるから」
そうだ。玲華にはこういう芸当があった。
シルバーでも連れて行こうかな、とか面白くもないことを思ってしまう。
それからダイニングを出ながら玲華が続けた。
「次はダンスね」
そのキーワードに俺はすぐには足が出ず、着いていけなかった。なに?なんつった?
ドアを押さえて彼女が振り替える。
「言わなかった?ダンスパーティだって」
「聞いてねえよ!」
「良いからついてきて」
「絶対イヤだ!あんなもんこっぱずかしくて踊れるか!」
「あんなもん?知識としては知ってるようね。大丈夫だって、ステップ全部覚えろなんて言わないからさあ」
俺はあまりの展開に、頭がぐわんぐわんと揺れるのを感じた。
(あ、悪夢だ…)
悪夢は続いていたらしい…。
立ち尽くして動けずにいる俺に、玲華はこれ以上ない言葉を浴びせた。片目を閉じて口元には笑みが浮かぶ。
「言っとくけど、ここは逃げちゃいけない場面だからね」
ああぁー!こんなこと言われて誰が逃げれると言うんだ!
仕方なく大股で玲華に近づき交渉した。
「じゃあそれが終わったら、次は踊らなくていいような振る舞い方教えろよ」
「んまっ、抜け目ない」
口元を押さえて玲華が意外な顔をした。イヤでも学習するだろ、ここまできたら。
そして次に玲華が連れて行ったのは、大きな広い空間だった。ホテルにあるような大広間のさらにもっと広くなったような。
…で、奥にはグランドピアノがひとつ置いてある。これは本当に一軒家の室内か?俺は茫然とした。
「ウチでパーティをするときはここを使うのよ」
そう言って玲華が楽しそうにピアノの前に座る。世界の違いを、また見せつけられた感じだった。
優雅にメロディに乗せて玲華の手が動く。クラシックは詳しくないけど、俺でも知っている曲だ。
「なに?その曲」
「ショパンの幻想即興曲よ」
弾くのをやめずに彼女が答える。題名を聞いてもピンとこない。じゃあどこで聞いたんだろう?テレビかもしれない。ふーんとだけ俺は答えた。
「なにかリクエストない?」
「べつに…」
知ってる題名はいくつかあるが、別段聴きたい曲でもない。ピタリと玲華の手が止まった。
「あんたねえ、パーティではもし仮にこういう会話があったら嘘でもなにか言いなさいよ」
「んなこと言われても…」
「まーしょうがないか。そこが悠汰の良いとこだもんね」
どういう意味だろう?嫌味には聞こえなかったから、そのままの意味なんだろうけど。
ソコってドコ?
疑問に思っているとまた玲華の手が動いた。新しい全然違う曲。
あ。知ってる。クラシックでもなく、身近に聴いていた曲。
(題名…なんだった?確か確認したはず…)
俺のiPodにあった歌だ。女性ボーカルの…玲華が一番初めにプレイリストに上げたやつだ。
「これ、come with tomorrowよ」
滑らかな発音で玲華は言った。そうだ。そうだった。
サビに入るところで玲華が歌詞を乗せた。
苦しくても明日はくるから
大丈夫だから 悲しまないで
顔をあげて 一緒にいこう
Will you go together in tomorrow?
永久に 隣りで笑うから
玲華が歌うと全然違う歌に聞こえる。あの歌手はハスキーだったけれど、玲華の声は艶やかで透き通っていた。
「これね、あたしが大好きな曲なの。悠汰のiPodにあって興奮してセットしちゃった」
演奏が終わって玲華は悪戯っぽく笑う。俺はちょっと戸惑いながら言葉を選んだ。
「ここでいつって訊いたら、またしつこいって言う?」
「んー、もういっか。別に隠すつもりもなかったんだけど、ようは寝込みを襲ったのよ教室で。そんでも身に覚えがないくらいしょっちゅう寝てたんなら諦めなさい」
寝込み……。
そう言われて考えてみても、確かにコレという日が出てこない。諦めるしかないようだ。どこにでもすぐ寝る自分が悪い。
「しっかし、おまえなんでも出来るんだな」
「そんなことないわよ」
「謙遜はときに嫌味に聞こえる…」
「いやー、ホントにさ。あたし全部が中途半端なの。ピアノだって小さい頃から習ってるけど挫折しちゃったし」
「挫折っ!」
似合わない人から似合わない言葉を聞いて、俺は愕然とした。そういう経験もあるんだ。
「なによ、その反応。言っとくけど一応英才教育は受けてんのよ。もしその中で何かひとつでも突飛な才能があれば、今ごろあの学園にはいないわ」
確かにそうかもしれない。あの学園は運動に力を入れている――俺は最近知ったけど――ようだが、その他はちょっと他校より学費がかかる程度だ。勉強も俺が入れたほどだから、兄貴がいるようなハイレベルな進学校には劣る。威張れないけど。
「じゃあとりあえずダンスしましょっか」
切り替えの早い玲華は立ち上がって片腕を差し出してきた。手首を下に曲げている。
いきなりそんなことを言われても困る。また俺は動けずにいた。
「ちょっとーダルいんだけど」
玲華に睨まれても動けない。慣れてないことをするのは大変な勇気がいる。というかこういう状態は…。
(やべえ、照れる)
「やっぱり俺にはムリだ」
「いいからほら」
グイッと強引に玲華から手を取ってきた。いつもより露出の多いドレスという格好だから、なおさら困る。彼女のどこを支えて…というか触れていいかわからず、左手が行き場を失った。
ヤバい。変な汗をかく。
「いい?まず左足からだからね。とりあえずあたしについてきて」
「ちょ…待て…」
「はい!いっち、にぃ…違うわ!どこ踏んでんのよ」
「んなこと言われてもなぁ!」
「ほら左足前に出して、こう、こうよ」
やっぱり玲華はスパルタだった。いきなり実践するか?普通まず説明あるだろ。
そう言おうとしたら扉があいて続々と人が入ってきた。
「だめよ玲華ちゃん。そんな教え方じゃあ、彼が困ってるじゃない」
「君たち近づきすぎじゃないのかい?」
「やだパパ。野暮なこと言っちゃダメよ」
「でもママ…」
なんかあっちでも揉めている。
そして玲華の両親だけでなく葛城さんも後ろに控えていた。
「音楽をご用意いたしましょうか?」
「ちょっと勝手に話を進めないで。そりゃあたしだって時間あればイチから教えるけどさー、今夜なのよ本番は。ちんたらやってる暇ないのよ。とりあえず葛城さん、音楽はまだいいわ。まだムリだから。それからお父様はウルサイ」
容赦の欠片もなく玲華が言い捨てた。まあ、と小百合さんが言い、かしこまりましたと葛城さんが頷き、それから理事長はガンっとショックを受けていた。
なんだか頭が痛くなってきた。こんなことをしてまで行かなければいけないのだろうか?
「ほらーみんながミズさすから悠汰が疑問持ちはじめたじゃない」
ちらりと俺の様子を見て玲華が言った言葉に、俺はまたつい怒鳴ってしまった。
「俺の心を読むな!」