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7:運命


詠が冷酷な言葉を残して闇の中へと走り去った直後。

ルークは、詠の瞳に浮かんだ深い悲しみの色を決して見間違えてはいなかった。


「『気まぐれ』だと?嘘だ。俺を愛してるくせに…」


ルークは、迷わず白が走り去った闇の中を追いかけた。

白が都へと続く森の小道に出た瞬間、ルークは追いついた。

彼は仮面を外し、白の腕を強く掴んで引き留めた。


「待て、白!逃げるな!」


白は、ルークに捕まったことで、張り詰めていた心が限界を迎えた。

彼女は涙を流し、掴まれた腕を振り払おうともがいた。


「離して!もう二度と私に構うな!あなたを愛してはいけない!」


ルークは、白を強く抱きしめた。


「俺の愛は、気まぐれなんかじゃない。あんたの言葉を信じるわけがないだろう!」


白は、ルークの熱情と優しさに、抵抗する力を失った。彼の腕の中で、彼女の体は細かく震えていた。


「……ルーク」


白は、嗚咽を漏らしながら、彼の胸にしがみついた。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


ルークは、白の背を強く抱きしめ返した。


「謝るな。あんたが謝る必要はない。

言ってくれ、攫ってと。

あんたを遠い国の貴族なんかには渡したくない!」


白は、涙を流し続けた。

言えるわけがない、国民の命をこれ以上奪うわけにはいかない。

自分が耐えれば多くの民が救われる。


「私の婚礼は、もうすぐそこまで来ている。

相手は、冷酷と評判の貴族。

私は、家のために、この結婚を受け入れなければならない……!」


白は、ルークの瞳を見上げ、涙ながらに告げた。


「ルーク……私は、あなたを愛している。

誰よりも深く、愛している。

だからこそ、お願い。

あなたとの絆が、私には必要なんだ。

すべてを失っても、あなたに愛された記憶があれば、私は大丈夫。

それが、私がこの婚礼に耐えるための、唯一の救いなんだ」


ルークは、白の言葉に込められた絶望的な覚悟を理解した。

彼女は、家のため自らを犠牲にしようとしている。

ルークは、白の告白を受け止め、深く息を吸い込んだ。

彼の瞳には、燃えるような決意が宿った。


「白。もう二度と、俺を突き放すな」


ルークは、白の頬を優しく包み込み、誓った。


「俺も、あんたを愛している。

あんたが望むなら、受け入れる。」


ルークは、白を抱きかかえ、彼女の秘密の隠れ家である廃屋へと連れて行った。

冷たい廃屋の床に敷かれた毛皮の上で、二人は初めて、魂のすべてをかけて愛を重ねた。

白は、冷酷な未来を忘れるように、ルークの温もりに身を委ねた。

ルークは、白の頬にそっと口づけ、耳元で囁いた。


「あんたを愛してる。何処にいても」


白は、体を重ねることで、ルークとの魂の繋がりを得た気がした。

彼女の心の中で、この夜の記憶は、誰にも奪われない、自分だけの宝物として刻まれた。


(この絆さえあれば、私は大丈夫。

ルーク……あなたが無事で、自由でいてくれるなら、私は嫁いでも、心だけはあなたのものでいられる……)


白は、ルークの腕の中で彼を深く刻み込む。

この愛の絆こそが、彼女が家と国のために使命を全うするための、最後の糧だった。


夜が明け、淡い朝焼けが窓から差し込むと、白はルークの腕をそっと外した。


「ルーク、もう時間だ。」


「行かない。俺は、もうあんたを一人にしない」


「駄目だ。」


白は、涙を堪えて、無理に突き放した。


「この夜は、私たちにとって幸運だった。

私は、遠い国の貴族に嫁ぐ。

これが、最後だ。

愛してる、ルーク」


白は、ルークの剣を彼の手に握らせた。

ルークは、白の決意の固さと、その奥にある愛の深さを悟った。

ルークは、白の目から決して視線を逸らさなかった。

そして、全身の力を込めて、白を抱きしめた。


「白。忘れるな。俺たちは、永遠に繋がっている」


その言葉を最後に、ルークは白から離れた。

白は、ルークの背中を、最後の別れとして見送った。彼は二度と振り返ることなく、森の奥へと走り去った。


白は、その場に崩れ落ち、嗚咽した。ルークを失う悲しみと、国を護る義務、そして結婚という残酷な未来が、彼女の心を押し潰した。

だが、胸には、ルークとの永遠の絆という、熱い記憶が残っていた。







ルークは、白を見送った後、アヴァロン王国側の森の入り口へと馬を走らせた向かった。


森を出た先には草原が広がっていた。

そこには甲冑に身を包み、馬に騎乗する騎士達の姿が朝日に照らされ輝いていた。


それを眺め、一人佇むルークに一人の騎士が近づく。


「アルフォンス殿下、大和側の偵察、ご苦労様でございました。ご帰還が遅れましたが、状況はいかがでしたか?」


ルークは、仮面を外し、冷たい草原の風に顔を晒した。


「ああ、ルカリオス団長。

 状況は一刻を争う」


アルフォンス(ルーク)は、きっぱりと言った。


「大和側へ急ぎ講和を申し入れよう。」


騎士は戸惑いを隠さずルークに問う。


「如何したと言うのですか、何があったのです!」


「今は時が惜しい。あとで説明する」


彼は、腰の剣を抜き、地面に突き刺した。


「今すぐ、全騎士団は、武装を固め、大和皇城へ向かう。」


騎士団長は驚いた。


「殿下、大和側へ使者を立てなくてよろしいのですか?このまま大和へ向かへば、外交問題に……」


「構わない。急がなければ。」


アルフォンスの号令により、騎士団は静かに、そして迅速に大和皇城へと進軍を開始した。


彼の頭の中は、白を手に入るため如何すればいいか、そればかりだった。

ルークは、自らがアヴァロンの王太子アルフォンスであるという事が煩わしく感じた。

そんなものがなければ、彼女を攫って何処かで囲えばいい。それが出来る権力もある。

だが、それを許さない立場があった。

剣の柄を強く握りしめる。

白が家と国という重い義務を果たそうとしているのなら、自分も王太子としての義務を果たさなければならない。


「皇女との婚姻は大和との和平のために行われる。大和側が望むのは、アヴァロン王太子との婚姻と講和だ。であれば、相手が皇女である必要は、ないはずだ……」


ルークは、一つの結論に達した。


「私が白を望めば、それを和平の証とすれば、大和は必ず受け入れる。和平の目的が達成されるならば、皇女でなくともいいはずた。」


ルークは、王太子としての地位と権力を、愛する女性を救うという目的のために行使することを決意した。


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