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永劫のセツナ  作者: ALOE
47/48

満開

村人は皆立ち止まった。

言葉少なく、ただ見とれていた。


枯れ果てたと皆思っていた巨木に

薄紅色の花が無数に揺れていた。

ほんのりと甘酸っぱいような香りと共に。


気づかぬうちに涙が頬を伝う者も居た。


「村長、俺生きてて良かったよ。」

シロンはルモルグにそう言うと鼻をすすった。


はらはらと舞い落ちてきた小さな花びらが

混種の女の子ジュリの鼻の上に舞い落ちた。


それを見た者は自然と笑顔になった。


「いつぶりだろうか、皆の顔がほころんだのは」

ルモルグは呟いた。


花を咲かす事が出来ない木だと

そう思われていた——


忌み子の村の住人はあの木と自分を

どこか重ねてたのかもしれない。



村では桜だけではなく、村民達にも変化があった。


初めて桜の(つぼみ)が確認された日

人々の体に変調があったのだ。


腰の痛みが消えた、視力が戻った。

頭の中がクリアになった。

動悸や息切れが無くなった…


それらの報告は口々に日を追うごとに

ルモルグの元にやってきた。



「見事です」

セツナは桜を眺めていた。

いつものように既視感に囚われながら。


だけど嫌な気がしないのだ。

懐かしいような、暖かいような。

落ち着く気持ち。



「セツナ殿、無理を承知で聞くが…」

ふいにルモルグがセツナに言った。


セツナは桜を見たまま振り向かない。


「この桜、そして村民の体の変化。これは先日の

夜の一件と関係あるように思うのだが」


「……」


「答えたくなければそれでも構わない

変な事を聞いた。気を悪くしたならすまない。」


「あまり、関わらないほうが良いのかもしれません

この事に。」

セツナはポツリと言った。


「なぜそう思う?」


「権力者の欲する物、もしくは脅威だからです。」


「……」


「僕は人知れず去るつもりだった。

だけど、僕が来たばっかりに

容易に去れなくなってしまった。

僕の過ちだ。

関わるべきじゃなかった」


「あんたはこの村の子供たちを

助けてくれた。余計な事じゃない」


セツナはフッとため息をついた。


「この世界の地下深くには龍脈というエネルギーの川が

あるのです。場所によって龍脈の呼び方は違いますが

それによって、大地は命を育んでいる。」


「それは聞いたことがある。見た事は無いが。」


「その流れが弱められている。意図的にです。」


「何のために?それは何者だ?」


「僕たちを弱らせるためです。そしてそれを

実行しているのは使徒と呼ばれる寄生生物です。」


「どういう事じゃ?」


「使徒は権力者に取り入り、寄生し

自分たちに都合のいい環境に作り替えようと

するのです。」


「……」

ルモルグは黙った。何かを考え込むように。


「恐らく彼らも何かを知っている。

だから僕を見張ってる。」

セツナは上空に佇む帝国の飛空戦艦を指さした。


「あの日地中から取り出した巨大な物体を

僕は”栓“と呼んでいる。

これが龍脈の流れを邪魔しています。」


「栓を抜いたんじゃな?」


セツナはゆっくり頷いた。

「それによってこの地の流れが戻ったんです。」


「眼鏡を掛けずとも、物が見える」

ルモルグはにやりと笑った。



その時、後ろから声がした。


「それは聞き捨てならんな。」


ルモルグが後ろを振り返ると、

一人の男が立っている。


黒い肌。

白い髪。

異様なほど背が高く、軽装の下に分かる筋肉は鎧のように厚い。

ダークエルフ?――


通常の華奢なダークエルフに比べ

その男は明らかに立派な体躯をしていた。

存在そのものが、重力を持っているかのようだった。

男はゆっくりと歩いてくる。


周囲の村人たちが本能的に道を開けた。

やがて桜の木の下で立ち止まる。


「……旅人」

低く、よく通る声だった。

「お前がそうか」


セツナは肩をすくめた。

「そう…かも」


「名は?」


「名乗るほどの者じゃない」


男はしばらく黙っていた。

やがて小さく頷く。

「ヴァルクス・レグナス」

と名を告げた。


「帝国より命を受け、貴様を連行しに来た」

周囲が凍りつく。


バエトが思わず前に出ようとしたが、妹に腕を掴まれて止まった。

セツナは動かない。

「悪いけど……断る」


ヴァルクスは怒りも見せず、ただ静かに言う。

「だろうな」


一歩踏み出す。

「だが、命令は命令だ。無理にでも連れていく」


空気が張り詰めた。

しかし、次の言葉は予想外だった。

「――だが、その前に」


ヴァルクスはわずかに口元を緩めた。

「力を見せろ」


セツナの目が細くなる。

「連れて帰る相手の強さが分からぬままでは、報告にならん」


「……戦いたいだけじゃないの?」


「否定はせん」


「僕が張り巡らせた索敵の網を知りながら

あなたは此処まで来た。ヴァルクス。

あっちの人たちはそれを知ってて僕に手出しをしないのに。」

とセツナは上空の巨大飛空戦艦を指さした。


「半径10キロ圏内に複数の索敵の網を張れる奴は

帝国にだって一握りだろうぜ。

……だから面白い。」

ヴァルクスは白い歯を見せた。


桜の花びらが、二人の間を静かに落ちていく。

セツナは溜息をついた。

「ここじゃ迷惑がかかる」


「ああ同感だ」



________________________________________



村から少し離れた荒地。

何もない平地に、二人は向かい合った。

遠巻きに、村人たちが息を潜めて見守っている。

ヴァルクスは剣を抜いた。

長く細い刃が陽光を受けて鈍く光る。

「先に言っておく」


「?」


「手加減はできん」

セツナは無言でタイレル夫婦にもらった剣を抜いた。


________________________________________



次の瞬間、ヴァルクスが消えた。

地面が爆ぜる。

音が遅れて追いつく。


セツナのいた場所に剣が振り下ろされるが、すでにそこにはいない。

背後。

セツナの剣が軽く触れる。

ヴァルクスは驚きもしない。


そのまま回し蹴り、距離を取る。

「……なるほど」


再び踏み込む。

今度は連撃。

重く速い斬撃が空気を裂く。

だが、すべて空を切る。


セツナは最小の動きで避けていた。

まるで最初から軌道が分かっているかのように。


ヴァルクスの眉がわずかに動く。

――当たらない。


(おかしい、俺の力で捉えられない筈はない……)


だが避けているだけだ。

反撃がない。


「避ける事に全集中してるだけか?」


その瞬間、ヴァルクスの背中をセツナがトンと押した。


「なんだ……!?いつの間に」

ヴァルクスは全身の毛が逆立ったようにぞっとした

体の中に何かが入り込んで来るようだった。


(今、奴の手のひらから何かが入り込んできた‥

紛れも無い…ちがう…恐怖だ!)


「久しぶりだぜ、こんな感覚…

——あんたはヤベェ」

ヴァルクスの全身から汗が噴き出している。


セツナは静かに立っている。


心地の良い風が花びらを運んで来た。


ヴァルクスは静かに息を吐く。

気配が変わった。


ヴァルクスは一瞬目を閉じ、ゆっくり瞼を開く。

その瞬間、空気が震え、地面の砂が浮き上がる。

ヴァルクスの体の周囲に淡い光が集まる。


「力の集約」

セツナが小さく呟いた。


純粋な生命力の凝縮。

ヴァルクスが踏み込んだ。

先ほどとは別物の速度だった。

衝突。

轟音。

衝撃波が周囲に広がり、桜の花びらが

舞っている。


だが――

剣は止まっていた。


セツナの剣に、軽く受け止められている。

「……何?」


ヴァルクスの目が見開かれる。


全力だ。

一切の手加減はない。

なのに、まるで岩に当たったように動かない。

しかしその攻撃の衝撃で二人の周りの地面は

数十センチ陥没した。


セツナは静かに言った。

「もういい?」


何が起きたのか分からなかった。

ただ、気付いたときにはヴァルクスは数十メートル先に立っていた。


いや、立っていない。

膝をついていた。


地面が大きく抉れている。

「……は、はは……」


笑いが漏れる。

「あの一瞬で、50か所の急所に触れられている。」


ヴァルクスは自分の体を見ると、至る所に小さな痣ができていた。


剣を地面に突き立て、ゆっくり立ち上がる。

「完敗だ」


セツナは剣を収めた。

「最初からそのつもりだったでしょ」


「否定はせん」

しばらく二人は黙っていた。

やがてヴァルクスは言う。

「なぜ弱く見せかける?」


「その方が楽なんだ。」


ヴァルクスはフフッと笑った。

しかし追及はしない。


「……帝国の敵か?」


「敵にするつもりもないよ」


「だが味方にもできん」


セツナは苦笑した。

「そりゃそうだ」


風が吹き花びらが再び舞い落ちる。

ヴァルクスは背を向けた。


「報告はしておく。排除は不可能、接触は危険――とな」


「助かるよ」

足を止めずに言う。


「次に会う時は敵かもしれん」


「そうかもね」

わずかに振り返る。


「だが」


一瞬だけ笑った。

「楽しみにしている」


「セツナ——僕の名前」

その言葉を背に受けてヴァルクスは一瞬止まったが

振り返らず、片手を上げて去っていった。


その後、ヴァルクスの飛空艦は静かに空へと上昇し、やがて雲の向こうへ消えた。


満開の桜の下に残ったのは、舞い散る花弁と、呆然と立ち尽くす村人たちだけだった。


バエトは拳を握りしめていた。

「すげえ……俺、もっと強くなる」

誰に言うでもなく、呟いた。


セツナは空を見上げ、ため息をついた。

花びらが一枚、仮面の上に落ちた。



ヴァルクスとセツナの戦いを見て、再び心に火が付いた

男が一人。

上空の帝国の飛空戦艦上に居るクロフォードである。


「クロフォード様、中央より帰還命令が…」


「……くっ わかった、本艦はこれより

エルディクティアンに帰還する。

総員準備。」


船員たちがせわしなく動き始めた。





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