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永劫のセツナ  作者: ALOE
46/47

ピンク

太陽が地平線を白く染め始めた頃

一番鳥が一声鳴いた。


ルモルグは誰かが小屋の扉を叩く

音で目を覚ました。

「長老! 起きてます?」


ゆっくりベッドから起き上がり、眼鏡をかける。

「誰じゃ こんな朝早くから…」


「……ん?」

ルモルグはいつものように枕元にあった

眼鏡をかけた。

だがなぜか視界がぼやけた。


「また目が悪くなったかの……」

そう言って、眼鏡を置いた。


裸眼ではっきり物が見えている事には

気を留めずに……




玄関の扉を開けるとポーチにシロンが立っていた。


「なんじゃシロン、何をにやけておる?」


「長老…… 奇跡が起こったんだよ!」


「何?」

ルモルグは顔をしかめた。


「とにかく来てくれ!」


シロンはさっさと歩いて行ったので

ルモルグは仕方なく後を追った。


「どこへ行くんじゃ」


ルモルグがそう言ったが、返答はなく

ただ歩を強めた。


まだ村の住人は眠りについている。

早朝の空気は冷たく吐く息は白い。


「見てくれ!」

あの巨木の元まで来た時、シロンは枝を指さした。


その瞬間、ルモルグは目を見開いた。

「これは……」


ルモルグの涙は頬を伝い、地面に落ちた。

(つぼみ)じゃ…」


小さな樹皮に覆われた膨らみからピンク色の

(つぼみ)が顔を覗かせていたのだった。


ルモルグは震える指で蕾に少し触れた。


「あんたの話は本当だったんだ。」

泣きそうな声でシロンが言った。


刺すような北風の中に、若葉の匂いが若干混じっていた。





その日の午後——


セツナは古代の巨大な建物の中の一室に居た。


古代の遺跡を調べるため

少しの間この村に留まる事にしたのだ。

だが、先日の一件に対しての責任も感じていた。

あちらが非を認めたとはいえ

報復される可能性はゼロではない。


(よその揉め事に余計な干渉をするなと、

イト先生は言った。だけど……)


見過ごすわけにはいかなかった。

先に体が動いたのだ……



“栓”があった巨大な建物には、沢山の部屋があり

どこを使っても構わないという事だったので

囚われていた部屋でしばらく過ごす事にしたのだ。


この建物は、セツナの古い記憶の中の言葉では

“ビル”という名前だという事がわかった。

見た瞬間にその言葉が思い浮かんだのだ。


たとえそうでなくてもそう呼ぶことにした。


セツナは遺跡の入口付近で、古代の装置を調べていた。

表面に刻まれた文字をなぞり、何かを確かめる。

今は使われていない言語の様だった。


「配電盤…って書いてあるのか…」


「ヒ…タ…チ…   なんだろう…」



その時

背後で人の気配がした。

振り向くと、小さな人影が立っていた。

両手を強く握りしめている。


「……あの」


「やあ 君は確かバエト。具合はどう?」


「うん。元…気…だよ」


「そっか 良かった」

セツナは仮面の奥でにこりとした。


「‥‥…」


「どうしたの?」


バエトはしばらく言葉が出ない。

やがて、絞り出すように言った。


「強くなりたい」

まっすぐな目だった。


「もう、誰にも奪われたくない。

守りたいんだ。妹も……村のみんなも。

だから教えて欲しい。強くなる方法」


セツナはしばらく彼を見つめていた。


「僕はいつまでここに居るかわからないよ

それに…また帝国の奴らが仕返しに来るかもしれない

僕の所に。」


「……」

バエトは黙ってセツナを見ている。


セツナは真剣なバエトに降参したかのように

フフッと少し笑った。


「僕の修行は厳しいよ?」

セツナは少し意地の悪い顔をした。


「それでも…!」

バエトは視線を外さなかった。


「……剣は使える?」

少年は首を振る。


「魔術は?」


「少しだけ」


セツナは軽く息を吐いた。

「じゃあ、まず立ち方からだ」


少年の瞳が大きく開かれた。




「あれを見ろ。」

「何やってるんだ?混種のガキと仮面の…」

帝国の戦艦の見張り台から地上を見ている数人の兵士達から

あざ笑いや、嘲笑が聞こえて来る。


クロフォードはその方向を見ると、ハッとした。

そして何故かその光景から目が離せなくなった。




「バエト、あと30分だ。」


桜の大木の前で

バエトは正眼に構えた木製の剣の切っ先に鉄の玉を乗せ

そのままの姿勢で動かずにいた。


「一定の量の魔力を剣に流し続けるんだ

量がぶれると鉄球が落ちる」


「先生…もう無理です……」

震える声のバエトの額から大量の汗が滴り落ちる。


「バエト、冗談抜きで君には人並み以上の魔力が

内在している。」


「ああ…せ 先生… もう無理…」


その瞬間、鉄球はボトリと地面に落ちた。


「うんうん、昨日よりは時間が伸びた

10分後、再開ね」


「ええー!……」


毎朝、夜が白み始める頃、人間と混種の子供の奇妙な

やり取りが繰り広げられていた。


10日ほど経った頃、バエトの横にもう一人いた


「俺も、稽古をつけてください。セツナ先生」

シロンが頭を下げた。


数日経つと弟子は

二人、五人、十人と増えていった。


獣人の子供、リザードの青年。

翼のある混血の少女。

オークと獣人の混種。


あるいは年老いた男まで混じっている。

誰もがぎこちない。


性別も年齢もばらばら。

戦い方など知らない者ばかりだ。


セツナは何も言わず、ただ一人ずつ立たせた。

追い返しもしなかった。


「魔力が無くても、腕力が無くても

脚力が無くても、最後に勝つのは総合力なんだ」

セツナの口癖だった。

(タイレルの受け売りだけどね…)


剣の稽古も魔力を流しながら。


倒れる者。転ぶ者。笑う者。

それでも、皆不器用でも

誰一人として途中で帰らなかった。


自分たちが何者かであるために

なぜ生を受けたのかを探求するように。

夜が明けきらぬうちから皆汗を流した。


セツナの読み通り、バエトだけは他者から

抜きんでるものがあった。

今の訓練は皆に合わせて

あきらかに手を抜いている。


「バエトだけメニューを変えるか…」

セツナは呟いた。


桜のつぼみは、日に日に数を増やしていた。


________________________________________



その頃。

村から離れた森の上空を、一隻の黒い小型飛空艦が旋回していた。

帝国の紋章が入っている。


静かに大地を見下ろす影。

甲板に、一人の男が立つ。


ダークエルフの中でもひときわ長身で、鋭い目。

武具は軽装だが肉体は鍛え上げられているのが

よくわかる。

ダークエルフとしては珍しい。


「……妙な報告だったな」

低く呟く。


背後の兵が答える。

「はい。調査班は撤収しましたが、対象の危険度は極めて高いと。

しかし事態は収束している模様です。」


男は鼻で笑った。

「俺が名指しで呼ばれた理由はなんだ」


兵士たちは顔を見合わせているが

答える事ができない。


男は視線を村の方へ向ける。

「どっちでもいいが…会ってみてえもんだ そいつに」


彼は踵を返した。

「降下準備だ」


兵士たちはバタバタと動き始めた。


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