表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永劫のセツナ  作者: ALOE
43/47

化け物の村

日の暮れかかる(あし)の草原に、風が渡っていた。

夕日を浴びて黄金色に光る穂が揺れ、

ざわざわと波のように音を立てる。


小高い丘の上で葦の茎を束ねていたノーム族の女が

ふと下を見ると、夫が誰かと話をしているのが見えた。

話し声は聞こえない。


そこには、三つの黒い影が立っていた。

頭から足元まで黒いローブに身を包んだ三人の男たち。

ノーム族の夫が子供かと思えるほど、3人は背が高かった。


その前で、赤い三角帽をかぶったノーム族の農夫が

落ち着きなく指をこすり合わせている。


「……本当に、そこに居るのだな?」

低く押し殺した声で、黒いローブの一人が言った。


農夫はうなずき、遠くの森を指差した。

「へえ、間違いありません。あの奥の遺跡だ。

つい今朝(けさ)がた、仮面の男が入っていくのを見た」


三人は互いに顔を見合わせる。

ローブの胸元で、銀の留め具がかすかに光った。

そこには、茨の輪の中で(いなな)く黒いユニコーンの

紋章が刻まれていた。


やがて、男の一人が小さな布袋を取り出した。

中身の重みで、鈍い音がした。


農夫の手のひらにそれを置く。

「情報料だ」


農夫は目を見開き、布袋と男を何度も見比べた。。

「へへ……いいんですかい こんなに――」

歯の抜けた顔がほころんでいる。


3人は去ろうとした。


だが最後尾にいた男が、ぬらりと剣を抜いた。


一閃。


農夫の体が、ぐらりと揺れた。

血が葦の上に飛び散る。


血の付いた布袋が地面に落ち、口が開いた。

銀貨がこぼれ出る。


男は無言でそれを拾い上げた。

「お前には必要ねえ」

そう言うと唾を吐いた。

「虫けらが」


先頭の男がちらりと後ろを見た。


「チッ…」


先頭の男は舌打ちをしたが、

その後三人は振り返りもせず

森の方へ歩き出した。



「……あんた!!」

一部始終を見ていた妻が叫んだ。


必死に駆け降りる。

途中足がもつれ転んだ。

顔をすりむきながら走っていった。


駆け付けると農夫は地面に倒れていた。

胸から血があふれている。


見るからに傷は深く、致命傷だった。

「どうして……どうしてこんな……!」


妻が肩を抱き起こすと、男はかすかに目を開いた。

息はもうほとんど残っていない。

ぶくぶくと口から血を吐き出している。


「……森……に……」


「あんた…しっかり! 死んじゃ嫌だよ!」

妻は涙を流してわめく。


夫の震える唇が動く。

「ユ…ニコーン…の……」


言葉はそこで途切れた。

男の体から力が抜ける。


「やだよー! あんたー!」

わんわんと

女の泣きわめく声も、葦原の風に溶けていった。





一方その頃。

セツナは長老に導かれ、巨大な建造物の前に立っていた。

近くで見ると、その大きさは圧倒的だった。


黒ずんだ壁面には無数の四角い穴が並び、蔦や樹木がそこから突き出している。

頂上付近には鳥が旋回している。

長い年月の間に、自然がこの建物を飲み込もうとしているようだった。


「こっちじゃ」

長老は、小さな入口へ向かう。


崩れた石と鉄骨の隙間に、かろうじて人が通れる穴があった。

人工的な穴というより、破壊して空けた穴のようだった。


中に入ると、ひんやりした空気が流れてくる。


薄暗い通路の先に、階段があった。

長老は壁にかけられた燭台(しょくだい)に火を灯す。

そしてそれを手に持った。


「足元に気をつけなされ」


ゆっくりと階段を下りていく。

全ての段が均等に作られている。

石の階段は長く続いていた。


一階、二階という感覚はすぐに失われる。

どれほど下りただろうか。


やがて長老は立ち止まった。


目の前には、巨大な鉄の扉があった。

錆びついてはいるが、まだ形を保っている。

扉には見た事も無い記号が描かれている。

黄色と黒の三角形。


長老は重そうなレバーを押し下げた。

ギギギ……と鈍い音を立てて、扉が開く。


中に入った瞬間、セツナは思わず息を呑んだ。


「ここは…」


その瞬間、頭痛と共に〝エントリ“という言葉と

液体の入るガラスの容器のある ()()()()の映像がフラッシュバックした。


「うっ」

セツナは思わずこめかみを押さえた。


「どうされた?」

長老が心配そうにセツナを見た。


だが頭痛はすぐに治まった。


「大丈夫。」

セツナは微笑み返した。


(ここだ……)


見たことのない機材が並んでいる。

金属の箱。

管のような装置。


壁には奇妙な板が埋め込まれ、赤や緑の光がゆっくりと点滅していた。

床には、紙の束が散乱している。


どれも長い年月で黄ばんでいた。

巻物のように丸められた紙もある。

「さ、こっちじゃ」

長老が、手を奥の部屋に向けた。


何の疑いもなく、セツナは先に部屋に入った。


セツナが足を踏み入れた瞬間。

背後で、重い音が響いた。

ガンッ。


振り返ると

鉄の扉が閉じていた。


外から、長老の声が聞こえる。

「悪く思わんでくれ」


セツナはドアノブに手を伸ばした。

触れた瞬間。

バチッ、と火花が散った。


床に淡い光が広がる。

魔法陣だ。


セツナはそれを見下ろす。

(……古い術式だ)


解除するのは簡単だった。

ほんの数秒で終わる。


だが、セツナは手を離した。

扉の向こうで、長老がぽつりと呟く。


「少しだけおとなしくしといてくれ」


セツナは静かに目を閉じた。


「……」


索敵の魔法を使う。


魔術障壁が張ってあったが、破壊したと悟られないよう

索敵を開始した。


セツナにイメージが流れて来る。

森の入り口に、黒いローブの男たちが立っている。

自分がここに来た時と同じ場所だ。


(かなりの手練れだ)


そう思った瞬間、索敵の魔力の網が、別の魔力に触れて

バチッとスパークした。

セツナはすぐさま網を解除した。


(バレたかもしれない…)





「だ・か・ら・そんな奴見てねー っつってんだろうが!」

シロンががなりたてた。


「チッ 忌み子が 調子のってんじゃねえ」

そう言って左の黒いローブの男が唾を吐いた。


真ん中の男が続ける。

「ここに我々以外にも訪問者が居たようだ」

そう言うと、折れた矢を拾い上げた。


「この矢の折れた断面だが……

繊維に沿って綺麗に切断されている。

かなりの腕だ。」


「だから何だ? 冷やかしで来る奴は沢山いる

俺たちは()()()だからな!

いちいち覚えてねーんだよ。」

シロンが言った。


「クロフォード様」

そう言って右の男が(ふところ)から巻かれた紙を

取り出した。


クロフォードと呼ばれた男がそれを手に取ると

紙を広げ、シロンの前に掲げた。


「クッ…これは…帝国の…」

シロンはそれを見ると何も言い返せなく

なってしまった。


とその時

「いやいや、これはこれはクロフォード様」


と長老が姿を現した。


クロフォードはフードを外した。


(ダークエルフ…)

シロンは心の中で呟いた。


「こんな辺鄙(へんぴ)な場所まで、どうされましたかな?」


「ルモルグよ、久しいな。」

シロンは2人が旧知らしい事に目を白黒させている。


「こんな所で立ち話もなんですから、ささ

こちらにどうぞ。」

長老ルモルグがそう言って、一行は村の中に

入っていった。


途中、物珍しそうに子供たちが集まったきた。


「ケッ…バケモンばっかりだぜ、反吐が出る」

黒いローブの一人が言った。



――――



「して、ご用件というのは、仮面をつけた人物が

ここに来たかという事でしたな。」

ルモルグが切り出した。


一行は

質素な小屋の中にあるテーブルを囲んでいた。


「ルモルグよ、まず我々の自己紹介をしておこう。」


「こちらが、エルディクティアン帝国、宮廷魔導士団・二等術士

フォクシール」

そういうとフォクシールはゆっくりと頭を下げた。


(に…二等だと…殺されなくて良かったぜ…)

シロンは血の気が引いていくのを感じた。


「そして、こちらが…」

とクロフォードが言いかけたところで


「隊長、自己紹介なんかどうでもいいでしょう、

さっさと誰かぶっ殺してあぶり出しましょうよ。」

もう一人の男がクロフォードを遮ってそう言った。


「ジーン、少しは礼儀をわきまえよ。

皇帝陛下直々の書付を賜わっている事を

忘れるな。」


一瞬 間があった。


「それにルモルグは、皇帝陛下の…」

クロフォードがそう言いかけた瞬間


「クロフォード様! 今はその話は…」

ルモルグが言葉を遮った。


(どういう事だ…)

シロンは心の中で呟いた。


「ケッ」

ジーンはむすっとして、肩肘ついてそっぽを向いた。


その時、顔は獣人だが、手足の長い

年の頃13歳ほどの女の子が

お茶を運んで来た。


コップが置かれるやいなや、ジーンはそれを手に取り

茶を床に撒いた。


「化け物の茶なんぞ飲めるか!クソが」

ジーンは言った。


「いやいや、ジーン殿、ご気分を害されたようで…」

ルモルグは、微笑みながら後頭部を掻いた。


部屋の隅で立っているシロンは

拳を固く握っている。


「ルモルグ、尋ね人がここにおらぬという事はわかった。

これ以上の詮索はすまい。

これにて失礼する。」

クロフォードは出された茶を一気に飲み干すと

席を立った。


その時、フォクシールからの念話が届く

<クロフォード様、やはり奴はここに>


<なぜわかる?>


<魔力が私の網に触れた瞬間

消えたのです。>


<確証はあるのか?>


<はい、とてつもない魔力です

間違いありません。

しかし今は感知できません。>


「そうだルモルグ、せっかく来たんだ

村を少し案内してくれないか?」

クロフォードは唐突にそう言った。





「さて、どうしよう」

誰も居ない部屋で

バッタを使って一部始終を見ていたセツナは

あぐらをかいて頭を掻いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ