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永劫のセツナ  作者: ALOE
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禁足地

大地は黄金色に輝いていた。

緩やかな風が、小金色の(あし)の草原を撫でていく。


「あの場所は近づかんほうがええ」

赤い三角帽を被ったノーム族の農夫が言った。


「なぜ?」

セツナは聞き返した。


男は何かを考えていたがやがて口を開く。


「あそこは…忌み子達が住まう場所じゃ」

ぽてっとした赤い鼻を指で搔きながら男は言った。


「忌み子って?」


セツナが聞くとすぐに後ろの方から声がする。

「あんた!」


見ると恰幅の良い女のノームが怪訝そうな顔で

首を横に振った。


「旅の方…悪いが仕事があるでな…」

農夫の男は三本鍬を持ち、再び大地に爪を突き立てた。


「ありがとう。」

そう言ってセツナはその場所をあとにした。


広大な葦の原を突き抜ける一本道の先に森が見える。

そこから突き出た建造物があった。


四角い外観、周囲には四角い穴がたくさん空いている。


セツナは幼少の頃育った、獣人族領トゥランの

近くにも似たような建造物があったのを思い出していた。

それより遥かに巨大だが。


(……あそこか)


セツナは直感していた。

あの遺跡のどこかに、()()異物がある。


セツナは

自分がなぜそこに導かれるのかは分からなかった。

解除の仕方も、勝手に体が覚えていたのだ。

それはある日突然、衝動が走った。


エントリという言葉についても

自分がなぜこのような力を授かったのかも

分からないままだった。


時々、どうしようもない焦燥感に襲われる。


(焦ったって仕方ない。今は出来る事をやるしかない)



やがて葦の草原が終わり、道も途切れると

そこから先は、ゴツゴツした岩が散乱する

荒れた土地になった。


セツナは先に行かせぬとばかりに鎮座する

巨岩などを超えながら森のほうへ進む。


やがて荒れ地に低い樹木が現れ始め

いつの間にか巨大な樹木が生い茂る

うっそうとした森の入り口に立っていた。


たくさんの鳥や動物たちの鳴き声が聞こえる。


(豊かな場所なんだ)


その時、森の奥から気配を感じた。


風を裂く音。


矢が飛んだ。


セツナの剣が一閃する。

金属音と共に矢は弾かれ、地面に転がった。


セツナは、素早く索敵の魔術を展開する。

熱、音、呼吸、重力。

あらゆる反応を拾う感知陣が、

半径五百メートルに広がる。


(1時の方向50メートル先、木の上に一人、

10時の方向100メートル先、藪の中に二人)


(移動している…結構素早い)


「待ってくれ! 僕は敵じゃない!」


セツナがそう言った時、動物の鳴き声も鳥のさえずりも

消えていた。


(しばら)くピーンと張りつめた静けさ。

風がざわついている。


「帰れ!」

ふいに叫び声が聞こえた。


その瞬間、足元に続けて2本の矢が刺さる。

殆ど同じ場所に着弾している。


「聞きたいことがある!」

セツナは再度声を張り上げた。


セツナは続けた

「ここに、光る祠があるはずだ!色は銀色!」



その瞬間、森から人影が飛び出し、セツナに襲い掛かった。


同時に3人が飛び出し、時間差で次々と斬撃を繰り出してくる。


しかしセツナには止まって見える。

3人は瞬く間に地面に叩きつけられた。


「くッ…」

「ウッ…」


呻きながら地面に這いつくばる3人は

仮面を被っていた。


「手荒な真似はしたくなかったんだけど」


3人のうち一人が胸を押さえながらよろよろと

立ち上がろうとしていたが、セツナの顔の仮面を

みるやいなや


「あ あんたも もしかして‥‥」

と言ってセツナを指さした。


「どういう意味ですか?」


「忌み子か?」

と男は低い声で聞いた。


「違います」


「ではなぜ仮面をしている」


セツナは一瞬間を置いた。


「余計なトラブルを避けるためです」


男はしばらく考えていたが


「あんたも顔を晒せない事情があるって事か」


男は倒れている二人をちらりと見た。


「それに、力づくで って訳にもいかないか」



「わかった、長老に聞いて来よう。

少し待っててくれ。」


男はそう言うとへたり込んでいる二人の仲間を

助け起こし、二人を肩にかけて森の中に

消えていった。


気が付けば、鳥のさえずりが戻っていた。



暫くしてさっきの男が戻って来た。


「待たせた。長老がお会いになると。」


「本当ですか? ありがとうございます。」


「あんたの事を知っているような口ぶりだったな」


「……」


「俺の名前はシロンだ。あんたは?」

左右の目がちぐはぐな仮面をつけた男は

ぶしつけにそう言った。


「……セツナ」

なぜか本当の名前を言ってしまった。

言わなければならない気がしたのだ。


シロンについて茂みをかき分けて進むと

そこから先は道が続いていた。


良く手入れされた道の脇には

奇妙な形の鉄の塊が横たわっていた。


車輪のついた箱のようなもの。

錆びつき、半分は砂に埋もれている。


遠い昔、この場所には別の時代の人々が暮らしていたのだろう。

だが今、その面影はほとんど残っていない。


セツナが瓦礫の間を進んでいくと、不意に煙の匂いが鼻をかすめた。

誰かが火を使っている。


さらに進むと、崩れた建物の影に小さな集落が見えてきた。


崩れた建物をうまく利用して、居住スペースを確保

しているように見える。

布を張った簡素な屋根。

廃材を組み合わせた壁。

鉄の残骸を利用して、人々の暮らしが作られていた。


奥には遠くから見えていた巨大な建造物が見える。

壁面には植物が絡みつき、無数の四角い穴からは

樹木や花が飛び出していた。


肩から角の生えた子供が一人、セツナに気づく。

その子は一瞬だけ目を丸くし、すぐに走り去った。


「外の人が来たぞ!」


声が広がる。

やがて数人の大人たちが姿を見せた。


だが彼らの姿は、どこか奇妙だった。


姿は人間だが鱗が生えた男。

顔は獣人族だが、鱗が生えた女。

エルフの容姿だが、不規則に角が生えた青年。


種族が混ざっている。


人間でもなく、獣人でもなく、エルフでもない。

セツナは静かにその光景を見つめた。


(……混血)


この世界では珍しくない。


この世界では異種族間の交わりはタブーとされている。


生まれたとしてもすぐに死んでしまうか、人目を忍んで

処理されてしまうのだと聞いていた。


だがどうだろう、ここには沢山の混血がいる。

誰にも見つからない、こんな場所に。


その時、村の奥で、ひときわ目を引くものが視界に入った。

一本の大きな木。


建物の残骸に囲まれながら、それだけが静かに立っていた。

枝は広く伸びているが、葉はまばらで、花は一つもない。

枯れ木のようにも見える。


その根元で、一人の老人がしゃがみ込んでいた。

ゆっくりと土を掘り返し、桶の水を静かに注いでいる。

まるで大切なものを扱うように。

セツナはその光景をしばらく見つめた。

やがて老人が顔を上げる。


エルフ……?

しかし、ローブからのぞく腕には獣毛がびっしり

生えていた。


深い皺の刻まれた顔が、仮面の旅人をじっと見た。

そして、ぽつりと言った。


「……よくぞ来なすった。獣人族のセツナ殿。」


「僕を知っているのですか?」


「あんたほど有名な獣人はおらんじゃろ?

違うか?」

歯の抜けた口元がにやりと笑った。


シロンが口をはさむ

「長老、先ほど話した客人です。」


「うんうん わかっておる。 シロンが失礼したの」


老人は再び木に目を向ける。

「この村に外から人が来るのは、珍しい」


少し間を置き、こう続けた。

「まあ、座れ。立派じゃろ?

この木はな、まだ生きておるんじゃよ」


セツナは視線を枝に向けた。

花は、どこにも咲いていない。


「薄紅色の花が咲き乱れるんじゃ

それはもう美しい。」


「長老…またその話ですか?そんな話を

外から来た人に話したって迷惑なだけですよ」

シロンがため息交じりに言った。


セツナは何も言わなかった。


「そうじゃな、こんな事より本題か」

そう言って長老はカッカッカッと笑った。


「……」


「銀色の祠 じゃな。」


「はい」


「ついてきなさい」


そう言って、長老は杖をついてゆっくり歩き出した。


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