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永劫のセツナ  作者: ALOE
34/45

条件

キルヒードは剣と盾を構えたまま動かない。


中央に立つ獣人は、無駄のない立ち姿だった。

金色の瞳がまっすぐこちらを射抜く。


キルヒードのリザード人としての本能か。

すべて見透かされているみたいだ。


(……勝てない)


即座にそう判断した。


(逃げなければ……)


だが、彼らの気配は圧倒的だった。


動かないのではない

“動けなかったのだ”


それに左右の獣人二人は落ち着いている。


一人は短い刀を背負い、黒装束に金色の鉢がね

闇を射抜くような眼であたりを警戒している。


もう一人は女性だが、背が高く、優しさの中に

誇り高さも持ち合わせていた。


キルヒードはこの3人を見ていると、

この辺りに危険はないと不思議と安心感を憶えた。


獣人が静かに言う。


「怪我は無いか」


声に威圧はない。だがドキリと衝撃が走る。


「誰だ」


「ああ、すまない、名乗るべきだったな。

俺の名はセファルト」


(セファルト……どこかで…)


「とりあえず剣をおろしてくれないか?

俺たちはあんたの敵じゃない。今は……」


「今は?」


キルヒードは(いぶか)しんだ。

そして再度剣を構えなおした。


「俺たちはあんたに敵意はない。

信用しろとは言わん。

だが伝えたい事がある。」


セファルトは淡々と語った。


リザード国で内乱が起きていること。

ンディマの壊滅。

王宮が混乱していること。

デモニウスの逸脱。


キルヒードは緊張を解かない。

しかし一瞬、脳裏に家族の姿が浮かぶ。


「それを信じる証拠は?」


「疑うならそれでもいい」


「本当なのか」


「ついて来い」


セファルトと名乗る男はくるりと踵を返し反対方向に

歩き出した。


即座に黒装束の男がセファルトの前を歩く。


背の高い女の獣人は、キルヒードに微笑みながら

こくっと頷いた。


(俺など、まったく脅威でもないのだな…)


キルヒードはなぜかフフッと笑ってしまった。



しばらくして一行は洞窟の入り口まで到達した。


久しぶりの日差しにキルヒードは目を細める。


(空がこんなに眩しかったのか……?それに青い…?)


やがて一行は針葉樹が生い茂る林に到達した。

その藪の向こうに薄く黒い煙が立ち上っている。


草をかき分け、少し入ると木の生えていない

開けた場所に出た。


そこには巨大な木造船が静かに佇んでいた。


「な…」

キルヒードは言葉が出なかった。


その船にはたくさんの羽のようなものが

取り付いており、ゆっくりと回転していた。


「こんな場所にどうやって…」


「これで空を移動する。」

セファルトは真顔で言った。


「は?」


するとシューっという音と共に

船の横の穴から白い蒸気が噴出した。


「飛んでいくのよ」

そう言って女の獣人は微笑んだ。


「な…なんだって!?」


すると船の甲板から下を見下ろす人影が声をかける。


「殿下~!今梯子(はしご)を下ろしますんで!」


キルヒードは思わず呟く。

「何? あれは人間!?」


一行は梯子を上り、甲板に出た。


そこには人間と獣人がせわしなく行き来している。


その様子をじっと見ていたキルヒードは口を開いた。

「あなたが何者か、鈍感な俺でもわかったよ。」

キルヒードは観念したようにセファルトに言った。


「先程までの無礼な態度を許してくれ、

キルヒード・ンディマ皇太子殿下」

そう言ってセファルトは頭を下げた。


「無礼なのはこちらの方だった。

セファルト・フェルザリア王」


そう言ってキルヒードはセファルトの前に

片膝をついて頭を下げた。


「頭を上げてくれ、キルヒード」


キルヒードは立ち上がり、改めてセファルトと向き合った。


「色々と驚くことがあるだろうが、

今は説明している暇はない。

端的に言う。フェルザリアは…」


セファルトは一呼吸置いた。

そして低く落ち着いた声で


「リザード領に攻め入るつもりだ。」

と言った。


「何?」

キルヒードは怒りか恐れか湧き上がる感情をこらえた。


「ンディマは使徒と言う化け物に取って

代わられようとしている。

使徒は人に寄生し、その者を操り

少しずつ支配地域を増やしている。

放っておけばやがて我が国にも食指を伸ばすであろう。」


「………」


「しかし、そうなる前に食い止めねばならない。

我らの精鋭をもって

リザード領を制圧し、国を立て直す。」


「しかし、わが父ジャヒードは……」


「ジャヒード王は軟禁されている。

デモニウスによってな。

もはや王政機関は機能していない。

街は暴動が起き略奪や殺人が始まっている。」


「……」


「そして……デモニウスは人ではない」


「くっ……」

キルヒードは怒りが込み上げていた。

まぎれもなく自分に。

握った拳から血が流れた。


「ジャヒード王は生きている。

恐らくは貴殿をおびき寄せる為の餌としてな。」


しばらく沈黙が流れた。

そしてキルヒードが口を開く。


「俺を…ンディマに連れて行ってくれ。」


「行ってどうする?」


「……」

キルヒードはセファルトから目線を逸らした。


セファルトはキルヒードの目をしばらく見つめ


「3日だ」


そう言ってセファルトはキルヒードの眼前に

指で3を作った。


「?」


「3日でンディマを制圧してみせよ。」


「!!」

キルヒードの心に稲妻が走った。

だが、もやもやした物が晴れた感覚が

確かにあった。


「俺たちは近くで待機している。成功したら

4日目の朝に狼煙をあげろ

合図がなければ俺たちは

即刻貴殿の国に侵攻する。」







船はンディマ西門から少し離れた巨大な岩の

裏側に着陸した。


辺りは焦げた石と血の匂いだった。

肉の焼ける匂い。

甘く腐ったような匂い。

あの赤い花の匂いだ。


西門付近まで近づくと

その光景にキルヒードは言葉を失った。

そこはまさに地獄絵図だった。


瓦礫の間を救護班が走る。

うめき声。泣き声。

バラバラの死体。

泣き叫ぶ子供。

キルヒードは立ち尽くす。


西門をくぐろうとすると門の壁にもたれ、

キセルを吸う男がいた。


「世間知らずのおぼっちゃんがお出かけの間に、

多くが死んだ」


煙がゆらりと流れる。


「お気楽なもんだ」


キルヒードは言い返さない。

「生存兵は?」


男は一瞬だけ目を細め間を置いて

「生きてる奴3割、戦えそうなのは1割」

と言った。


「お前はここの指揮官か?」


「俺はしがない見張り番さ」


「指揮官クラスの兵はどこだ?」


「さあ その辺に転がってる死体にでも

聞くんだな」


「わかった」


キルヒードは遠くを見つめる眼差しで王宮を見た。


そして男はキルヒードを見つめていた。

彼の一挙手一投足を見逃すまいとするかの如く。


「現存する動ける兵を東の広場に集めてくれ 

やれるか?」


「俺はただの見張り番だぜ? できるとでも?」

軽口だが目は射抜くように鋭い。


「しらばっくれるな。お前には出来る筈だ、ギモン」


「はっ 覚えてやがったか」


ギモンはキセルを叩き、立ち上がる。


「面白い。だがその前に状況説明だ。」


ギモンはキルヒードにこれまでの事を説明した。


味方に敵側の人間が紛れ込んでいた事。

それにより、ンディマ軍は混乱し、壊滅状態に。

王下6剣の怪しい動き。

謎の波動で記憶が飛び、それが自分も含め多くの兵が体験した事。

逆に全く影響を受けていない兵もいて、

指揮官クラスに多く認められた事。

その後、何故かムフティール軍は撤退。

ジャヒード王が王宮に軟禁されているという噂。


「わかったのはこのくらいだ。」


「充分だ。だが敵はムフティールではない。」


「何?」


「真の敵は使徒と呼ばれる寄生生物だ。

寄生した者を操る。」


「……?」


「ムフティール、デモニウス、王下6剣… 

奴らの幾人かははすでに寄生されているだろう」


「……」


「奴らをせん滅する。」


その時、西門の奥の方から怒鳴り声が聞こえた。



「てめえ! 裏切り者が! 今更…」

一人の兵士がもう一人の兵士の胸ぐらをつかんでいた。


キルヒードとギモンが向かった先には、

大勢の兵が居た。しかし様子が変だった。


「あれは、敵側から投降してきた兵だ。まともな奴もいるが中には気がふれたように虚ろな者や、意味なく怯えるもの、例の赤い花の病に侵されている奴もいる。」

ギモンが説明した。


キルヒードは近くにいる、比較的まともそうな兵に

声をかけた。


「なぜ投降した?」


「あっちは化け物だらけだ。特にムフティール将軍は……」

そういうとその兵士は顔を覆ってうずくまってしまった。


ふと、ギモンは建物の崩れた柱に寄りかかる

大柄な女が目に留まった。


「あいつは…」


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