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永劫のセツナ  作者: ALOE
33/45

異物

「今…のは一体……」

ジャヒードは急に酷く疲れた状態になり

呼吸は荒れ、汗が噴き出していた。

立っていられない。

周りを見ると、ビビが机に突っ伏しており

彼女の目の前にメイドが二人折り重なって倒れている。

絨毯には大量の血。

その傍らに、黒装束の男と、キリアンが倒れている。

しかし状況がうまく理解できない。

それ以上にとてつもない事が起った気がしたからだ。

頭の中がひどく混乱している。


ふと視線を入り口に向けると、黒い鎧を着た大柄な兵士が

立っている。

その者は何かを呟いた。

「お…死ん…う…」

ひどいめまいがしてうまく聞き取れない。


「デモニウス…」


デモニウスは何も言わず、佇んでいる。

倒れていた黒装束の男が動き出す。

ほふく前進でビビの方へ進む

手には短刀を持っている。


ジャヒードはうつろな意識をなんとか立て直し

「お…おい!」

と声を振り絞る。


黒装束の男の動きがピタリと止まる。

キリアンが足をつかんだからだ。


「な…何を…している…」


沈黙し動かないデモニウス。


だがジャヒードは感じていた。

彼は独自の行動原理で動いていると。


しかしジャヒードはそれを詮索する事も

(たしな)めることもできなかった。


そしていつかこの日が来ると心のどこかで思っていた。


この数か月、彼の逸脱した行動が度々見られた。


今回の6剣とキルヒードを伴った岩塩探索も

半ば強引にキルヒードを後ろ盾に押し通した。


ムフティールとの関係も

次第に緊張を増しているこの時期に。


また、

人間奴隷を使った怪しい実験。

臓器の売買

他国の秘密組織との取引など

近頃のデモニウスにはそのような噂が付きまとった。


しかしそのような噂に対して処理をするのは

決まって息子のキルヒードだった。


息子は何かの弱みを握られている。

あるいは、圧力をかけられている。

いや、幼い頃からそれは薄々理解していた。


ジャヒードは、それを見て見ぬふりをしてきたのだ。

それらを判断するのも王になる者の試練だと

どこかで正当化する自分が居た。

いつしか、食事も一緒に取らなくなった。

それは息子が、王である自分を庇っての行動だと

いう答えに、行く着くことを恐れたからだ。


息子を苦しめる存在がすぐそこに居る。

おそらく自分を失脚させるために。



足音が鎧の重たさを物語る。

デモニウスはゆっくり近づいてくる。

デモニウスに続き、6剣の副長ムドオン、魔術師のヒムリー、そしてヨムが

続いて入って来た。

3人は部屋の隅にそれぞれ立ち、表情は無かった。


「いつからだ…?」

ジャヒードはデモニウスを見上げ

少し震えた声で問うた。


デモニウスは黙っている。


そこに、黒装束の追手が勢いよく入って来た。


「デモニウス様!!キリアンは…」


追手は部屋を見渡し、状況を把握した。

途端に顔色が変わる。

誰も殺せていない。


追手はゆっくり振り向き、震えながら

デモニウスを見た。


その瞬間、デモニウスの目に見えぬほどの一太刀が

彼を肩から袈裟に切り裂いた。


血を吹きだし倒れる男。

叫び声も上げぬ間に。


その状況を見ていた、もう一人の追手は

キリアンに足をつかまれたままデモニウスに訴える。

「ああ…あ… どうか、デモニウス様……」


男は片足でキリアンの顔を何度も蹴り

ついにはキリアンの手を振りほどき

落としたナイフを拾いビビに襲い掛かろうとした。


その瞬間

キリアンが素早く後ろから首を刎ね飛ばした。


膝をつき、頭のない男から噴水のように噴き出した血が

ビビとキリアンに降り注ぐ。


「ひいいい!!」

ビビは悲鳴を上げ、四つん這いで部屋の隅に移動した。


キリアンは返り血を浴びながら、ゆっくりと

デモニウスに向きなおった。


部屋中に緊張が走る。

そしてムドオンとヨムは剣の柄に手をかけた。


それを手で制止するデモニウス。


キリアンは静かに口を開いた

「デモニウス将軍、いや、あなたは何者?」


「何者とは存外な事をおっしゃる、キリアン姫」

デモニウスはしゃがれた声で言った。


「じゃあその兜を脱いでみせて」

キリアンは鋭い視線を向ける。


暫く沈黙が続く。


そしてデモニウスはゆっくり兜を脱ぎ始めた。


ムドオンは腰の剣の柄を強く握った。


やがてデモニウスの顔が(あらわ)になった。


「これでどうですかな? 姫」

デモニウスは焼けただれてケロイドのようになった

顔をキリアンに見せた。


ムドオンは柄を握った手を緩めた。


しかしキリアンは表情を緩めない。


「賊は始末しました、ジャヒード王」

そう言うとデモニウスはジャヒードの前に片膝をついた。


「あ、う……」

ジャヒードの顔からは血の気が引いている。


キリアンはぐったりしている母のビビの元に駆け寄る。

「ママ! しっかり。」


「ああ‥キリー(キリアン)、ひどく疲れたわ。」


キリアンは母をソファに寝かせ、クッションを敷いた。


「キリ― なんて恰好なの?」

下着姿のキリアンを見て少し目を見はっている。


「色々あったの。いいのよ、今は考えなくても」

キリアンは優しくたしなめた。



その時、誰かが部屋に入って来る気配がした。


「クリシュ!」

キリアンは安堵したように部屋に入って来たクリシュを

見た。


クリシュは部屋を見渡し、状況を把握しようと努めた。


「デモ…」

“デモニウス"とクリシュが言いかけた時


「ジャヒード王よ、この部屋には何人たりとも

通しませぬ。安心めされよ。 王下6剣、全力で

お守り致す故。」

デモニウスはクリシュの言葉を遮り、大きな声でそう言った。


「クリシュよ、戦況はどうなっておる? 

持ち場を離れるとはどういう事か?」

デモニウスは落ち着いた低いしゃがれ声で

クリシュには向き合わず言った。


「戦況は…混乱しております…兵士全員に変調が

起こり…」

クリシュは言葉を選んで絞り出した。


「ほお、変調とはどういう事か?

じっくり聞かせてもらおう。

だが作戦に関わる事だ、後で私の執務室に来い。」


そして、デモニウスはムドオン達に目くばせし、

部屋を出ていった。


デモニウスがクリシュの横を通り過ぎる時

鎧の内側からカリカリとひっかくような音が

たしかに聞こえた。

そして続いて、ムドオン、ヨム、ヒムリーは

クリシュを一瞥もせず部屋を出ていった。






キルヒードは元来た道を歩き続けていた。

気分はどうあれ、なぜか体は軽かった。


(戻ってどうするというのだ……復讐でもするのか)


デモニウス達がなにかを企んでいた事はわかっていた。

しかし内容までは知らない。

聞く気も無かったが。

だが、貴族からの依頼だと言われれば、断る事が

できなかった。

断れば、父ジャヒードの立場がまずくなるからだ。


だが邪魔になった。

だから、俺が死ねば、家族に危害は及ばない。


キルヒードはなぜか家族の事は楽観視していた。


洞窟を登っていくと、大きな空間のある場所に出た。


「あのドラゴンが居た場所だ。」


キルヒードに緊張が走る。


(しばら)く岩陰から、この場所の様子を探っていたが

どうやらドラゴンは居ないらしい。


だが、さっきから別の違和感があった。


「俺に何の用だ」


キルヒードは立ち止まり、何もない空間に

問いかけた。


すると、上の方の岩陰から、何者かがゆらりと

姿を現した。

どうやら一人ではないらしい。


「お前たちはムドオンの……」


黒装束の男たちは、何も言わず、短剣を抜き

一斉にキルヒードにおどりかかった。


キルヒードも剣を抜く。


黒装束の3人は、上空と地上2方向から、キルヒードに襲い掛かった。

だがキルヒードの剣は上から来た男の武器を持つ手首を切り落とした。


「うっ――!」


手を切り飛ばされた男は着地すると、腕を押さえて(うめ)いた。


それを見て、地上の男たちは一度バック転で距離を取った。


黒装束の男がつぶやく

「正直あんたを(あなど)っていた。キルヒード王子。」


手首を切り飛ばされた男は、急いで傷口に

止血の包帯を巻いている。


「遊びは終わりだ 王子!」

そう言った瞬間一人がキルヒードに向かって踏み込んだ。


それをキルヒードは剣で受けた。


その瞬間、もう一人がキルヒードの後ろに回り込み

羽交い絞めをした。


「クッ……!だ、誰か……」

(誰も…いない…)


キルヒードがいくらもがこうと、羽交い絞めは

解けない。


「死ね、間抜けな王子!」

黒装束の男の蛇を模した短剣が光る。



黒装束の男がキルヒードを刺そうとした瞬間


「ううっ!」

という声と共に、男が倒れた。


(短剣の痛みが来ない…)

キルヒードには何が起ったのか分からなかった。


しかし、よく見ると、倒れた男の肩に矢じりが刺さっている。


退()くぞ!」

そう言って、黒装束たちは岩肌をトントンと駆け上がって消えていった。


するとどこからか話声がする。


「追いますか? 殿下」


「いや、いい。俺たちの敵ではないからな」


「はっ」



「誰だ?」


キルヒードは(もや)の向こうに目を凝らす。


すると(もや)の中から、3人の人影が現れた。


(獣人族……?)


「怪我は無いか?」

そのうち、真ん中に居る獣人がそう言った。


無駄のない動き…

金色の瞳、すらっとした体形だが、鍛えあげた体だと

一目でわかった。


キルヒードは剣と盾を構えた。














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