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永劫のセツナ  作者: ALOE
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神のルーキー

 砂漠の道を、難民の列が進んでいた。


 列と呼ぶには、あまりにも不揃いだ。


 荷車を引く者、背負い袋を抱えた者、何も持たずに歩く者。


 共通しているのは、行き先がないということだけだった。


 セツナは、馬車の端からその光景を眺めていた。


 仮面の内側で、息を整える。


 内戦――


 それが、この地で使われている言葉だった。


 保守派のジル族と、改革派のスラン族。


 特産物の岩塩をめぐり、どちらも、自分たちこそが正しいと言い張り、


 どちらも、相手を「国を壊す存在」だと呼んでいる。


 だが、列の中にいる者たちは、

 どちらの名も口にしない。


 彼らは、ただ逃げている。

 


 

 馬車が止まり、水を分ける時間になった。


 セツナが地面に降りると、

 小さな声が聞こえた。


「……いたい」


 振り向くと、少年がうずくまっている。


 年の頃は十にも満たないだろう。


 肩に、赤い花が咲いていた。

 乾いた土地に不釣り合いなほど、鮮やかな色。

 ()()花だった。


 蔦は細く、しかし確かに少年の肩から足に絡みついている。


 周囲の大人たちは、目を逸らした。


「触るな」

「それは……良くない」

「その子はもうだめだ……」


 理由は誰も言わない。


 だが、どうなるかも知っているのだろう。


 セツナは、静かに少年の前に膝をついた。


「もう大丈夫」


「君、名前は?」


「ハシン」


「じゃあ ハシン、少しじっとしてて」


 それだけ言って、手を伸ばす。


 緑の光が、淡く滲んだ。


 蔦は、抵抗するように震えたが、

 やがて、風に溶けるように消えていく。


 少年は、驚いた顔で自分の肩を見た。


「……いたく、ない」


 セツナは、それ以上何も言わない。


 周囲に、ざわめきが広がる。



少年の肩から、赤い花の蔦が消えた。


 周囲の難民たちは、言葉を失っていた。


 誰もが、少年とセツナを交互に見つめている。


「……なんという事だ」


 低く、掠れた声が聞こえた。 


 その言葉には、怒りよりも、深い悔恨が滲んでいた。


 声の主は同じ馬車に乗っていた、フードをかぶった男だった。


 彼は、セツナと少年との一部始終を見終わって呟いた。


「こんな子供にまで……蔦が」


「……」


「それにあんた、どうやった? 不思議な事をやってのけたな」


 ――その瞬間。


 風を切る音。


 鋭い殺気が、背後から一直線に伸びる。


「後ろだ!」


 誰かの叫びと同時に、刃が振り下ろされた。


 フードの男は身を翻すが、完全には避けきれない。


 斬撃が、布を裂いた。


 ざくり、と乾いた音がして、

 フードが宙を舞う。


 露わになった顔に、難民の一人が息を呑んだ。


「……ジャヒード様……?」


 ざわめきが、一瞬で広がる。


 その名は、囁くように、しかし確かに伝播した。


 フードを失った男――ジャヒードは、歯を食いしばりながら立っていた。


 肩口から血が滲んでいるが、崩れない。


 そして、彼を囲むように、五つの影が現れる。


 昨日、確かに感じた気配。


 夜の闇に溶け込むように尾行していた者たち。

 同じ連中だ。


(尾行されてたの、この人だったんだ……)

セツナは心の中で納得した。


 5人は武器を構え、無言で距離を詰めてくる。


 難民たちが、悲鳴を上げて後ずさる。


 その時だった。


 砂を踏む音が、一つだけ前に出た。

 セツナだった。


 仮面をつけたまま、

 セツナは、五人とジャヒードの間に立った。


「……ここまでにしませんか? 皆見てる。」


 声は、静かだった。


「あんたには関係ない。そこをどけ!」


大柄なリザード人が剣をセツナに向けた。

 

 だが、その一言で、空気が変わる。


 踏み込もうとしていた一人が、

 突然、足を止めた。


「……?」


 地面に、淡い緑の光が走る。


 一瞬だけ。


 だが、それ以上、誰も前に出られなかった。


 距離がある。

 たった数歩。

 それなのに、

 そこが“越えられない”と、本能が告げている。


 五人は、互いに視線を交わした。


「チッ」

 舌打ちが一つ。


 次の瞬間、彼らは砂煙を残し、闇へと退いた。

 

 

 静寂が戻る。


 ジャヒードは、セツナを見る。

「……君は」


「ただの通りすがりです。ただ……おせっかいかもしれませんが、彼らはまた来ますよ。」


「ああ……わかっている」 


ジャヒードは、それだけ答えた。


(あくまで部外者でいなければ。)

 仮面の奥で、視線を外す。


 セツナはこの場で、名を名のるつもりはなかった。


 難民たちが、まだ呆然と立ち尽くしている。


 その時、女性の声で群衆をかきわけ駆け寄る人影があった


 「この子を、この子をお救い下さい!!」


セツナが見るとその女性は赤ん坊を抱えていた。

「どうかこの子を!!」


赤ん坊の背中に赤い花が咲いている。


すると、次の瞬間、「俺も」「私も」とあちらこちらから声がかかる。


そしてセツナの前にはみるみる人が集まり出した。


(ああ……やっちゃった……どうしよう……)


ここで巨大な治癒のオーラを展開して、花に寄生されている人を全て治すことは

簡単だが……


セツナはここでイトの言葉を思い出す。

「事象には前後がある、物事の流れを見極め、力の使いどころを見極めよ……」


と。


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