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永劫のセツナ  作者: ALOE
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違う側面

家の中を、不思議と外から覗き込むように見ている自分がいた。

 煤けた梁、土壁の割れ目、母の擦り切れた袖。

 この人生で初めて見るのに既視感があり、そしてそれぞれの意味を知っていた。

 そして興味は既視感の無い物に移る。

 前の人生では何も思わず通り過ぎていたはずの景色に興味が湧いた。


 そのとき、目に留まった。

 本棚の隅に押し込まれ、埃をかぶった一冊の赤い本。

 最初の人生では気づきもしなかった存在だった。

――こんな所に本があったんだ――


 俺は親がいない隙を見計らって、椅子に登りそれを取り出した。

 革の表紙は擦り切れていて、開いた途端に古い紙の匂いが鼻をついた。

 文字は子どもには難しいものばかりだったが、なぜか懐かしく、馴染み深い感覚があった。

 表紙の著者の部分、エクセシアス・E・ウィルウォード

 ―—えくせしあす……―—

 「誰だろう」


 立っている椅子に腰かけ、表紙を開く。

 文字とイラストとで構成されており、それは図解書のようだった。


 前の短い人生で覚えた語学力を使い、指でなぞりながら夢中になった。

 語学に関しては、意味も分からず両親から教わった。

 それが普通だと思っていたが、1度目の人生の時、周りに字を書いたり読んだりできる人間が

 ほとんどいない事を思い出した。


 ―—そういえばいつも文字を読まされる役だったな……―—


 その本の内容は、社会の成り立ちについて書かれていた。

 士農工商についてや、食物連鎖、金融の仕組み、物流について、国の歴史や成り立ちについて

 また、人種や、種族、魔法や騎士道についてなど、この世界のあらゆることがまとめられていた。

 イラストや数字の表、図形、グラフ。

 貨幣の価値の移り変わりを表す複雑な図表、戦の勝敗を左右した交易路の地図もあった。

 意味の半分も理解できなかったが、確かに俺の中に染み込んでいった。


 やがて家の外でごとりと音がした。

 両親が畑仕事から帰って来たのだ。

 俺は慌てて本を閉じ、そっと元の場所へ戻す。

 その日から、その本は俺の秘密になった。


 時は過ぎ、俺が七つになった頃。

 父が畑から戻ってきた夕暮れ、暖炉の火に当たりながら、俺はあえて何気ないふうを装って聞いた。


 「父さん、あの本……なに?」


 父の手が一瞬止まった。

 薪をくべる手がわずかに震え、目が細められる。

 そして、諦めたように息を吐いた。


 「お前……見つけたのか」


 母も振り向き、静かに父を見つめた。

 父はゆっくりと口を開いた。


 「昔な、俺は都会で大学で教壇に立っていた。学問を教えていたんだよ。……だが、国が言うとおりに嘘を教えろと命じられた。隣国を悪しざまに描いた歴史、王族を持ち上げる作り話……。俺には、それがどうしてもできなかった」


 暖炉の火が、父の顔の影を濃くした。


 母がそっと言葉を添える。

 「私は……その時の教え子だったの。お父さんの授業は、本当のことを教えてくれた。だから……一緒にここに来たのよ。」


「あの本は国の教えに(そむ)いた本なんだ。本当の事が書かれているからな。持っているだけで重罪だろう。」


「じゃあ なんであるの?」


「俺の捨てられない魂が宿っているんだ。あれは俺が書いた本だよ。最後の一冊なんだ。」


「え!? 父さんが!? でも……」

――著者の名前が違う―――と思わず口に出しそうになって慌てて止めた。


「著者の名前が違うのはなんでか だろ?」

重苦しい空気が解けたように父は少しいたずらっぽく笑みを浮かべながらそう言った。

「お前がその本を読んでる事に俺も母さんも気がつかなかったと思ってるのか?」


「毎回椅子を元の位置に戻すのが私の日課だったのよ!」

と、母も笑みを浮かべてそう言った。


――バレてたんだ――



「あの名前はペンネームだよ。偽装さ」


 俺は黙って聞いていた。

 なぜか胸の奥がじんと熱くなるのを感じながら。


 ――一度目の人生では聞けなかった話だ。

 ――好奇心で、人生は深くなる。


「母さん、封印を解くか?」

「仕方ないわね」

二人はうれしそうに意味の分からない会話をしている。


「何? 二人とも」


そういうと二人は食器棚の端と端をそれぞれ持ち、引きずって少しずらした。

そうするとその下に収納用の扉が現れた。


 ―—こんなのがあったなんて――


そして父親が扉を開けるとそこには本がぎっしり詰まっていた。

100冊はあろうか。手書きの羊皮紙や、焼け焦げたものまで混じっている。


自分の心臓の鼓動が脈打つのがわかる。


「これを全部読め」





 その夜、俺は七歳の小さな胸の内でひとつの確信を抱いた。


 好奇心が両親の違う側面を見せた。

 知ることは、生きることを強くする。

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