50話 模擬戦
「剣一本のみ。はじめ」
ヒルダが笑って、開始の合図を出した。めちゃくちゃ楽しそうな顔しやがって。周囲も人が集まってきやがった見世物じゃないんだけどな。
剣闘場の中央に、俺とイヴァンが立つ。周囲の炎の民の連中が壁際に並び、息を潜めて見守っていた。
松明の火が揺れて、砂の匂いと汗の匂いが混ざった。空気がぴんと張りつめて、静けさが重くのしかかる。
俺はミスリルソードを握り、肩の力を抜いて構えた。
イヴァンは自分の剣を抜くと、軽く振って刃の感触を確かめる。
その目が、俺を試すみたいに動くのがわかる。心臓が、少しだけ速くなった。
俺は一歩、踏み込んだ。一成。
大きく間合いを詰める一歩。砂が跳ねて、足音が乾いて響く。俺は突きを放った。ミスリルソードの先端が、真っ直ぐイヴァンの胸を狙う。
イヴァンは動かなかった。そのままの姿勢で、風柳で突きを軽く受け流しやがった。
剣先がすっと逸れて、俺の体勢が崩れかける。基礎の技。だからこそ、上手い奴ほど怖い。一歩も動かず、受け流して、そのまま反撃まで持っていける。
でも、今はカウンターが来ない。実力差が致命的ってほどじゃない、そう見えた。
俺の剣がいなされ、刃が擦れて火花が散る。ミスリルに刻まれた魔力紋が、火花に合わせて一段明るく光った。
俺は間髪入れず、得意技を叩き込む。
裂華。四回の連続斬撃。横薙ぎ、上段、下段払い、返し斬り。刃が空気を裂き、風が巻き上がる。
イヴァンは身を低くしてかわしながら、反撃に牙衝を返してきた。
鋭い突進の突き。一直線に俺の胸を狙う。俺は金剛で踏ん張り、ミスリルソードで剣先を受けきった。
受けきった……はずなのに。突きが鋭すぎて、足が砂を削りながら後ろへ持っていかれる。
数メートル、そのまま吹き飛ばされた。
地面に転がり、砂を浴びた。息が詰まって、口の中がじゃりっとする。体が小さく震えるのが、自分でもわかる。
この瞬間に悟った。やっぱり、剣一本は分が悪い。勝ち目が薄い。薄すぎる。
でも、負けるのも悔しい。だから、卑怯で行く。
俺は足元の砂を蹴り上げて、目くらましを作る。砂煙の向こうで、もう一度一成をした。
大きく踏み込んで、そのまま低く滑り込む。スライディングで、間合いを潰し、イヴァンの目前で飛翔技を叩き込んだ。
天翔。体が軽く跳ね上がる。
イヴァンは鋭い反射で避けた。だが、俺は止まらない。
天井に当たる瞬間、体をひねって回転し、天井を蹴って加速する。その勢いを突進に変えて、突き技に繋げた。
牙衝。突進の必殺の突き技を、ねじ込むでやった。
イヴァンはバックステップでかわし、また距離が開く。剣先が交差する寸前で離れ、空気だけが切れていった。
周囲がどっと沸いた。炎の民の連中が歓声と拍手を上げる。
「いい動きだな。なるほど、お前の言いたいことが分かった」
イヴァンの低い声が、闘技場に響いた。
俺は息を整えて、剣を握り直す。
「まだ始まったばかりだぜ」
「分かってるだろ。なら本物を見せてやるぜ」
イヴァンは、かかってこいと言わんばかりに剣を構えた。その構えが変わったのが、肌で分かった。空気がまた一段、重くなる。
俺は再び踏み込み、裂華を連続で繰り出す。この身体の持ち主が一番得意としていた技だ。
四回の斬撃がイヴァンを襲う。
イヴァンはまた風柳で受け流した。そして、俺の四連続の攻撃はすべて空を切った。
その瞬間。一刀両断みたいな一撃が、俺の方へ落ちてくる。
俺はミスリルソードで受けきった。だが、甲高い音が鳴り、魔力の発光が弾ける。衝撃が腕を貫いて、握力が一瞬で持っていかれた。
剣が、俺の手から離れ、砂に突き刺さって、鈍い音が響いた。
「勝負ありだな」
「あぁ……」
俺は膝をつき、息を荒げた。負けた理由は、はっきりしてる。
最初の裂華の時点で、判断を間違えた。
あれは俺の技量を見るための動きだったのに、俺は実力差がそこまでじゃないと勘違いした。
「なぜシビさんは、そんなに簡単に負けたんですの?」
エレナが心配そうに聞いてくる。
イヴァンが静かに言った。
「こいつは組み合わせの攻撃は凄い。さっきの砂の目くらましみたいな、普通の戦士がやらない邪道も混ぜてくる」
「それ以外は、教科書に出てくるような攻撃なんだ。だから読みやすい。高度な技ほど、所々の練度が落ちる。だから俺は勝てる。同じ技を持ってるなら、練度と引き出しが多い方が勝つ」
俺は苦笑してうなずく。
「その通りだ。だからスペシャリスト相手だと、同じ土俵の今の俺じゃ勝てない」
ヒルダが、ジグの方をちらっと見た。
「こいつは究極の器用貧乏に近い。レベルが高いから欠点が見えにくいけど、知能があってレベルが高い奴なら対策できる」
イヴァンが肩をすくめる。
「そういうことだ。以前も同じ状況でぼろ負けしたばかりだ。もちろん、使えるものが全部ありゃ俺の方が分が高くなるけどな」
「そりゃあな」
イヴァンがが笑う。
「射程外から呪文を打たれたら厄介でしかないしな。だが計画を断るってのは、コレとは話が別だろ」
俺は、息を吸って吐いた。
「今の俺じゃ龍角には勝てないってことだ。俺の技量が八十だとする。その八十じゃ、あいつに届かない。今回は一人じゃないって言われても、お前たちは、守るべき部下がいる。俺たちは目的がある旅だ。ギャンブルはできない」
エレナが、すごく悲しそうな目をした。けど、肌で差を知った以上、無謀はできない。
俺の技量が全部九十五くらいなら話は違ったかもしれない。今は足りない。
「お前たちの探している書物が、かの街にあるとしたら」
漆黒の魔術師のジグが、そう言った。
「担いでるんじゃないのか?」
俺は疑ってしまう。俺らの力が欲しくて言ってるだけかもしれない。
「数百年前に書かれた巻物に記されていた。当時の文献の情報と今の地形を照らすと、かの街の可能性がかなり高い」
「それを見せてもらっても?」
手伝って。やっぱり無かった、じゃ無駄足でしかない。
「構わん」
ジグは少し席を離れ、数分で戻ってき手渡してくれた。
俺は古文書に目を通す。そこには、確かにあの紋章が描かれていた。
場所の記述も一致している。盗まれてたり運ばれてない限り、あの町にある可能性は高い。
「エレナはどうしたい?」
俺が聞くと、エレナは静かに、でも強く答えた。
「わたくしは、あの街を開放して、健全な街が増えるのを期待いたしますわ」
その一言で、胸の奥が決まった。これも運命なのかもしれない。やると決めたのなら次は負けないようにしてやる」
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