49話 会議
朝起きたら、凄かった。アジトの床は、ある意味戦場跡みたいなありさまだった。
昨夜の宴会で飲んだ連中が、雑魚寝で転がっている。床の上、毛布を敷いただけの場所、壁に寄りかかったままの者まで。炎の民のメンバーたちが、酒瓶を転がしたままの奴もいれば、ぐちゃぐちゃに倒れている奴らまでいる。
誰かは毛皮の敷物に埋もれ、誰かはテーブルに突っ伏し、誰かは床板の上で大の字に。干し肉の欠片が散らばり、グラスが倒れ、火の粉が残るストーブの周りは特にひどい。
しかも、あのエレナでさえ、壁にもたれて座りながら寝てるんだから珍しい物を見た。金髪の三つ編みが乱れて肩に落ち、法衣の裾が少しめくれ、頰を赤くして小さな寝息を立てている。
普段の凛とした聖女とは別人で、子供みたいに無防備だ。錫杖をついたままの姿勢で、唇が少し開いて、寝顔が可愛すぎて思わず見とれてしまった。
俺も起き上がった。体はまだ重いが、昨日の傷はほとんど癒えている。エレナの聖癒光のおかげだ。俺は小さく息を吐き、部屋を見回した。
「宴会の時はいつもこんな感じさぁ」
声の方を見たら、ヒルダの透き通る声が聞こえた。彼女は俺の隣の席に座り、膝を抱えて笑っている。
赤い髪が朝陽に輝き、革の胸当てが少し緩んで肩が露わになっている。昨夜の酒が残ってるのか、頬が少し赤く見えた。それでも、二日酔いになってないのはさすがだと思った。笑顔が少し疲れてるけど、どこか楽しげに見えた。
「みんな、飲みすぎたのか?」
「そうだね。イヴァンが戻ってきたってだけで、みんな大騒ぎさ。あいつがいなくなってから、ずっと気が張ってたんだよ」
ヒルダが少し寂しげに笑う。俺はエレナの寝顔をもう一度見てから、そっと毛布をかけてやった。彼女は小さく身じろぎして、俺の手に頰を寄せるように寝返りを打つ。全く暖かい場所に移動するよな。
周囲も目が覚めたのかのそのそとみんな動くのだが、エレナも起きたようで恥ずかしさで顔が真っ赤っかだった。後半飲まされてたからなぁ。
ヒルダや俺も飲んでたが、適量を知っているから飲み潰れるまでは飲んでないしな。俺の場合は酔いそうになったらアルコールの分解を魔法でしてたから潰れることは無いのだが。
エレナは慌てて法衣を直し、髪を整える。頬を両手で押さえ、俺をチラチラ見る。
「シビさん……私、昨夜……」
「大丈夫だ。みんなも同じだからな。たまにはこのように羽目を外すのは神様も怒らないさ」
俺は笑いながらそう言った。神様の事は知らないが、木っと俺をここに送ったあのじじいなら笑う事だろう。
エレナも少し頰を膨らませながら笑っていた。
「もう……恥ずかしいですわ」
昨日とは違って俺とエレナは小さい部屋に招待された。
部屋は静かで、松明の火が揺れ、壁に影を落とす。テーブルの上には地図と書類が広げられ、紅茶の湯気が立ち上る。ヒルダが俺たちを座らせ、紅茶を淹れてくれた。甘い香りが部屋に広がる。
そこに集まったのは、炎の民の長のヒルダ、戦闘の隊長のイヴァン、至高神アルディアの神官アーガイル、密偵のロジャーズ、漆黒の魔術師ジグ。炎の民の幹部たちが集まった。
ここは化け物の巣窟かと思ってしまった。
5人とも凄腕の実力者たちだというのはすぐにわかったのだが。
たしかマスタークラスは全冒険者でも5%ぐらいしかいないと聞いたが、多分全員マスタークラスに到達している実力者達だった。
ある程度の国の脅威ならこの五人が組めば解決できるはずだと理解した。
まずは俺の不手際で龍角はイヴァンを使って目的を達成しようとしたが、俺が負けたから龍角の目的は達成された」
龍角は人族を隷属化を心の髄からしたくてイヴァンを公開処刑にしようと考えていたが、結局はそれを成し遂げてしまった。
「すまなかった。俺が負けたばかりに」
イヴァンが手を振る。
「気にっするな。結果として俺はお前達に助けられた。生きているんだから逆転の方法もあるさ」
「シビさんは出来ることをしましたわ。一人で死ぬかもしれないのに」
エレナが優しく微笑みながらフォローしてくれた。
俺はエレナの肩を優しく触れて、微笑んだ。
「事実を述べただけだ。ありがとう」
多分あの街の人間は、氾濫など考えないことだろう。それぐらいの圧倒的な敗北だった。
そのことについては炎の民から非難は受けなかったが、提案はあった。
「凄腕の二人に今度おこなわれる街の開放作戦に出てほしいんだが、報酬はもちろん出る」
ヒルダからそう提案された。
エレナはもちろん受けたがって入る感じで俺を見ていた。青い瞳が期待に輝き、俺の返事を待っている。俺は一瞬考えて、切り出した。
「俺たちは目的があってここに来た。それを達成する前にほかの事を成すことは考えられない」
ヒルダが少し眉を上げた。
「そういえばそんなことを言っていたな。話があるためにこの私達と縁を結びたいと、まずはそれを聴こうでじゃないか」
俺は少し話は長くなるがと注意をして、今までの事を話した。
紋章の力でモンスターが異常に強化されること。エリシオン王国の情報からこのバステルの敷地にそれの文研があることを。部屋の空気が、重くなった。
「そんなに魔物が強くなるのか?」
イヴァンが疑問に思ったらしくそう言ってきた。
「火炎球が使用できる魔術師、天翔が使える戦士を要するパーティーがゴブリン20匹ぐらいに全滅した」
「マジかよ」
普通に考えればシビ達のパーティは、ゴブリンごときに不覚を取られないパーティだった。
それが地の利が不利だった地とはいえ全滅したのだからかなりの強化がされたと言ってもいい。
「それがこの外に少しずつ広がっている。エリシオン王国の情報でこの町にその文献が眠っているという話を聞いて俺たちはここに来た。」
エレナが心配そうに言った。
「ですがシビさん、あの状況を放置するのも……」
「そして俺の今の実力では龍角には勝てない」
俺は静かに言った。
「おいおい、僧侶系の呪文以外使えるお前が勝てないって何かの嘘だろ。あの時もあれだけの戦力を一人で戦っていたから負けたと考えるのが普通だろ」
実際にイヴァンはあの大軍を見ての感想だが、そうじゃない。
「確かに俺は強いんだろうな。だが剣一本だったらイヴァンやヒルダに勝てないし、暗殺勝負だと多分ロジャーズに勝てない。これはやりたくないが、最強魔術のぶつかり合いではジグには勝てないだろう?」
部屋が静まり返った。
「どういうことなんだい?」
ヒルダが首を傾げる。
「そういう事か」
何かを悟ったように今まで黙っていた漆黒の魔術師ジグが合点がいったようだった。
「そうだな。お互い体調もよさそうだから、イヴァン俺と模擬戦をしないか?」
「別に構わないが」
「勝負は剣一本のみの戦いだ。それで言いたいことがわかるだろう。ヒルダ構わないか?」
「あぁ、うちとしてもあんたの実力を見てみたいから願ったりだね」
こうして俺たちは、炎の民の訓練場へ向かった。練習場っていうより、剣闘場みたいな場所だった。
地下の広い空間。石の壁に囲まれ、天井は高い。地面は固く踏み固められている。
周囲に松明が灯り、炎の光が壁に揺れる。中央には円形の闘技場の線。観客席なんてなく、ただの訓練場だった。
炎の民の連中が集まって、俺たちを取り囲む。
イヴァンは剣を構えた。俺はミスリルソードを握って、静かに構えた。
「剣一本のみ。はじめ」
ヒルダが笑い、開始の合図を伝えられた。
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