42話 魔物の楽園 ―地獄の街―
【注意】
この話には、奴隷に対する性的暴力、強制行為、残虐描写が含まれます。
フィクションとはいえ、グロテスクで不快な表現がございます。
閲覧に際してはご注意ください。
町の門をくぐった瞬間、俺は息を潜め、透明化の呪文を唱えた。
「透視無影」
淡い魔力の膜が体を包み、俺とエレナの姿を完全に周囲の景色に溶け込ませる。あまり魔法は使いたくはないが、ここで目立ったら終わりだ。心臓の鼓動が耳に響く。これなら街に潜入できる。そういえば透明化の呪文は男が欲しい呪文で最上位に位置していたっけ?
ここが、魔物中心の街。 門を抜けると、広大な通りが広がっていた。石畳の道は血と泥で汚れ、ところどころに割れた骨や肉片が転がっている。建物は粗末な木造や石造りが混じり、壁には爪痕や血痕が無数に残っている。屋根からは魔物の巣らしきものが垂れ下がり、異臭が鼻を突く。
空は厚い雲に覆われ、陽光が弱く、全体に薄暗い影が落ちている。遠くにコロッセウムの円形のシルエットが見え、歓声と悲鳴が混じった音が風に乗って届く。
視界を埋め尽くすのは、圧倒的な数の魔物たちだった。ゴブリンの群れが甲高い笑い声を上げ、短剣を振り回しながら道を塞ぐ。オークの巨体がのしのしと歩き、棍棒を肩に担いでいる。トロルの灰色の肌が陽光を浴びて鈍く光り、ミノタウロスの角が空を切り裂くように揺れる。空にはハーピーが飛び交い、鋭い爪で獲物を狙っている。地面には巨大な蜘蛛のようなアラクネが巣を張り、通りすがりの弱い魔物を捕らえて食らっている。
魔物たちは自由だ。笑い、叫び、食らい、交わる。すべてが本能のままに。強い者が弱い者を支配し、弱者はただの玩具か食料。そして、人族は、奴隷だった。
鎖で繋がれた男たちが、重い荷物を運ばされている。鞭の音が響き、背中に赤い痕が刻まれる。血が滴り、地面に染みる。
女たちはさらに惨い扱いを受けていた。道端でオークに押さえつけられ、衣服を剥ぎ取られ、抵抗する間もなく犯されていた。悲鳴が上がり、周囲の魔物たちはそれを嘲笑うように見物していた。
別の場所では、檻に入れられた裸の男たちが、見世物として魔物たちに囲まれていた。二人の男が強制的に体を重ねさせられ、魔物たちの下品な命令に従って交わらされていた。抵抗すれば鞭が飛ぶ。魔物たちはそれを眺めながら、野卑な笑い声を上げ、「いいおもちゃだ」「もっと激しくやれ」「人間はこれで満足するんだろう?」と、嘲るように言葉を浴びせかけていた。男たちの顔は絶望に歪み、涙や血が混じって頬を伝っていた。
コロッセウムの方からは、歓声が聞こえてきた。近づいてみると、人同士が剣を振るい、血を流して戦っていた。
勝者は魔物の娯楽のために生き残り、負けた者はその場で食い散らかされた。別のリングでは、裸の女性たちが鎖で繋がれ、強制的にレースを走らされていた。遅れた者は鞭で打たれ、転んだ者はその場で魔物に引きずり込まれ、
生きたまま肉を裂かれる様子が、観客の魔物たちを湧かせていた。
まさしく、地獄絵図だった。空気は血と汗と獣の臭いで満ち、地面には乾いた血痕が無数に残っている。魔物たちの笑い声が、嘲るように響き渡る。人族の悲鳴やうめき声が、時折それにまじっていた。
この街は、力ある者がすべてを支配し、弱者はただの玩具か食料。アウリスの光すら届かない、絶望の場所だった。
俺の胸が締め付けられ、吐き気が込み上げる。精神防御のスキルがあるはずなのに、この光景は心をエグる。前世の平和な世界と比べて、異世界の残酷さが骨身に染みる。
俺は息を殺し、エレナの手を強く握った。隣を見ると、エレナの顔が青ざめ、大きな瞳に涙が溜まっている。金髪の三つ編みがわずかに震え、唇を噛み締めて、法衣の裾を握りしめている。
彼女は今にも飛び出して、魔物たちを叱りつけ、奴隷たちを助けようとしているのがわかった。手が震え、鈴が小さく鳴る。青い瞳が涙で潤み、ほほが赤く染まる。
聖女の優しさが、この地獄でどれだけ危険かを、俺は痛いほどわかっていた。
ダメだ。俺はエレナの腕を強く引き、彼女を壁際に押しやるようにして止めた。
「エレナ、ダメだ。ここで騒いでも意味がない」
小声で、だが強く囁く。
「しっかりしろ。これらを報告して、組織で動かないとただの蛮勇だ。今飛び出したら、お前も奴隷になるか、食われるかだ」
エレナの瞳に涙が溢れ、頬を伝っていた。彼女は唇を震わせ、必死に声を抑えている。
「……でも……あの人たちが……こんな目に……こんな残酷な……」
声が途切れ途切れで、嗚咽が漏れる。エレナの肩が震え、手が俺の袖を強く握る。彼女の優しさが、痛いほど伝わってくる。
「わかってる。俺だって、胸が押し潰されそうだ。吐き気がする。こんな地獄、許せねえよ。だが、ここで感情に任せて動いたら、全部終わりだ。イヴァンを助け出すのが先だ。それができてから、炎の民と一緒に考えよう」
多分エレナも頭ではわかっているのだろう。彼女は唇を噛み、涙を堪えている。俺はもう一言、付け加えた。
「お前が死んだら、魔物たちの益になりかねえ。聖女でさえ、この町では無力だという宣伝になり、周囲がもっと絶望する」
エレナの瞳が揺れた。彼女はゆっくりと息を吐き、涙を拭い、ゆっくりと頷いた。
「……わかりましたわ。……シビさん、ありがとうございます」
しぶしぶだけど、我慢してくれた。彼女の優しさが、この街でどれだけ危険かを、俺は痛いほどわかっていた。
自分がどうなってもいいから助けてくださいと言って自分を犠牲にするかもしれねえ。エレナの笑顔が、少し歪んでいるのが胸に刺さる。
広場の中心に行くと、立派な体躯の男性がはりつけにされていた。意識はあるようだが、全身に鞭痕と切り傷が刻まれ、血が滴り落ちている。
前には立札が立てられ、俺は遠眼の呪文を唱えて文字を読み取った。
『人類よ。俺達に逆らった者の最後を見せてやる。』
反乱軍の幹部が捕まってあんな目に遭ったら、そりゃ反乱の気力も削がれる。魔物側の知略だ。公開処刑で、人族の抵抗を潰す。
かなり知能の高い魔物がここを支配しているのだと思う。街の奥に立派な城みたいなのがあるからそこで暮らしているのかもしれない。今はそこまでの余裕はないし、計画以外の事はしない方がいいだろう。
イヴァンの傍らには、食事らしきものが置かれていた。
皿に盛られた肉片は明らかに、人肉だった。強引に食べさせようとして、イヴァンが吐き捨てているのが見えた。
精神防御のスキルはあるはずなのに、どういうわけか、こういう光景は気分を悪くさせる。なぜか拒絶反応を起こすが、戦闘は普通にできるのだから不思議だ。
本当に、胃がむかむかする。エレナに見るなと言っておいてよかった。彼女がこれを見たら、間違いなく飛び出す。
今日は7日目。残り3日あるけど。今夜、決行するしかない。俺はエレナの手を引き、透明化を保ったまま一旦広場を離れた。心臓の鼓動が、速くなる。
この地獄から、イヴァンを助け出す。そして、いつかこの街の闇を、すべて暴いてやる。
俺もエレナと一緒にいるからかもしれないが焼きが回ったかもしれない。
どうにかこの地獄を終わらせたいと思えてきた。
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