37話 洞窟内の戦闘
広間に進んだ俺たちは、最奥の場所に大きなライオンが寝そべっているのを見つけた。
最初はただの巨大なライオンかと思ったが、警戒を解かずに近づくと、奴がゆっくりと頭を上げ、こちらを向いた瞬間、俺は思わず身を引いた。
顔が、ライオンじゃなかった。皺だらけの老人のような人間の顔。口元から鋭い牙が覗き、目は冷たく光っている。背中には折り畳まれた黒いコウモリのような翼。そして、尻尾の先には蠍のような毒針がついた長い尾が見えた。
「マンティコアか……?」俺は低く呟いた。
「マンティコアって、あの幻獣のですか?」エレナが驚いた声を上げて聞いてきた。
「ああ。人間の言葉を理解して話せるはずだ」
あと数歩でお互いの間合いに入る瞬間、マンティコアが口を開いた。低く、老人のような嗄れた声。
「冒険者が何故ここに来た」
「そこに洞窟があったら調べたくなるのが、冒険者だ」
俺は剣の柄に手を置きながら答えた。
「ここには宝などない。あるのは一つのボタンだ」
マンティコアはゆっくりと体を起こす。巨大なライオンの体躯が、広間に影を落とす。
「俺たちと戦うつもりは?」
「わしはもう年老いた。無駄に戦うのも疲れる。見たければ見ればよい。それに今は腹も減っておらんでな」
「それは助かる」
「よかったですわ。無駄な戦いほど無益なことはありませんわ。ここに何があるか調べましょう」
「ああ……」
俺は少し違和感を感じた。
マンティコアって、こんなに理知的だったのか?
知ってるのはゲームや小説の知識だけだけど、もっと獰猛なイメージだった。
人の言葉を話せるんだから、意外と賢いのかもしれないな。
俺たちがマンティコアを通り過ぎようとした瞬間、奴が突然咳き込んだ。
ゴホッ、ゴホッと苦しげに。
エレナは咄嗟に反応し、マンティコアに近寄って心配そうに手を差し伸べた。
「大丈夫ですか? 何かお手伝いできることが――」
その瞬間だった。
マンティコアのサソリの尾が、閃光のようにエレナに向かって伸びてきた。
俺は一瞬遅れたが、エレナの襟元を後ろに引き、彼女と位置を入れ替えた。
勢いのあった毒尾は、俺の腹部を深く突き刺した。
ズブリという音が聞こえた。
刺された瞬間、まるで火であぶられたような、熱い針金でえぐられたような激痛が全身を走った。毒が回るのがわかる。体が熱くなり、視界が揺れる。俺は倒れ込み、砂地上を転がりながら悶絶した。痛みが波のように続き、電気ショックを食らったような痺れが止まらない。
「僧侶の方から退治はできなかったか?」
マンティコアが嘲るように笑う。
「騙したのですか?」
エレナは俺の方を注意しながら、怒りを込めて魔獣に問いかけた。
俺は剣を杖代わりに立ち上がろうとしたが、激痛で足が震えて安定しない。
知恵があるからって、こちらの都合のいいように考えてしまった。
ここが、無秩序な場所だということを忘れていた。
「騙される方が悪いのですよ。あなた一人なら私でも倒せそうですな。二人だと分が悪いのですが、どちらを先に退治しても私の方が有利というもの。所詮戦士だと思い甘く見ておりましたが、まさかミスリルソードをお持ちとは怖い怖い」
エレナとマンティコアの戦いが始まった。だが、やはり分が悪い。僧侶も多少は肉弾戦ができるが、あくまで補助。ゴブリン程度ならいざ知らず、空を飛び、肉食獣の運動神経を持ち、さらに呪文を放つマンティコアでは荷が重い。
マンティコアが爆発の呪文を唱え、エレナは防戦一方だった。聖なる結界で防ぎ、衝撃波で押し返すが、法衣は所々破れ、息が上がっている。金髪の三つ編みが乱れ、額に汗が浮かぶ。致命傷や追加の尾攻撃は防げているが、それも時間の問題。
俺はというと、いつの間にかエレナが俺の周囲に保護の呪文をかけていたようだ。俺は痛みをこらえ、ほふく前進しながら落としたバッグを探った。激痛で呪文の集中ができないので、首都の魔法アイテム屋で買った怪しい瓶。高価な毒消しポーションを飲み干した。
数秒後、全身の痛みが少しずつ引いていく。
俺は見ていて気付いた。奴は狩りを楽しんでやがる。獲物を少しずつ弱らせるように、じわじわと攻めている。一気に仕留められるのに、わざとエレナを追い詰め、俺の苦しむ姿を眺めている。残忍で、知能が高い。そのおかげで、俺の方がチャンスを得られる。
俺は静かに花の妖精フローラを召喚した。手のひらに小さな光が集まり、可愛らしい妖精が現れる。彼女に頼み、毒素を抜いてもらった。フローラの小さな手が傷口に触れ、緑色の光が流れ込む。残っていた毒が急速に中和され、体が軽くなっていく。
エレナの疲労が限界になり、肩で息をしながら膝をついた瞬間、マンティコアの尾がエレナに向かって襲いかかった。 俺は「影走り」を発動し、盗賊に伝わる早走りの技術を使いながら、手のひらで自分の太ももを叩き、力ある言葉を発する。
「加速!」
体が軽くなり、速度が急激に上がる。エレナに向かう毒尾を、俺は一閃で斬り払った。
本来なら盗賊の暗殺スキルを使った方がよかったのかもしれないが、カイン戦で実感した技量不足を考えて、正面から確実に切れる方法を選んだ。
尾を斬られたマンティコアが苦しみにもがき、絶叫が広間に響いた。
俺はエレナの前に立ち塞がり、剣を構えた。
「大丈夫か? おかげで助かった」
「どうやって……?」
エレナが驚いて聞いてきた。
「ほら、一緒に買いにいった魔法の店で毒消しのポーションを買ってあったから、それを飲んで。抜けるのに時間かかりそうだったから、花の妖精フローラを呼んで毒素を抜いてもらった」
「戦士の癖に、魔法が使えるというのかぁ~~~~~~」
マンティコアが驚愕の声を上げる。
「切れるんじゃねえよ。クソ魔獣。舐めプした愚かさを呪うんだな。そのおかげでこの通りだ!」
「所詮魔法が使えると言っても、初歩的だろうが」
奴が爆発の呪文を唱え始めたので、俺も同じ呪文を即座に返した。二つの魔力がぶつかり、衝撃波が広間を揺らす。
奴が驚いている隙に、俺は背中を弓状にしならせ、相手に突進した。加速呪文の勢いを乗せ、一歩を大地に踏み込む|戦士技能《一成を使用した。そこからの突進突き技牙衝が、魔獣の喉を貫いた。
ミスリル銀の剣は、固い魔獣の皮膚をいとも簡単に貫いた。剣を抜く動作とともに、俺は左手に雷を溜め、力ある言葉を唱える。
「雷撃!」
左手から放たれた雷が、剣を抜いた穴から入り、魔獣の体内を駆け巡った。マンティコアの絶叫が洞窟内に響き渡るが、うるさいのでそのままミスリルソードで首を刎ねた。
「人様を騙すから、こういうことになるんだよ。まったく」
俺は息を荒げながら、エレナの方を向いた。彼女はすでに治療呪文を自分にかけ、無事だった。
「すまん、エレナ。注意不足だった」
「わたくしも、昨日警戒はしておくようにと言われたのに……」
「それは、忘れてくれ。よく考えたら、人をずっと警戒するのはお前らしくない。そういうのは俺が受け持つから、エレナはエレナらしくあってくれ。お前が言ったんだろ。足りない場所はお互いが補えばいいって」
俺は頭を掻きながら、そっぽを向いて、そう言ってやった。昨日宿で話し合った時の言葉を、そのまま返した。
「はい、ありがとうございます。でも、私もきちんとシビさんをフォローしますから」
「ああ、お前が張ってくれた保護のおかげで、このようにできたしな。ありがとう」
「言い合いっこなしですわ。わたくしもシビさんのおかげで毒針にかかりませんでしたので」
俺たちは恥ずかしそうに笑い合いながら、マンティコアが言っていた「スイッチ」の方に向かった。広間の奥には、祭壇のような場所に、古びた石のボタンらしきものが埋め込まれていた。
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
今年は1日から寒くなるということですので、お体にはお気をつけて新しい年月を楽しんでください
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