35話 向かった先は?
朝、目が覚めると、エレナが部屋の隅で着替えをしていた。薄い寝巻きを脱ぎ、白い聖衣に袖を通すところだった。朝陽が窓から差し込み、彼女の白い肌を柔らかく照らしていた。金髪が肩に流れ、細い背中が露わになっていた。すごくきれいだって見惚れてしまった。
綺麗な女性の裸を間近で見られるのは、男なら喜ぶところかもしれないが、外見が女性で中身がおっさんの俺にとっては、目のやり場に困る状況だ。一種の覗きになるんじゃないかとハラハラドキドキしてしまう。
「エレナ、着替えるのならそんなところじゃなく、脱衣所とかで着替えろ。目のやり場に困るだろうが」
俺は慌てて視線を天井に向け、声を張って伝えた。
エレナは振り返り、くすくすと笑いながら聖衣の紐を結ぶ。
「本当にシビさんは、同じ女性じゃありませんか。そんなに恥ずかしがらなくていいんですよ」
そりゃそうだけど。事情言ってないからなぁ仕方ないけど。
俺は話題を変えるように、ため息をつき昨夜のことを謝った。
「悪い、昨夜は、一人で飛び出して」
エレナは手を止めて、穏やかな笑みを向ける。春の陽光のような、温かくて優しい笑顔だ。
「ご理解してくれたら構いませんわ。これからは、ちゃんと一緒に……ですね?」
「ああ、約束する」俺は、自分の顔が赤くなっていくのを実感する。おっさんが娘ぐらいの人に名に赤くなってるんだ!
俺の言葉に、エレナの顔がぱっと明るくなった。
「今日はどうしますか?」
「あのまま荒れ地に戻って古戦場を渡るのもなぁ。またあの機雷地帯を通るのは面倒くせえし、星移門にしろ瞬間移動にしろ、魔力の消費が馬鹿にならねえからな」
俺は肩をすくめて続けた。
「帰りならまだしも、行きに使うのはリスキーすぎる。あんな何があるかわからねえ場所で、魔力が底をついたら終わりだ。万が一苦戦する戦闘になって魔法が使えないななんてなったら、本末転倒だろうしな」
「そうですわね。魔力の回復も、この街の外では思うようにいかないかもしれませんし……慎重にいきましょう」
そう言いながらエレナが小さく頷いた。
「それに、まだ情報も何もないからな。今日は別の方向に向けて、昨日の荒れ地以外をを見てみるか?」
「わたくしとしては、この町をある程度調べたいとは思いますけど……」
言いたいことはわかるんだけどなぁ
「そこはここの宿屋の親父から情報を得てからでもよくないか?この町広すぎて困るのが一つ、悪目立ちして目を付けられたくない。 今のところは、新しい冒険で名を上げようとやってきた冒険者ってことにしとこうぜ!」
「それ、結構無理があると思いますけど……。そうですわね。外の景色をある程度把握するのもいいと思います。どのみち、ここからの脱出方法もわかっておりませんし、脱出方法はこの町にはないと思うんですよね」
「なぜそう思う?」
エレナの意見もしっかり聞いて昨日の二の舞になったらシャレにならないし、エレナには、言葉だけの人間になって信用されないのも嫌だしな」
「この城塞にいる実力者は置いておいて、ほぼ誰も脱出方法を知らないからです。何かの連絡手段は多分あるとは思いますが、リリアさんでさえ、この城塞のことをはっきりわかっておりませんでしたわ」
「確かに!脱出が一つっていうのは考えられないし、瞬間移動呪文が全地域使えないとしたら、この町だけでそれを封鎖してるのも変な話か」
軽い相談を終え、俺たちは1階の酒場で簡単な朝食を取った。焼きたてのパンにスープ、干し肉とチーズを食べ終え街を出た。
街から北西へ平野を歩くこと数時間。徐々に草が生え始め、木々がぽつぽつと現れる。やがて道は深い森に飲み込まれ、周囲を濃い緑が囲んだ。
荒れ地と森が隣り合ってるなんて、カオスすぎるだろう?自然的にこんなことが起きるのかと、俺自身思った。
だが、実際にあるのだから仕方ない。
この大きな城塞の中は、常識が通用しない。警戒を強め、うっそうとした深い森を進む。巨木が空を覆い、葉の隙間から差し込む柔らかな光が木漏れ日となって、時折顔を撫でるのは気持ちがよかった。
獣道のような細い道を、音を立てないように歩く。俺たちは軽装備だから、周囲にいるであろう獣たちにもあまり刺激を与えていないようだった。エレナの法衣も動きやすく、足音はほとんど立てない。俺は周囲の気配を探りながら、先頭を歩く。そうはいっても、簡単な小競り合いはあった。今更ゴブリンや狼などの肉食獣が相手では後れを取るはずがなかった。
木々が急に途切れ、視界がぱっと開けた先に、巨大な湖が広がっていた。
静かな水面は鏡のように澄み、太陽の柔らかな光を浴びて淡い青緑に輝いている。
風が吹くたび、さざ波が立ち、岸辺の小石を優しく撫でる音が響く。空と山の姿が水面に映り、俺は、生前旅行などもしたこともないので、このような幻想的な景色を見ると感動をする。
北側には、険しい山脈が横たわり、深い緑の森が湖の縁ギリギリまで迫っている。木々の葉が水面に影を落とし、ところどころで枝が湖に触れそうなくらい近い。釣りをするにはいいのかもしれないけど、何が釣れるのだろうが、釣りは当たり前だけどやったことはないけど、このような景色を見るといいかもなと思うのは、なんとなく釣りをする人の気持ちがわかったような気がする。
遠くの山肌には、霧が薄くかかり、神秘的な雰囲気を漂わせている。西側にも、同じく切り立った山が湖を囲むように連なり、岩肌がむき出しになった斜面が陽光を反射して白く光る。
湖のほとりには、西岸の岩場に、石の塔がそびえ立っていた。灰色の石を積み上げた円筒形の塔で、頂上部は少し崩れているが、まだしっかりと形を保っている。多分何かの遺跡のように見える。
湖の北側、森の奥にも、もう一つの塔が見えた。こちらは、遠くてよくわからないが、明らかに風化が進んでいるように見える。廃墟化しているのかもしれない。
湖の真ん中には水面の中央に、ぽっかりと小さな島が浮かんでいた。島は森に覆われ、木々が密集して緑の冠を被っているように見えた。
中央に、何か建物のような影が見えるが、ここからでは詳細は判別できない。
島の周囲の水は特に深く青く、静かに波打っている。 周囲を鳥のさえずりが包み、遠くで鹿らしき動物が水を飲む姿が見えた。これだけ見るとすごく平和でピクニックにいいのかもしれない。
だが、この美しい景色とは裏腹に、空気にはかすかな魔力の残滓が漂っている。なんか嫌な感じがするから、
エレナが隣で息を呑むのが聞こえた。
「……なんて美しい場所でしょう。でも、なんだか……少し不気味ですわ」
「ああ。この湖、見た目で判断するとヤバそうだな」
俺は周囲を警戒しながら、湖畔に足を踏み出した。
バステルは、いつだって甘い顔の裏に牙を隠している場所だった。
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