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【2部連載中】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~  作者:
第2部 悪徳の街 バステル 第1章 バステルへ

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28話:門番の酒場

 バステルの門をくぐり抜けた瞬間、肺の奥を直接汚物で撫でられたような、嫌な感覚に襲われた。

鼻をつくのは、腐りかけた生ゴミの酸っぱい臭いと、焦げ付いた安っぽい油、そして……それらすべてを塗りつぶすように漂う、生々しい血の匂いだった。


「シビさん、あそこ……」 隣を歩くエレナの声が震えている。彼女が指差した路地裏には、薄汚れた布切れのような死体が転がっていた。だが、行き交う住人たちは誰一人として足を止めない。

まるで道端に落ちている石ころでも避けるように、平然と死体の脇を通り抜けていく。 城壁のすぐ外には、破壊された建物の残骸が、まるで巨大な獣に噛み砕かれた後のように無残に晒されているのが見えた。


 俺はジャケットの襟を立て、周囲を射抜くように睨みつけながら石畳を蹴った。 だが、その威嚇をあざ笑うかのように、男たちの視線が俺の身体にまとわりつく。B90の胸の膨らみを、ミニスカートから伸びる脚を、剥ぎ取るようなねっとりとした欲望。 「……ちっ、盛りやがって」 中身が44歳のおっさんじゃなきゃ、この視線の暴力だけで吐き気を催していただろう。だが今の俺は、その嫌悪感をあえて「アヤ」という武器の鞘に収め、堂々と胸を張って歩く。


ふと、大通りに視線を止めた。 武装した者たちが闊歩し、一見すれば活気のある平和な風景だ。だが、その中に異様な光景が混じっていた。 綺麗な顔立ちをした女性が、ほぼ裸同然の格好で、首に鉄の枷を嵌められ引き回されている。 エレナもそれに気づき、俺の服の裾をぎゅっと握りしめた。奴隷、だろうな。 「……それでも、女が一人で歩けているんだから、まだマシな方か」 欲望の街、背徳の都。その禍々しい二つ名の割には、奇妙な均衡が保たれているように見えた。


俺はこの通りで一番巨大な店を見つけた。看板には『門番の酒場』と刻まれている。 俺は鉄の扉を、容赦なく蹴破った。 「きゃっ……!?」 後ろのエレナがびくっと肩を揺らす。こういう雰囲気だからっていうのもあるが、ぶっちゃけ前世で一度こういうのをやってみたかっただけだ。……少しやりすぎたか?


店内の喧騒が、潮が引くように止まった。ならず者や、人間離れした風貌の亜人たちの視線が、一斉に俺たちを「獲物」として品定めし始める。 「おい、極上の上玉だぜ。……あっちのはアウリスのシスターじゃねえか? いくらで売れるかな」 下卑た笑い声の中、俺は迷わずカウンターへと突き進む。横から伸びてきた汚い腕が俺の腰を狙ったが、反射的にその手首を弾き飛ばした。


店の隅に、見覚えのある冒険者ギルドのマークを見つける。 「触るな。……マスター、リリアの紹介だ。ここがギルドの看板を掲げてるなら、相応の対応をしてもらおうか。それとも、客を品定めするのがこの店の流儀か?」 俺はリリアから預かった重みのある袋を、カウンターに叩きつけた。 店主はいかつい大男だった。彼は袋の中身を凝視し、野太い声で吠えた。 「……ちっ。『蒼穹の戦姫ルティア・ラティウス』の使いか。野郎ども、こいつらには指一本触れるんじゃねえぞ。命が惜しければな」 男は俺をジロジロと眺め、鼻で笑った。 「にしても、あいつも焼きが回ったか。こんな小娘にこれを託すたぁな」


俺は警戒度をマックスに保ったまま、促されるまま個室へと入った。 店主はドロリとした濁酒を出し、無愛想に本題を切り出した。 「ここは自由の街だが、出るには条件がある。この街の実力者たちに認められるか、金貨10万枚を市に収めるかだ」 「金貨10万枚……ですか?」 エレナが絶望に顔を白くする。


金貨10万枚。城が一つ建つ額だ。現実世界の金価値で安く見積もっても、金貨1枚が1.5万。つまり15億円……。 「最初から、まともに帰す気はねえってわけか。ふざけてるな」 俺はアヤの赤い瞳を細め、乾いた笑いを漏らした。 「マスター、この街の実力者に会うにはどうすればいい」 「まずは『名声』を上げることだな。……まあ、そんな面倒な真似しなくても、その身体を差し出せば通行証の一枚くらい、誰かが出してくれるかもしれねえがな」


男は下卑た笑みを浮かべ、さらに続けた。 「あるいは、お前自身が覇を唱えて上に立つかだ。ここは欲望の街、何をしても許される。……ただし、表通り以外ではな」 「表通り……? 治安システムがあるってことか」 「そういうこった。街の奥に見える城にいる実力者の一人、『流星のエルグリンジェ』が決めたことだ。最低限の秩序がなきゃ暴動が起きるからな」


俺は一つ、気になっていた質問を投げかけた。 「……手短に聞く。それほどの実力者がいるなら、なぜあの壊れた城門を放置している? ギルドがあるなら外との連絡もあるはずだろ」 店主は俺の問いに、ガラの悪さを消し、驚くほど理知的な口調で答えた。 「この城塞に、どれだけの魔物がいると思ってる。……外へ出れば、そこら中に魔物の巣がある。この街の騎士も奮闘しちゃいるが、圧倒的に人手が足りねえ。……そして、この街の実力者は人間だけじゃねえんだ」


「……まさか、魔物と共存してるのか?」 「ご明察だ。細いバランスで成り立っている相互不干渉の同盟だよ。エルグリンジェは街を開放したいが、無策に門を開ければ城壁内の怪物が世に放たれる。だから盟約を結んだ。『人の営みには手を出すな、その代わり、街の外ではこちらも動かない』とな」


「……っ! この街の人を助けるために、他の地域の人を見捨てたのですか!?」 横で声を荒らげるエレナの脳天に、俺は無造作にチョップを落とした。 「痛っ!? な、何を……!」 「これだから神官様は頭が固いんだ。……マスター、つまりこういうことだろ。エルグリンジェってのは動けないが、魔物は動ける。魔物側も、はねっかえりの人間を食い殺して恐怖を植え付ければ、家畜化が進んで都合がいい……。ウィンウィンの関係ってわけだ」


「……お前、なぜそれだけでそこまで見抜ける」 「少し考えればわかることだ」 俺は唖然とする店主の前に、500枚の金貨を置いた。 「なんだこれは」 「俺とエレナの部屋を一ヶ月分だ。食事込みでも相場の倍はあるだろ?」 「……へっ、そんな景気良く出されたら嫌とは言えねえな。一部屋でいいな?」 本当は二部屋欲しいが、この治安だ。エレナを一人にするわけにはいかない。 「ああ。その代わり、広い部屋を頼むぜ。あとで仕事も探させてもらう」 「仕事はいくらでもあるぜ」


俺は、恨めしそうに俺を睨むエレナを連れて、用意された部屋へと向かった。 バステルでの、一ヶ月に及ぶ監獄生活が、今始まった。

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