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【2部連載中】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~  作者:
第2部 悪徳の街 バステル 第1章 バステルへ

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26話 悪徳の街バステルの情報 後編

「……で? バステルの話でしょ」


 彼女は、声を低くして話し始める。

その目はどこか深刻そうで、彼女がどれだけ俺たちのことを気にかけているのかが伝わってきた。


「ああ。司祭様から地図もらった。紋章の情報があそこにあるっていう話だ」


 リリアはしばらく黙って地図をじっと見つめた後、眉をひそめて深いため息をついた。


「……あんた、本当にあそこに行く気なの?」


 その問いに、俺はしっかりと答える。


「行くしかないだろ。逃げても、意味ないしな」


 リリアはしばらく黙っていたが、やがてカウンターの奥から古びた地図を取り出し、テーブルに広げた。

その手の動きには躊躇がなく、決意が感じられる。


「バステル……あそこは、噂じゃなくて本物の地獄よ」

 

 リリアの言葉が冷たく響く。その口調には、ただの警告以上のものが含まれていた。


「商人、犯罪者、そして……魔物まで、何でもありの場所よ。そんなところに足を踏み入れたら、ただじゃ済まないわ」


 リリアはそう言いながら、目を細め、まるで過去にあの街で何かを見てきたかのような目をしていた。

その言葉一つ一つが、あの街に対する深い恐れと警戒を感じさせた。


「まず、城塞の壁は異様に高い。外から見ても、黒々とした石壁がぐるっと囲んでて、門は一つしかない」


 リリアの声が低く、重く響く。彼女が言う通り、その話の一つ一つがバステルの恐ろしさを物語っていた。

リリアはテーブルに広げた地図の上で、指を一つずつ動かしながら話を続ける。


「入る奴は犯罪者、借金まみれ、追われてる奴、魔物と契約した術者。訳ありの連中ばかり。法も秩序もない。力がある奴が全てって話よ」


 その言葉が頭の中で反響する。リリアがどれだけその街を知っているのか、その知識が恐ろしいほどリアルに感じられた。

周囲の冒険者たちが静かに耳を傾ける中、リリアは続ける。


「盗賊ギルド、暗殺者ギルド、奴隷市場、なんでもあり。街の中心には昔の城跡があるって話だけど、そこに誰が住んでるかなんて誰も知らない。それに、一度入ったら、出られないって話は本当らしいわ」


 その言葉の重さに、俺は思わず息を呑んだ。

リリアが話すバステルの姿が、今にも目の前に浮かび上がるような気がして、寒気が走る。


「どういうことだ?」


 俺が尋ねると、リリアは少し黙った後、視線を上げた。

その目には、遠くの何かを見ているような深い思索が浮かんでいた。


「門は入るときは開いてる。でも、出ようとすると変なのよ」


 リリアの声が一層低くなり、俺は身を乗り出す。

彼女の語る言葉の意味が、少しずつだが明確になってきた。


「帰ってきた奴の話だと、門を出た瞬間に濃い霧に包まれて、気づいたらまた街の中に戻ってるって。何度も挑戦した奴は、最後には諦めて中で死んだ。生きて帰れた奴はほんの一握り。でも、みんな口を閉ざしてる。まるで、街そのものが人を離さないみたいに言われてる」


 その言葉が、耳の奥で反響し、俺はしばらく無言でリリアを見つめていた。

バステルが、ただの街ではないことが、次第に明らかになっていく。

リリアが語るその恐ろしい現実が、現実味を帯びて迫ってくる。


 エレナが小さく息を呑むのが聞こえた。

「そんな……本当に、そんな街が……」

その声には、驚きと恐怖が混じっていた。

リリアはエレナを一瞥した後、すぐに俺に向き直ると、言葉を続けた。


「だから言ったでしょ。あんたらみたいな美人が行ったら、骨までしゃぶられるって」


 リリアの目が鋭くなり、言葉の一つ一つに重みが加わる。

エレナの顔はさらに青ざめ、視線を下に落とした。


「特にエレナちゃんみたいな可愛い子は、一晩で何人もの手に回されるわよ。聖女だろうが冒険者だろうが関係ない。あそこじゃ女はただの商品なんだから」


 リリアの言葉に、店内の冒険者たちが再びざわつき始めたが、リリアの一瞥で一気に静まり返った。

リリアは小さく吐き捨てるように言い、そのまま視線を逸らした。彼女の言葉が、俺の胸に重くのしかかる。


「気をつけなさい。バステルでは、女は物扱いよ。それに、無駄に期待しないことね」


 その一言が、何とも言えない冷徹さを帯びていた。

リリアは俺たちの未来を予測しているようにも見えたし、同時にその未来に対して冷徹であり続けるようにも思えた。


「私だって昔、一度だけ近くまで行ったことがある」


 リリアは少し遠くを見つめながら、声を落とした。


「遠くからでも、あの街の空気は腐ってた。入る奴はみんな目が死んでる」


 その言葉に、テーブルの空気が一層重くなった。

リリアが語るバステルの恐怖が、俺たちにもひしひしと伝わる。


「正直……あんたたちが生きて帰れるとは思えないわ」


 重い沈黙がテーブルを覆った。リリアの言葉は鋭く、冷たい現実を突きつけるように響いた。

しばらくの間、誰も何も言わなかった。だけど、エレナが静かに口を開いた。


「それでも、行きますわ」


その言葉に、俺は少し驚いたが、すぐにエレナの強い意志を感じた。


「アウリス神の教えは、闇の中にも光を届けるもの。それに……シビさんが行くなら、私も」


 エレナの言葉には迷いがなかった。彼女の目は真剣で、強い決意を持っていた。

リリアはしばらくエレナをじっと見つめて、それから俺を見た。

その視線に、何かを感じ取ったが、リリアは黙っていた。


 突然、リリアは立ち上がり、カウンターに戻ると、しばらくして手に小さな革袋を持って戻ってきた。

その袋をテーブルにポンと置く。


「……これ、持って行きなさいよ」


 リリアは軽くため息をつきながら、俺に渡す。

袋を開けると、中には銀貨が数十枚と、小さな薬瓶がいくつか入っていた。


「バステルに入るなら、まずは『門番の酒場』ってとこに行くのよ。そこで街のルールを教えてもらえる。金さえ払えばね」リリアの言葉が続く。


「あと……気をつけなさいよね。あんなとこで死なれたら、私…目覚めが悪いでしょ」


 その一言に、リリアの気持ちが伝わった。

彼女の中で、どれだけ俺たちを心配しているのかが見えた。

リリアはあえて心配を表に出さないが、その言葉に込められた感情は、俺には痛いほど理解できた。


 言いかけて、リリアはぷいっと顔を背けた。


「別に心配してるわけじゃないけど、ギルドの新人が死んだら困るだけよ!」


 その言葉が、リリアの典型的なツンデレぶりをよく表している。

少し焦って顔を背けるその姿に、俺は思わず笑いがこぼれた。


「ありがとうな、リリア」


「べ、別に! ただの貸しよ! 生きて帰ってきたら、利子付きで返しなさいよね!」


「数か月分の宿代も払ってるしな。必ず帰ってくる」


 リリアのいつも通りの強気な態度に、エレナがくすっと笑った。

その笑い声に反応して、リリアは顔を赤くして言葉を早口に続ける。


「あ、あんたも笑ってんじゃないわよ!」


リリアの顔を見た瞬間、思わず笑いがこぼれた。

その表情、恥ずかしそうに目をそらす様子が、どこか可愛らしくて、俺の胸に暖かい感情が広がる。

店内の空気も少し和んだようで、周囲の客たちが楽しげに笑っているのが感じ取れる。


「帰ってきたらまたおごってもらうからな」


「なんで帰ってきたらおごらないといけねえんだよ。そっちがおごるもんだろ」


 俺たちのやり取りに、リリアは少し鼻を鳴らして笑った。


「帰ってくる頃にはその言葉が治るといいな」


リリアのその言葉で、俺も思わず顔をしかめる。


「うるせえよ、行ってくるわ。みんなもまたな!」


「いろいろとありがとうございましたわ。それで入ってまいります」


 数日だったが、結構仲良くなったんだな、と。

酒場の空気も、いつの間にかリラックスしたものになっていて、いつもと違う感覚が漂っていた。

俺たちは礼を言ってから、酒場を出た。

外に出ると、昼近くになっていた。空は晴れ渡っているのに、なぜか胸の奥が重く感じる。


 バステル。悪厄の都。

その言葉が頭の中で反響し、胸の中に冷たい感覚が広がっていく。


 エレナの横顔を見ると、彼女も覚悟を決めた顔をしている。しかし、その表情に一切の迷いはない。

俺たちは不安を胸に込め、首都エリシオンを出た。

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