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ANgelic of the Dead  作者: 書庫
五章--閉ざされた国、ファルムス帝国--
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第七十一夜:魔能(魔法)

「――あ、そういえばさ」

リージュがふと思い出したように声を上げる。

「プルワのアンクレット。前に“魔術刻印”が入ってるって言ってたよね?」


「ふぇ? コレのこと?」

プルワがちょっと驚いたように片足を持ち上げ、

身体を傾けながらアンクレットを見せた。


銀色の細い鎖に小さな飾りがいくつか付いていて、

足の動きに合わせてかすかに音を立てる。

だがそれは、ただの装飾品とは違った。


「あ、ああ……そのアンクレットには、音の魔術刻印が刻まれている」

ミルベーナが少しぎこちない調子で答える。

その視線はアンクレットに向けられながらも、どこか気を遣っているような印象だ。


「これ?」

プルワはくるりとアンクレットを外して、内側をこちらに向けた。

金属の内側には、まるで楽譜のような、譜面のような――けれど意味を読み解けない。

不思議な曲線模様がびっしりと刻まれていた。


「ああ……間違いない。これだ」

ミルベーナは距離を保ちながらも、アンクレットをじっと見つめた。

「近くで見ると……より強く“魔術の気配”を感じる」


「気配?」

ジークが不思議そうに首を傾げる。

「うーん……僕には何も感じられないな」


「あたしも。普通のアンクレットにしか見えないよ?」

リージュがジークと並んで、興味津々にアンクレットを観察している。

二人が交互に手に取り、指でなぞるようにして刻印を見る。


「わ、わっ、返して〜」

プルワが少し慌てたように手を伸ばす。


「あ、ごめんね、ちょっと見たかっただけなの」

リージュが慌ててアンクレットを返すと、

プルワはすぐに受け取り、その場で足にはめ直した。


不思議と、その姿は――無意識のうちに“それを守ろうとする者”に見えた。


「あ、オイラの方こそごめんなさい。

あんまり外さないからさ、ちょっと不安になっちゃって……」

プルワが照れくさそうに、足を内股にしてちょこっと動かす。


「……あー、その」

ミルベーナが珍しく言葉を探すような口調で言葉を継ぐ。


「“魔術の気配”というのは……同じく魔術が使える者にしか、わからないものだ。

そして、恐らくだが……プルワ自身も、その気配には気づいていない、のではないか?」


言葉を選んでいるというよりも、

何かに触れてはならない気配を探っているような慎重さがあった。


「不思議だなぁ……」

ジークがアンクレットを思い返すように呟く。

「最近、魔力の流れなら視えるようになったのに。

あれには……“流れ”がなかったように見えた」


「それもそのはずだ」

ミルベーナは、静かに目を細める。


「もしそれが“魔力”で刻まれた刻印であれば、ジークにも流れが視えただろう。

……でも、違う。この感覚は――“情念”だ。想い。願い。

そういった目に見えない感情の連なり。それが自然と魔術として刻まれたものだと思う」


「そっか、誰かの願い……なんだね」

リージュがそっとプルワの肩に触れる。

小さなぬくもりが、言葉よりも優しく伝わってくる。


プルワは少し迷ってから、小さくうなずいた。

そしてアンクレットを見つめたまま、ぽつりと語る。


「……オイラ、このアンクレットね……死んだ母ちゃんの形見なんだ」


一瞬、馬車の中の空気が静かになった。

風の音と車輪の音だけが、遠くを流れていく。


「姉ちゃんが言ってた。母ちゃん、すごく大事にしてたんだって。

……だから、たぶん、魔法がかかってるっていうより……

ずっとそばにいてくれてる気がするんだ」


プルワの指が、そっとアンクレットに触れた。

揺れた飾りが、小さくカチンと鳴る。まるで返事するかのように。


「……わからないけど、守ってくれてる。そう思うんだ」


その言葉には、説明できないけど確かな、静かな祈りのようなものがあった。


ミルベーナは何も言わなかった。

ただ静かに目を伏せ、口元にうっすらと微笑みを浮かべた。

ジークもリージュも、それ以上は言葉を重ねなかった。


ただ、小さな音を刻みながら揺れるアンクレットの存在が、

この先に続く不確かな道のりの中で――確かに一つの“魔術”としてそこに在るようだった。


「遺された想いが自然と魔術になる。そんな事も出来るのが魔術でもある。

きっとお母様は、魔術が使えたわけではないだろう。

想いが刻印された、世界に二つとない代物だ」


ミルベーナの穏やかな言葉に、馬車の中の空気が少し静かになった。

プルワはアンクレットを撫でながら、ほんの少しだけ笑みを浮かべている。

けれど、しんみりした空気も長くは続かない。


時間が経つと、ジーク、リージュ、プルワの三人がそれぞれ難しい顔をし始めていた。


「ど、どうした?」

ミルベーナが気づいて問いかける。


「いや……想像以上に三つの違いが難しくて……」

ジークが正直に白旗を上げた。


「うん……なんか、どれから覚えたら良いのかも分かんなくなっちゃって……」

リージュも頬をかきながら、どこか途方に暮れた表情。


プルワはあまり混乱していないようで、ケロッとした顔で

「オイラはよくわかんなかったけど、面白かった!」と笑う。


「すまない、一気に教え過ぎたな。

ただ、これでもかなり噛み砕いたつもりだったんだが……」

ミルベーナは申し訳なさそうに、けれど少し困ったようにため息をつく。


そしてふと、何かを補足するように続けた。


「この三つは正式には“魔能”と呼ばれていて、

一般的には“魔法”とまとめて言っても通じる」


その言葉に、リージュが思わず声を上げる。


「えー!? こんなにいっぱい聞いたのに、魔法でいいのー!?

もしかして、いままでの話全部まとめて“魔法”って呼ばれてるの!?」


その叫びはまさにみんなの心の声だった。

そして何故かフォスターは楽しそうに笑っている。


「いや……私は違いを教えて欲しいと言われたから説明したのだが……」

ミルベーナが困惑気味に肩をすくめる。


「どうする、リージュ?

僕は生命の魔法の訓練もあるし、あんまり他には手を出さないでおこうかな〜って……」

ジークは肩をすくめながら、フェリオをなでて笑う。


「えっ……もう“魔法”って言うの?

さっきまで“魔導”って呼んでたのにー!

紛らわしいー!」


リージュがうなだれると、隣のプルワが無邪気に笑い出した。

「あはははっ、がんばれーおねぇちゃん!」


「もー、プルワまでー!」


明るい声が馬車の中に弾けた。

そしてその後も、馬車が進む道の上では、ささやかな魔法の訓練が始まった。

手のひらで火を灯す練習や、風の流れを感じるための集中、少しずつだけれど、確かに前へ進んでいく。魔法の知識と、それぞれの心と絆と一緒に。

更新日は毎週火、木曜日の11時更新となります。

元のペースに戻せそうになり次第、お知らせいたします。


【2025年3月31日、第一夜〜第三夜 改稿リライト】リライト

現在第一夜〜第三夜の文章と構成を全面的にリライトしました。

以前のバージョンを読んでくださった方も、改めて楽しんでいただけたら嬉しいです。


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