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ANgelic of the Dead  作者: 書庫
一章--天使--
3/89

第三夜:大天使と新たな影

【※2025年3月31日、改稿リライト


あなたの目で、心で、彼らの旅路を見守ってください。

森の中は暗闇が濃く、木々が揺れるたびに怪しげな影が伸び縮みしていた。

二人は荒い息をつきながら足を止めることなく駆け抜ける。


森の奥から、不気味な呻き声がいくつも重なって聞こえてくる。

落ち葉を踏みしめる足音すらかき消されそうなほど、あいつらの気配は濃かった。


「フォスター、このままじゃまずい。ネクロスがどんどん増えてる……!」


ジークの声が背中から飛んでくる。

振り返らずにオレは枝を払いながら答えた。


「わかってる! けど、この森じゃ斧もまともに振れねぇ。広い場所に出るしかない!」


雑木が狭く絡む森の道じゃ、オレの斧はただの鉄塊てつくれだ。

ここで振り回せば、敵より先に木に負ける。


背後ではジークがネクロスを蹴り飛ばしながら、間合いを測って進んでくるのがわかる。

あいつは器用だ。片手が使えなくても、自分の身体をちゃんと武器に変えてる。


そんなとき、ふわりと何かがオレたちの脇を駆け抜けた。


「……フェリオ?」


ジークの肩から跳ね降りたフェリオが、小さな足で落ち葉を蹴りながら前方へ。

その背を追うように、ジークが息を整えて声をかけた。


「フェリオ、道を探してくれてるの……? すごいよ!」


フェリオがちらりと振り返り、尻尾を一振り。

まるで「ついてこい」と言ってるようだった。


オレたちはその小さな背中を追ってさらに進んだ。


しばらくすると、木々の密度が少しずつ減り、空がちらつく。

ようやく――出口が近い。


「ジーク! あそこだ、行けるぞ!」


オレが叫ぶと同時に、フェリオが開けた地面の上でくるりと振り返り、大きく尻尾を振った。

二人で最後の斜面を駆け上がり、森を抜けた瞬間、月明かりがオレたちを真っ正面から照らした。


「やっと動きやすい場所に出たな……」


オレは斧を肩から下ろして構え直す。

鉄の板のような斧の平が、月の光を静かに弾いた。


「気を付けて、フォス。ナグリスが空中から狙ってくるよ」


ジークが肩を押さえながら前へ踏み出す。

傷があっても動きは鈍らない。

足捌きはしなやかで、次々とネクロスを蹴り飛ばしていく。


頭上を旋回する一体――

ナグリス。

あの赤い眼光が、はっきりとオレたちを狙い定めている。


ネクロスとは違う。

あいつは“殺意”がある。

それが何より、厄介だ。


「……こいつらを片付けたら、あいつに集中するぞ!」


オレは斧を思い切り振り下ろし、接近していたネクロスをまとめて薙ぎ払った。

血のような液体が地を汚し、周囲の空気が一瞬、静まった。


「分かった。タイミングを見て仕留めるから、ちゃんと合わせてよ!」


ジークが笑って言い放つ。

ったく、余裕があるのか無理してるのかわかんねぇ。


「余計なこと言う暇があんなら、足元気ぃ付けろよ」


軽く肩をすくめながら、そう返した。




遥か空の上からその戦いを見下ろしていたのは、大天使サリエルだった。


空に浮かぶ静寂の中で、彼女はまばたき一つせず、地上を見下ろしていた。

月光に照らされた二つの影が、もがくようにして異形と対峙している。


その様子をひとしきり観察したあと、彼女は細く息を吐いた。


「……あの程度のナグリスに苦戦しているのですか」


吐き捨てるでも、嘆くでもない。

ただ、静かな失望が、その声音にわずかににじんでいた。


「六命の一人を屠り、奇跡に値する運命を手にした人間たち。

それ故、新たに“天の使い”として選定された存在……」


その瞳が、ゆっくりと細められる。


「……ですが、この程度の実力?」


呟きは、誰に向けられたものでもない。

ただ、事実を言語にしただけ。そこに情はない。


それでも――

その視線が、再び地上へと落ちる瞬間、わずかな熱がその奥に灯っていた。


まだ、“見限っていない”という意思が、ほんの一滴だけ滲んでいた。




ネクロスの数が目に見えて減ってきた頃だった。

けど、息をつく暇なんてなかった。

あのナグリス――空でこちらを見張っていた奴が、ついに動いた。


「フォスター!」


僕は叫ぶと同時に、地を蹴って駆けた。

フォスターがそれに気づき、すぐに斧を構え直す。

次の瞬間、ナグリスの影が空から急降下してくる。


「今だ、斧、上げて!」


フォスターが斧の柄をぐっと支え、平の部分を上に向ける。

僕はその刃の背に向かって跳び――


「っ……!」


踏み切ると、重力を無視するように身体がふわりと浮いた。

勢いのまま、宙を切り、眼前に迫るナグリスへ。

その羽に両手をかけ、僕は逆立ちの体勢に身体をひねった。


刹那、羽根の付け根に脚を巻きつける。

捻り――力を込める。


「……落ちろ!」


ぐん、と手応えがあった。

ナグリスが空中でバランスを崩し、咆哮とともに地面に向かって急落した。


「フォス!」


叫ぶより早く、フォスターの斧が動いた。

振り上げた軌道が、落ちてくるナグリスの羽根を切り裂いた。

地面が震え、羽根がちぎれ飛ぶ。


でも、まだ動いてる。

まだ、終わってない。


ナグリスがもがくように地を蹴り、最後の力で突進してくる。

その姿に、フォスターは一歩も引かず、斧を深く構え直した。


「……さぁ、土塊つちくれに還る時間だぜ」


そう呟くと、フォスターは静かに踏み込んで――

鋭い斧が一閃、ナグリスを縦に裂いた。


肉が裂け、骨が砕け、死者の身体が地に沈む。

そのまま、動きは――完全に、止まった。


「……はあっ……」


僕はその場に膝をついた。

呼吸が荒い。腕も脚も、まだ震えてる。

けど、生きてる。ちゃんと終わらせた。


フェリオがどこからともなく跳ね戻ってきて、僕の肩に乗った。

しっぽがふわりと顔に当たる。


「きゅーぅ……」


「ありがと、フェリオ」


そのまま、地面に腰を下ろした僕に、フォスターが斧を担いで近づいてくる。


「……いやー、アイツは危なかったなぁ」


疲れた声。それでも、その顔には達成感があった。

僕はフェリオの頭を撫でながら、小さく笑った。


「でも、なんとか乗り越えられたね。……フォスもありがとう」


フォスターは肩で斧を担ぎ直し、少し照れくさそうに顔を背けて言った。


「……オレはただ、なんとかしようとしてただけだ」


……その“なんとか”が、今の僕にはすごく大きなことだった。




高空を静かに漂う光の中――

その中心に佇むサリエルは、静寂の帳のように気配を閉じ、地上の戦いを見つめていた。


刃が交わる音も、血の匂いも、すべては遥か下の出来事。

だがその一つひとつを、彼女の眼は確かに捉えていた。


「……なるほど」


光に満ちた声が、かすかに空を揺らす。


「個としては未熟。

だが、互いの不足を補う術を知っている。……それは、選ばれるに値する力です」


月の光に重なるように、彼女の白銀の髪が揺れ、瞳は遠くの闇へと注がれる。


「どうか、世界の終末に抗う“糧”となってください。――生きる者の希望として」


風が吹いた。

サリエルの身体はそのまま光の粒へとほどけ、まるで眠るように、空の彼方へと消えていった。


淡く、静かに。

しかし、確かに――何かを“託した者”として。



そして、崖の縁に一人佇む影。


そこに一人の男が佇んでいた。

風に揺れる外套と、どこかふざけたような立ち姿。


「やれやれ……大天使様はいつも一直線。

見てる場所がまぶしすぎて、足元がまるで見えていない」


くぐもった声で呟いたその男は、目を細めたまま笑っていた。

まるで世界すべてを面白がっているような、皮肉と悪意の入り混じった笑み。


「まぁ、そのおかげでこうして影に紛れるのも楽なものですねぇ……ふふ」


手の中で転がしていたのは、金属のペンダントか、それとも魔具の欠片か。

その形に意味を持たせる気もないまま、男は指先で器用に弄び続けていた。


「彼らが“例の天使さん”か……粗削り。

だけど、素材は上々。なにより――見てて飽きない」


地上で肩を並べる二人の少年を、彼は楽しげに見下ろした。

その糸目の奥には、獲物を値踏みするような光がわずかに揺れていた。


「さてさて……このゲーム、もう少し混ぜ物を加えたほうが面白くなるかもしれませんねぇ」


小さな笑い声を残して、男の姿は霧のように崖の縁から掻き消えた。




ジークとフォスターは、周囲に転がる死体を集め、簡易的なゾンビ避けを作り、野営の準備を整える。


「今日は本当に……疲れたな」

フォスターが呟くと、ジークは小さく笑いながら頷いた。

「うん。でも……なんとかやれたよね」


ふと、ジークが左肩を押さえたまま座り込む。

それを見たフェリオが、悲しそうな小さな声を漏らしながら、心配そうにジークの周りを飛び回る。

ときおり、ジークの肩に手を触れようとする仕草を見せながら、ぴょんぴょんと跳ね回り、何かを訴えるように大きな動きをする。


「大丈夫だよ、フェリオ。心配してくれてありがとう」


ジークは左肩を押さえたまま、フェリオの頭を優しく撫でた。

「ナグリスの傷だけど、僕は天使になったから感染しないんだ」


それでもフェリオは、耳や尻尾をピンと立てたり伏せたりしながら、不安そうな反応を見せる。ジークはその仕草に小さく苦笑し、「ホント、大丈夫だよ」と優しく繰り返す。


「フェリオもジークも気にしすぎだって」

とフォスターが斧を肩に担ぎながら言った。

「でも……俺たちの昔の暮らしじゃ、こんなこと考えもしなかったよな。」


ジークも肩を軽く揉みながら、小さく頷いた。

「うん。普通に暮らしてたら、こんなこと絶対にあり得なかったよね……」



「昔……?」

「普通……?」


二人は同時に自分の言った言葉を繰り返していた。

何か違和感がある。しかし、その正体がわからない。



フォスターは空を見上げながら、淡々と続けた。

「……でも、こうなっちまった以上、文句言っても仕方ねぇしな。

俺たちにできることをやるしかないだろ」


ジークはその言葉に小さく笑いながら同意した。

「そうだね……今のこの世界で、少しでも誰かの役に立つことを……」


フェリオはジークの膝の上にちょこんと乗ると、じっと彼を見上げた。

その大きな瞳には、不安と安心が入り混じったような光が宿っていた。


「……ったく、フェリオの心配性は、昔から変わんねぇよな」

フォスターは苦笑しながら呟き、寝床に腰を下ろした。


その後、二人は先程の違和感など忘れ、静かな夜の中、次の朝に備えて眠りについた。



崖の縁で風を受けながら、その男は一人、静かに呟いた。


「それにしても……彼らが“六命”とやり合うつもりだなんてねぇ。

……これは随分と、面白くなってきましたよ」


口調こそ軽いが、その声には底の見えない響きがあった。

まるで、ずっと前から“それ”を知っていたかのように


男はゆっくりと空を仰ぐ。

その視線の先には、さっきまで光の中に佇んでいたはずの、大天使の影。


「……おやおや、サリエル様。やっぱりあなたは、どこまでも“真っ直ぐ”なんですねぇ」


目を細めたまま、笑うでもなく、咎めるでもなく、ただ“測っている”。

その口元には仄かな愉悦と、別種の企みが混じっていた。


「でも……この世界、まっすぐな人間だけじゃ、救われないんですよ。

特に、あなたたちがこんなにぐちゃぐちゃにした時代じゃあねぇ」


男は手のひらを返し、小さな金属片のような何かを空中に放った。

それは月明かりを反射して、くるくると舞い、やがて地面に落ちる前に消えた。


「……まあ、これで終わりとは思ってませんよねぇ。――ねぇ、サリエル様?」


その言葉とともに、男の身体が霞のように薄れていく。

気配ごと、風に溶けるように――そこにいた痕跡すら残さず。


まるで最初から、“見ていただけ”の幻のように。



翌朝、彼らを待ち受けるのは新たな出会いか、それともさらなる試練か。だが、眠りにつく二人には、まだその未来が見えるはずもない――。

【※2025年3月31日、改稿リライト

文章と構成を全面的にリライトしました。以前のバージョンを読んでくださった方も、改めて楽しんでいただけたら嬉しいです。


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挿絵の公開も適宜更新しております。

良ければフォローよろしくお願いします。

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