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ANgelic of the Dead  作者: 書庫
三章--ヴァルストーク砦攻略戦--
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第十五夜:その命、久遠の虹結晶 中編

その光の中から現れたのは――


白きドレスに包まれた、まるでお姫様のような少女の姿だった。


透き通るような純白の布が彼女の身体を包み、淡いピンクのリボンが羽のように幾重にも折り重なり、彼女の周囲に柔らかな光を撒き散らす。

風が舞い、彼女の髪がふわりと揺れる。その瞳には、先ほどの迷いや怯えの影はない。


「なっ……!? 目が……! 身体がああぁぁぁ!!!」


アンドレアルフスが絶叫する。

闇に慣れきった肉体が、まばゆい神聖の光に焼かれる。

両手で顔を覆いながら後ずさる彼の姿は、

先程までの余裕とは打って変わり、哀れなまでに無様だった。


「天……使?」


フォスターが呆然と呟く。

だが、彼女の背には羽などない。

それでも、彼女の纏うその光は、明らかに人のものではなかった。


リージュは静かに胸元に手を当てた。

そこにあるのは、七色に輝く宝石――久遠の虹結晶。


「力を貸して……久遠の虹結晶!」


彼女がそう呼びかけた瞬間、結晶は光の花弁を広げるように展開し、そこから鮮烈な閃光が溢れた。


「僕らと……比べ物にならない……力だ」


ジークが戦慄混じりに呟く。


リージュは両手を広げ、まるで祈りを捧げるように囁く。


「――緑よ! 大切な人に、立ち上がる力を!!」


その瞬間、光が三人に降り注ぐ。

傷ついた身体が癒され、血の滲んだ衣服の下で筋肉が再生される。

じわりと温かな感覚が全身を包み、力が湧いてくるのを感じた。


「……なんて力なの……?」


ミルベーナは驚愕しながら、少しずつ身体を起こした。

さっきまであれほどの痛みがあったはずなのに、今はもう立てるほどになっている。


「おおおおおおおおお!!! クソガキがぁぁぁ、舐めるなぁぁぁぁ!!!」


突如、黒い瘴気が噴き出した。


それはまるで地獄の釜の蓋が開かれたかのような暗黒。

純粋な悪意を孕んだ黒の波動が、辺りを一瞬にして呑み込んでいく。


そして、その闇から――


化け物が現れた。


「う、わぁ……っ」


リージュが小さく息を呑む。


アンドレアルフスの身体が変質する。

彼のマントに見えた孔雀の羽が実際に広がり、黒と紫の不気味な光を放つ。

指は異常に長くなり、関節が逆向きに折れ曲がりながら、鋭利な鉤爪へと変化していく。


顔も醜く歪み、白い肌は爛れたようにヒビ割れた。

鋭い牙をむき出し、唾液を滴らせながら、巨大な口がねじれるように開く。


「ギィ……ギィィィィ……!!」


人の言葉すらまともに発せられない異形。


「天使ごときがァァァァ!!!」


化け物と化したアンドレアルフスが、巨大な両手を振り上げる。

次の瞬間、黒い瘴気をまとった爪が、リージュを押し潰そうと振り下ろされた。


「――ッ!」


だが、刃鳴りが響いた。


ザシュゥ!!


「……悪いが、ここから先は」

「やらせはしない……!」


フォスターの大斧が片方の腕を切り落とし、

もう片方の腕はミルベーナの千光剣が斬り裂いた。


「ギャァアアアア!!!」


化け物は咆哮を上げながら、傷口から黒い液体を撒き散らす。

だが、それでも怯まない。


リージュは冷静に一歩前に出た。

彼女は胸元の結晶を再び輝かせ、静かにその色を変える。


「――赤よ! 罪深き暗黒の化身に、束縛を!!」


鮮血のような赤い光が溢れる。

それは瞬く間に無数の薔薇の荊棘へと変わり、化け物の四肢を絡め取った。


「ガ……ガアアアアアッ!!!」


アンドレアルフスの悲鳴が響く。

神聖な力を帯びた荊棘が、彼の肉体を蝕むように絡みついていく。


「これで……終わりにする!」


リージュの瞳は、もはや恐怖に揺れる少女のものではなかった。

強き意志を宿した、神の使いの眼差しだった。


ギリギリ……ギリギリ……


肉が引き裂かれる音がする。

アンドレアルフスの変質した身体に、赤い薔薇の荊が絡みつくたびに、皮膚を抉り、血を滲ませる。

だが――


「クゾガギィィィ!!! キザまだゲはゴロズゥゥゥゥゥ!!!」


それでも化け物は傷を厭わなかった。


孔雀の羽根が大きく広がる。

次の瞬間、無数の鋭い針が弾丸のように飛び交った。


ガガガガガガガガガガガガン!!


「……っ!」


リージュの前に飛び出したミルベーナが、千光剣を振るい、迫りくる針を全て叩き落とす。

だが、その僅かな時間で、化け物は目の前まで迫っていた。


「ダメ……これ以上、強く、抑えられない……!」


リージュの両手が震える。

全身を支配する圧倒的な闇の気配に、久遠の虹結晶の力が押し負けそうになっていた。


その時――


「頼む、僕の力を、祈りを彼女に届けて!!」


ジークがリージュの前に跪き、静かに祈りを捧げた。


青白い光が彼の手の内から溢れ、リージュを包む。

その光が久遠の虹結晶へと吸い込まれると、真紅の薔薇の荊がまるで生き物のようにうねり、さらに絡みついていく。


「ギャギャギャギャギャギャギャギャァァァァァァァ!!!」


アンドレアルフスの叫びが広場に響く。

今度こそ、完全に捕らえた。


リージュの瞳が鋭く輝く。

彼女の口から、静かに、けれど力強く詠唱が紡がれた。


「――白よ! 大いなる清浄な白よ! 聖光の棺に暗黒を封じよ!!」


一瞬の静寂。


そして――


光が鎖の形に変わり、化け物を縛り上げた。


純白の輝きが、黒き闇を締め付ける。

上下からゆっくりと降りてくる、白銀の輝きを放つ棺。


「ギャギャギャギャギャァァァァァ!!!」


もはや言葉ですらない叫び。

崩れた顔が歪み、泡を吹くように口を開く。


その混濁した絶叫の中、確かに聞き取れた言葉――


「アだじの、美のぜかいぉぉぉぉぉぉ!!!」


その刹那――


「ったく、うっせーなぁ」


頭上から響く、低く苛立った声。


バゴォーン!!!


「とっとと失せな、ブサイクが」


フォスターの巨大な斧が、アンドレアルフスの頭上から振り下ろされた。

脳天に叩き込まれたその一撃が決定打となり、

化け物は崩れるように、白銀の棺の中へと沈んでいく。


静かに、白銀の蓋が閉じられた。


――封印、完了。

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