にじいろの あしあと
♯はいいろの かべ
あめがポツポツ、しっとり、きもちいいひ。
わたしはコンクリートにはえた、コケをムシャムシャたべてたの。
カリカリ カリカリ
あれ? おいしそうな おと。
おとなりには、グルグルのおうちをかついだ カタツムリさん。
「こんにちは カタツムリさん」
「やあ、こんにちは。ナメクジさんだね」
「そう。メメっていうの」
「ぼくは ツム。きみは、おんなのこかい?」
「うーん、わかんない。でも、おんなのこが いいかな」
「ぼくも どっちかわかんないけど、おとこのこが いいな」
「ところで、ツムくんは ポリポリなにをたべていたの?」
「ああ、コンクリートをかじってたんだ」
「ええ、かたくない?」
「ぼくはね、コンクリートをたべて、おうちをおおきくするんだよ」
ツムくんは、せなかのおうちをユラユラ ふってくれました。
わたしは それが うらやましかったの。
「いいなあ、それ」
「そうかな?」
「そうだよ。カタツムリさんは、おうちがあるから、みんなの にんきもの」
「メメちゃんも かわいいよ」
わたし、あんまりかわいいって いわれたことが ないので、てれちゃう。
♯にげなくちゃ
おしょくじが おわって、ツムくんと いっしょに、ノソノソはっぱのうえに のぼったの。
「きょうは、いいてんきだね」
「うん、シトシト ジメジメ きもちいい」
わたしは ちょっと ねむくなって おめめをひっこめてたら。
「あ、カタツムリ!」と これ、 たしか、にんげんのこえ。
「わわわ!」とツムくんのこえ。
びっくりして おめめをあけたら、ツムくんが いない!
「たすけて!」
ツムくんは ちゅうぶらりん。
にんげんの おとこのこが おうちをつまんで もちあげちゃったの。
わたしは おとこのこをおいかけた。まってまって! でも、はやいはやい!
なんとか ノソノソおいついたら、ツムくんは、リンゴといっしょに とうめいな はこのなか。
たすけなきゃ! わたしは おとこのこの おへやのまどに、ペタってくっついたの。
それをみて、 そのこは びっくり。
「ぎゃっ、ナメクジ!」
ころんで、ツムくんが入った はこをひっくりかえしちゃった。
わたしは、おへやにはいって、はずれた フタから はこに はいって、
つむくんをおこしてあげて、おうちの そとに、いっしょに ノソノソいそいで にげたの。
ああ、たすかった。
ツムくん、うれしそう。
よかった。
♯しろい じめんと あおい みず
「メメちゃん、ほうんとうに ありがとう」
「どういたしまして」
「おれいをしなくちゃ」
「そんなの、いいよ」
「でもやっぱり、おれいが したい」
「うーん、それじゃね、りょこうに つれてって」
「いいけど。どこにいきたいの?」
「そうね、わたしみたいなこが、しあわせに くらせるとこ」
「そうかあ、むずかしいけど、さがしにいこう」
「ありがとう」
わたしは、ツムくんとならんで たびにでました。
さいしょに ついた ばしょ。
サラサラのきれいな じめん。
ざざーんと おとをたてる、 あおい おみずと、しろいアワアワ。
おみずよりもずっと キラキラしてて まぶしい おそら。
わたしは うれしくなって しろい サラサラ ツブツブの じめんにとびこんだ。
わ! ピリピリする。
「メメちゃん あぶない!」
ツムちゃんがノソノソあわてながら わたしのからだをひっぱった。
「いたたた」
からだじゅう ツブツブだらけで プチプチいたかったけど、
ツムくんが いっしょうけんめい パタパタ はらってくれた。
「いいかい、メメちゃん。ここはね、うみ といって ぼくたちが すむには むいてないんだ」
「そうなの? あっちの おみずは すごくきれいだけど」
「だめだめ。 あれは、しおみず といって、とびこんだら ぎゅんとちぢんじゃうよ」
「せっかく きれいなのに ざんねんね」
「ほかのばしょに いってみようか」
「うん、つれてって」
ツムくんは、わたしよりさきにノソノソすすんで いきました。
あたしは そのあとを ツルツル ついていったの。
♯にじいろの せかい
いっぱい たびをして つかれたけど、ツムくんに まけないように、
ノソノソ さっさとついてった。
とちゅう、あめが ザーザーふってきてから、ちょっと げんきに なったよ。
みえてきたのは、つちのいろと みどりと あおいそら。
そのむこうに おおきなにじが かかっている。
わたしたちは、うれしくて、いそいだ。いそいだ。
はらっぱをこえて もりのなかにはいると
ともだちが いっぱいいたよ。
ものしりの ツムくんに みんなの なまえをおしえてもらったんだ。
ムカデさん
ケムシさん おかあさんの チョウチョ
イモムシさん おとうさんの ガ!
ダンゴムシさん
クモさん
カブトムシさん
クワガタさん
それからね、あそこをとんでるのは、トンボさん。
「いらっしゃい」 「いらっしゃい」
「いらっしゃい」 「いらっっしゃい」 「いらっしゃい」
「あそぼ」「あそぼ」「あそぼ」
「あそぼ」「あそぼ」「あそぼ」「あそぼ」
ツムくんと わたしは、みんなに おでむかえしてもらって
いっぱい いっぱい いっぱい
あそんだよ。
♯しあわせな ばしょ
ここには にんげんは いないし。
しおみずも ないし。
いいとこだね。
あそんで つかれて きゅうけいしていたら、
ツムくんが はなしかけてきた。
「メメちゃん、ここは キミが しあわせに くらせるとこだよ」
「そうだね」
「じゃあ、ここに すんじゃおうか?」
「そうね」
わたしは ちょっと、かんがえた。
ここもいいけど、コンクリートのかべも すきだな。
わたしが うまれたとこ。
ツムくんと であったとこ。
「やっぱり わたし、あそこに かえる」
「そうなの? みんな ここに おいでよって いってるよ」
「でもね、やっぱり、あの はいいろの ばしょが いいの」
「そうなんだ。じゃあ……」
「ツムくんとは、ここで おわかれかな?」
わたしは ちょっぴり かなしくなった。
「メメちゃん、ひとりで もどれる?」
「うん、がんばる。がんばって、あそこをもっと みどりにする。あおにする」
「そうか」
「がんばって、あそこをここみたいに いろんな いろにする」
ツムくんは、つきだした おめめをパチパチした。
「じゃあさ、ひとりより、ふたりのほうが、いっぱい かえられるよ」
「そうなの?」
「そうさ!」
「ありがとう。じゃあ、いっしょにかえろうか?」
「いっしょに かえろう」
♯かえりみち
もりの おともだちとの おわかれは ちょっと かなしかったの。
でも、まえをみて ノソノソさっさと もりを しゅっぱつしたんだ。
「わたしたち、にじいろも つくれるかな?」
「にじいろは、むずかしいかもね。でも、おひさまと あめさんが つくってくれるよ」
「そう! それなら よかった」
「バイバイ!」
「またね!」
もりのほうから おおきい こえが きこえてきたので、ふりかえった。
おともだちが いっぱい てを ふってくれたの。
ふりかえってみたらね、
ツムくんと わたしがノソノソ歩いたところがね、キラキラ にじのみちに なってたんだよ。
おしまい。
(了)