3話 山賊にキノコを
それから何日も問題なく森にあるキノコをたくさん採集して、山賊の一団からそれなりに信頼を得られた。と言ってもやはり自分からは話しかけられず、ただ受け答えにあまり遠慮がなくなったくらい。それと食事も最初は離れた場所でしてたけど、今は一緒の食堂でしている隅っこで縮こまり、黙々と食べる。素朴だけど、キノコの中には様々な肉の味がするものや香ばしいものがあって、それらは私が採ってきたからとそれなりに多めの量を貰える。
山賊の一団は全員で44人。毎日数時間、籠いっぱい森を回りながら様々な種類のキノコを採って来ても、体格がいい男たちなので、一日で籠いっぱい分が消えてしまう。狩りにもでかけてて、なんと畑まである。益々ただの山賊とは思えないけど、やはり聞くに聞けず黙ってキノコだけ採って砦の掃除などをして過ごしている。なぜかお料理は彼らの私よりうまい。一度お料理をさせられたら、味付けが適当だと怒られ、それから一度も出来ずにいる。山賊の一団からはキノコ婆などと呼ばれているが、私はまだ十代です。なんて言っても信じてくれない。肌はぴちぴちなんだけど、そんなに説得力がなかったんだろうか。
「お前みたいな達観した十代がいてたまるかってんだ。」
「そう言われても、こんなゴミみたいな人生を生きていると自然とこうなると言いますか。ほら、私ってめちゃくちゃ不細工な顔じゃないですか。貧乏な田舎で暮らしてるただの平民で。だから私が理想的に叶えられる立場なんて理性を持った話し相手くらいしかなくて。」
そう返事をすると、山賊のおっちゃんはしんみりとした顔で肩をポンポンと叩いた。
「お前も随分と苦労しているんだな。」
なんて、夕食の時に言われた。食堂はそれなりに広くて、真ん中に焚き火台とその上に大きな鍋と串にして焼いている魚や肉がある。薪もちゃんと調達して、もうすぐ冬なこともあって、練兵場にあたるところに背丈を優に超える高さまで積み重なっている。村では冬を越す食糧を全部持っていかれたので、多分少なくとも何人かは餓死者がでるだろう。そして私は生き残る。こんなゴミみたいな私が生き残るなんてあっていいのか。何気に居心地もそこまで悪くはない。部屋には誰も入ってこないし、私専用の桶を貰ったので水浴びも一人でできるし。
たださすがにこれくらいの人数がいると、私をあまり好ましくない人もいるわけで。そういう時はなるべく自分を抑圧するようにしている。
「いやはや、良くこんなところで適応するもんだな、キノコ婆。」
男はしゃがんで私にそう言う。
十日が過ぎたころ、夜明けにちょっかいをかけられた。水浴びをして、着替えはないので同じ服に袖を通して。さすがに汚いので寝る前に服を洗って裸で寝袋に入って寝て、それをまた着るようにしている。そして今日は水浴びだけし、服に着替えて、ぼさぼさな髪が濡れて丸い顔についてる。私はじっと壁に背を預けて座っていた。こんな姿を見られるのはあまり好きじゃないけど、自分でそれをコントロールできる立場じゃないのはわかっているので、声に不満を出さずに意識して言う。
「皆さまに殴られずにいることには感謝しています。」
「それは物分かりがいいのとは違うだろう。なぁ?」
男は後ろの仲間を見てそう言っていた。二人してなんで私の部屋を訪ねてきたんだろう。
「田舎の連中は皆そうだろう。違うか?」
「見た目がこれだもんな。」
当たり前のことを言っているだけ。別に敵疑心から食い掛られているわけじゃない。素直に返事をすればいい。今までもそうだったから、多分これで大丈夫。
「すみません、私みたいなものが。」
私の前に立っている男にちっと舌打ちをされた。
「頭おかしいだろう、騒ぎもしない、逃げようともしない、探ろうともしない、おかしいだろう。慣れてんのか?それともなめてんのか?」
「殺されてないだけで御の字と思ってますから。」
すると頬をパチパチと打たれた。そんなに痛くはない。腕と肩の力は全く入ってない、手首だけのスナップ。痛みより心理的な衝撃を与えたかったんだろう。
「お前な、必要だから生かしているに決まってんだろう?悔しくないのか?俺らはお前の村から十人以上は殺してるんだよ。食糧も根こそぎ持ってきてる。俺も二人は殺した。お前の親だったかもなぁ?」
頭に血が上りそうになることを我慢する。彼は私をただいじめたいだけではないことはわかっている。だってそう言うものなら痛みを感じるほど殴られるわけだし。
「あの、ごめんなさい、何か気を悪くしたなら謝りますので。」
「何を謝るんだよ。俺はただな、お前の神経を疑っているんだ。わかってんのか?頭がいかれている奴なのかとな。」
男の視線が私を射抜いて、私は顔を逸らした。すると男の大きくてごつごつとした手が私の顔を掴んだ。
「なんか言えよ。」
そう言われても何も言えずにしばらく黙っていると、男の手が私の頬から離れる。
「まあ、俺らがここから離れる時に殺されないようにする魂胆なんだろう。」
そう後ろの男に言われ、男は
「いやはや、そうはならないのになぁ?村に俺らを招いた俺らの仲間として指名手配されるのが落ちだろうよ。」
そう言われ、顔から血の気が引くのを感じた。