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フロガは小川を下流に向け歩いていた。

時に小川の中の貝やカニをさがし見つけてはそのまま食べ、小川のほとりに生えている雑草にカタツムリを見つけては雑草ごと食べ、小川の水を飲んで進んだ。

ほどなく進むと、辺りは明るくなっていた。

太陽が登り、周りの木々の数は大分減ってはいたが、小川の周辺まで背の高い雑草が増えた。

小川のほとりもぬかるんだ土ばかりになり足を取られる。

フロガの身長より遥かに高い雑草が視界をさえぎり、時折吹く風にザワザワと微かに揺れている様子は、まるで生き物のようだ。

雑草の高さに圧倒され、周囲の景色はぼやけて見え、まるで雑草の迷路に迷い込んだかのような感覚に襲われる。風が吹くと、ざわざわと音を立てながら、草たちが互いにささやき合う。視界が悪く、足元も悪い。まるで森や雑草達が「ここから逃がさない」と嘲笑っているかのように感じられた。

フロガは恐怖した。早くここから逃げ出したかったが走り抜けられる環境ではなかった。

フロガは水の中を進んだ方がぬかるみと草の中を歩くより早いかもしれないと思い、恐怖から慌てて小川の中に入った。

小川は浅く、フロガの膝程度の深さしかなかった。澄んだ水で川底が見える。

このまま下流を目指して進もうと数歩前に足を出したが、底の泥に足が埋まり思うように進めなかった。泥が跳ね上がり下流の水が濁る。

その時フロガは右の足首辺りに違和感を感じた。痛みはなく、何かやわらかい物がくっついている感触だった。

泥から右足を上げて水面から上げたら小さな細い魚が吸いついていた。どうやら血を吸っているようだ。相変わらず痛みはないので嚙んでいるのではなく吸いついているようだ。

フロガは片足でバランスをとりながら左手で細い魚をつかんでとった。

魚が吸いついていた場所から血が2~3滴垂れたが、もうとまったようだった。

フロガは魚の顔を見た。ヒゲが生えていた。上半分は黒っぽく、下半分は銀色の細長い小さな魚だった。フロガの手の平に収まるくらい小さな魚だ。自分の口に放り込みムシャムシャと食べた。ほんのりと甘く、内臓はほろ苦く、思っていたよりおいしかった。

「また食べたいな」

魚の骨を咀嚼しながらそんな事を考えていた。

ほとんど移動していない。周りは背の高い雑草に取り囲まれた小川の中だ。

一瞬先ほどまで感じていた雑草迷路の恐怖を魚の味で忘れていたのか、立ち止まっていた。

フロガは両足を川底についていた。

最初は右足首に1匹だけ吸いついていた魚だった。

1匹だけのはずはなかった。

「え・・・?あ!?」

フロガはとっさに岸に上がろうとした。もう足は動かなかった。

澄んだ川の中で自分の足は見えなかった。黒っぽい銀色の小さな魚が足からビッシリ生えていた。

「あああああああああ!」

フロガは水に手を入れ、バシャバシャ水を跳ねながら足の魚を払ったり引っ張ったりしてとろうとした。川底の泥の中から追加の魚が一斉に出てくる姿が見えた。当然水に入れた手も狙われる。手の甲や手首から新しい指が生えたように見えた。

「このままだと死ぬ」

フロガは死を覚悟した。自分の指ほどしかない大きさの魚相手に。

太陽は真上に登りフロガを照らしているが、フロガは孤独感と死の恐怖で真っ暗に思えた。

風が吹いて雑草を揺らしているが音がまったくしなかった。静寂が包んでいる。

「諦めるな!親父さんは生きている!」

セグの声が聞こえたような気がした。

血を失いすぎたのか頭がフラフラしてきた。誰かの声が聞こえる。


「オイ!オマエ!手ヲ!手ヲノバせ!」

フロガははっきり聞いた。


今を逃せばもう助からないと覚悟を決め、力いっぱい目を開けて周りを見た。

腕を延ばせば届きそうな所に木の枝がある。フロガがつかんでも折れなそうな木を持っているのはゴブリンだった。

「わーっ」

と掛け声とともに木に捕まると

「ツカマットケ」

と岸辺のゴブリンはぬかるんだ地面で滑りながらも引っ張って少しづつだが岸辺に引き寄せてくれた。

フロガは重い両足を川底で引きずりながら必死に木をつかみ岸を目指した。

そうこうしている間に岸辺のゴブリンはフロガの腕をつかみ引き上げた。

フロガはお礼を言おうと思ったが、倒れこんで「ハアハア」と荒い息をするのが精一杯だった。

ゴブリンは無言でフロガの足と手についている魚をむしり取っている。

「オマエ!生キテいるカ?」

フロガは息も苦しく気分も悪く話せなかったのでウンウンと首を縦になんども振った。

「生キテルな!」

ゴブリンはフロガの頭を平手でバシバシと叩いた。

かなり痛かったが、フロガは抵抗する体力と気力はもうなく、おとなしく叩かれていた。



フロガはとりあえず息が整ったので座り込み助けてくれたゴブリンを見た。

フロガと同じか少し上くらいの年齢に見えた。ちょっとだけフロガより体が大きい。

「どうもありがとう。ほんとに助かった!」

「ソウカ。魚食ッテイイか?」

「う、うん」

フロガが返事をした時には助けてくれたゴブリンはすでに2~3匹口に入れていた。

「大量ダ!持ッテ帰ろウ」

「あ、ボクはフロガ。キミの名前は?」

「知ッイテいる。狩人ノ息子フロガ。オレはザザ」

「ザザ!?ギッギの弟のザザ?」

ギッギはフロガの父と共に猟に出はじめたゴブリンだった。何度か父に名前を聞いたことがあった。

「ソウダ。アニキもイル」

「え?そ、そうだ。持って帰るって言ってたけどどこに?ギッギも一緒にいるの?他の仲間は?」

「オマエ、イッペンニ聞ク、サレテモワカラナイ」

「あ、うん。ええとザザはどこに帰るの?」

ザザはフロガから顔をそらし上の方を見て

「オマエ、ツイテこい。魚持ッテ」

フロガから取ってくれた魚がまだ地面で数匹元気にピチピチ跳ねていた。

吸いつかれた自分の足や手を見たが、少し青あざのような内出血があるだけで出血はしていなかった。

ザザはしゃがみこみ、腰布を袋のようにして魚を拾い集めだした。たまにつまみ食いしながら。

立ったままじっと見ているフロガを見上げ

「フロガ、オマエもクットケ!」

とフロガに数匹差し出してくれた。フロガは吐き気がしてこみあげてきたが我慢した。

引きつった顔で

「ちょ、ちょっと水飲んで休んでから手伝うね」

と言って小川のそばに寄ってしゃがみこんで吐いた。

吐しゃ物にもさっきの魚や違う魚や虫が集まってきた。

フロガは小川が怖くなったが、5歩ほど上流に移動して水を掬い飲んだ。

立ち上がって深呼吸をしたら気分も落ち着いてきた。

もう一度しゃがみこんで小川で顔を洗い、もう一口水を飲んで立ち上がって振りむいた。

「仲間が生きていた!」

さっきは死を覚悟したのに、今は一人じゃない。仲間がいる!そう思ったら自然とニヤニヤしていまった。もう自分以外は洞窟のゴブリンはいないんじゃないかと思っていた。うれしかった。

「オ、オマエ。ナニガオカシイ?オカシイ??」

ザザが首をかしげながら不思議な物を見るようにフロガを見ている。

「ザザが居て助けてくれたからだよ!」

フロガは笑顔で返事をしたがザザの首は余計に傾くだけだった。

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