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セグともはぐれ一人になってしまったフロガ。一人森を行くが…

フロガは一人暗い森をさまよっていた。

木の枝と大きな葉で空は見えないが、もう日は沈んでいるはずだ。遠くでフクロウと虫の鳴き声が聞こえる。ゴブリンは夜目が効くが、周りの森は深く見通しは悪かった。

父グラッツィを探す以前に今自分がどこにいるのかわからなかった。

カジャが言っていた「オーガのところ」も見当がつかなかった。

母や兄弟、叔父が目の前で死に、頼れるドワーフのセグともはぐれ途方に暮れていた。

だが、体は空腹と、のどの渇きを訴えていた。

水を探すにはおそらく低い場所の方がいいだろうと思い、高低差があれば低い方を選び森の中を草や枝をかき分けて進んでいった。

途中で捕まえたバッタやカブトムシをかじりながらさまよっていると、かすかな水の流れる音が聞こえた。

フロガはわずかな水音を頼りに進み小さな小川を見つけた。

もう走る体力もなく、フラフラと小川のほとりにたどりつき、小川に倒れこむようにして顔を直接つけて水を飲んだ。

水のそこに沈んでいる小さな二枚貝を2個見つけ、殻ごとバリバと食べた。

水を飲んだからか、すこし腹が膨れたからか、気分が落ち着いてきた。


「オーガってどこにいるんだろう・・・」

小川のほとりに座り込みポツリとつぶやいた。

河原は小さな石が多いが、所々土の地面がぬかるんでいた。

そのまま仰向けに横になり、小川の上の木々の隙間から星を見ていたが、気が付いたら眠ってしまったようだった。

ガサガサと草木の音が聞こえてフロガは目を覚まし、とっさに近くの大木のそばに寄って隠れようとした。

どれくらい眠っていたのかわからなかったが、まだ夜だった。小川がわずかな星灯りを反射してキラキラ光っている。わずかな風が葉先をゆらしている。

小川の上流側にうっすらと灰色とも白とも言えるような色の狼がいた。一匹だけだ。

一瞬捕まえられたらしばらく食料に困らないと思ったが、セグもいない自分一人だけで倒せるはずもなく、狼に食べられる自分を想像して怖くなり、大木の幹の裏に隠れた。

そーっと顔だけ大木から出して観察していると狼は水を飲みに来たようだ。

小川に顔を寄せて舌で上手にピチャピチャと水をなめている。

フロガは気づかれていないと思っているが、狼は風下におりフロガの存在にすでに気づいていた。

賢い狼は気づいてないフリをしてフロガの出方をうかがっていた。

狼は空腹でもなかったのでゴブリンを襲うでもなく、気まぐれで様子を見ていたが飽きて立ち去る事にしたようだった。

小川に向いていた顔を上げて、ちらりと一度だけゴブリンの隠れている木を見て、くるりと反転しゆっくりと立ち去った。

フロガは立ち去る前に狼がこちらを見てからさった行動に「気づかれていた」事をなんとなく理解した。闘いもできず、狩りも満足にできない自分を狼が笑いながら去っていったような気がして悲しくなった。

「あの狼のほうが強くて賢いんだろうな・・・」

小声でつぶやいて、狼の後を追ってみることにした。

「狼が獲物を取れば、食べ残しがあるかも」程度の考えだった。


ゴブリンは人間やドワーフより劣っている。力も知恵も。

闘いになったとしたら、数的優位に立ってようやく勝てるかどうかだが、わずかに優っている所もあった。

消化能力、胃腸の強さだった。

かなり腐敗した肉や、寄生虫がいるであろう虫や魚を生で食べても腹を壊すこともなかった。

体も殴られたり切られたりしたらすぐに骨が折れ皮膚は裂け肉を断たれてしまうが、暑さ寒さや虫さされや植物かぶれなどにはかなり強く、ハチやムカデにさされても、食料が自ら来てくれたくらいの感覚であった。

病気にもめったにかからない。


フロガは父のような狩猟能力も経験もなく、狼の追跡などまったくできなかった。

小川から離れ、狼が去っていた藪をかき分け5歩もあるいたら背の高い草木に囲まれ見失っていた。もちろん狼の足跡などみつけられなかった。

フロガは目を凝らし、耳をすませても何も見つけられなかった。

背の高い樹木の枝葉が星空をさえぎり生き物の気配は無く、わずかな風が草木をゆらすザワザワという音しか聞こえなかった。

フロガは己の無力に落ち込み、その場で座り込んでしまった。

「セグ、助けに来てよ・・・母さん・・・」

いつも優しかった母と、ぶっきらぼうだったけど助けてくれたセグを思い出し悲しくなった。

地面を見つめ涙がポタリと地面に落ちるのを見つめていた。

「どうしよう。どうしていいかわからないよ父さん、カジャ」

下を見て泣いている自分が情けなくなり上を見上げた。木々の隙間からわずかに三日月が見える。

「カジャもセグも言っていた!父さんは生きている!」

フロガは立ち上がった。ふと父と族長が話していた内容をかすかに思い出した。

「オーガは平原にいるって聞いた事があるような・・・オークだったかな?ナーガだったかも??」

あまり自信はなかったが、ここで泣いていても何も変わらないと自分に言い聞かせ行動することにした。さっきの小川を下っていけば森を抜けられるはずだ。

以前、岩の原の木に登った時に川が森を抜け草原へ流れているのを遠目で見たことがある。あの時は、幼い弟と妹も一緒で二人とも木に登れないのに「登りたい」と言うから手伝って登らせたけど降りれなくて、助けることもできなくて3人で木から落ちて・・・それでも楽しかったんだ。

楽しい思い出なのに悲しいのはもう一緒に楽しい事ができないんだなと思い呆然とした。


少しぼーっとしてしまったが

「行かなきゃ!」と声を出し歩き始めた。

藪をかき分け小川に戻った。そして下流に向かって歩き出した。

川沿いなら水もあるし、少しさがせば貝やカニも手に入るかもしれない。

育ち盛りのフロガには腹いっぱいに食べる事は無理でも食料問題はなんとかなる算段がついた。

小川の上は木々の枝は薄く、見上げれば星は見えなくなりうっすらと空が白み始めていた。

遠くで狼の遠吠えが聞こえた。

フロガは少し怖かったけど、さっきの狼が背中を押して森から出してくれるような気分になった。

次は来週の週末予定です

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