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父がいるのではないかと思われる岩場についたフロガとセグ。そこには・・・
岩の原は大きな茶色い岩がゴロゴロとあり、地面もでこぼこだったり傾斜があったりで視界も悪く移動も困難な場所である。
樹木も草もなくなり、ここからが岩の原なんじゃないかという場所についたとき、太陽がわずかに顔を出し空の端がオレンジ色に輝きだしたが、白い霧はより一層濃くなりさらに視界を悪くする。
闇夜を見通すゴブリンとドワーフでもさすがに遠くまでは見えなくなっていた。
「フロガ。慎重にいくぞ、それと大声をだすなよ。誰かいる感じがする」
フロガはセグの顔を見上げた。いつも笑っているように見えたけど今は真剣な表情に見える。
「うん。わかった」
(父さんがいるかもしれない。でも母さんたちを殺した人間達がいるかもしれない)
「ああ、ちょっと待て」
フロガの返事を待たずに地面に座り荷物を下ろし水袋の水を一口飲んでフロガに差し出した。
フロガは立ったまま黙って受け取り、同じように一口だけ飲んでセグに返した。
「水も残り少なくなったな。森で朝露集めるんだったか。ちっ、ちょっとばかし嫌な予感がする」
セグは小声でぶつぶつなにかまだ続けていたが、フロガは霧が濃くなってきて見えない大岩の間から何か出てくるんじゃないかと不安だった。フロガも何かを感じていた。
「お前、戦えないわな?」
「うっ・・・うん」
「石は投げられるな?」
「で、でも多分あたらないよ?」
「投げて飛んだらそれでいい。当たらなくていいから合図したら投げろ。何個か拾って持っておけ。ワシは一応胸当てをつけとくから投げれそうな石を何個か探しといてくれ」
そう言ってセグは背負い袋の中から前掛けのような胸当てを出した。所々に金属や鱗がついているみたいだった。フロガは少しだけ歩きながら投げられそうな石を5個拾って1個を右手に持った。
「フロガちょっとこっちにこい」
セグの前に来たら両手で肩を押さえつけ座らされた。そして頭に革の布をかぶせて紐でしばり
「まあ気休め程度の防具だがつけとけ」
といって背中を平手で叩いた。
フロガは背中が痛かったが
「どうもありがとう」
とお礼を言ったが後頭部で縛った革ひもが食い込むし、まだ短かったが額から出た二本の角も引っかかっている気がして不快だった。
セグは額部分だけ分厚い幅広い革の紐を頭に巻いていた。
「よし、荷物はここに置いていこう。いくぞ!」
「う、うん」
フロガは何が起こるかわからなかった。期待より不安のほうが強く、セグの物々しい雰囲気を見たら緊張してわずかに体が震えたが、父に会えると自分を奮い立たせ立ち上がった。
大岩の間の道とも言えぬ隙間のデコボコの地面を歩いていた。平坦なのがまだ救いなのかもしれない。少し歩いてセグが立ち止まった。太陽はまだ半分も顔を出していない。
フロガもすぐに気が付いた。
フロガは吐きそうになりながらも
「う、うう」
とうなりがまんした。血のにおいだ。血のにおいがする。
普段は村で動物の肉や内臓を生で食べる事もあるのに、その時はとにかく緊張感や不快感が強かった。
「近いな。なるべく足音を立てないでゆっくり行こう。」
「ちょ、ちょっとまって。アレ・・・」
フロガの身長がセグより低く地面に低いから先に発見できたのか。
フロガが指さした先の地面は真っ赤な血だまりだった。
その真ん中に緑色のゴブリンの肩から先の腕だけが赤い水たまりに遣っている。
肩の切り口からの血はもう止まっていたが、できた血だまりはまだ乾いておらず新鮮に見えた。
「・・・剣、いや斧か。多分上から叩き切られたな。フロガ、ここで隠れて周りを見張れ。大声を出さずにな、誰かきたらふっと強く息を吐け。多分人間にはわからんはずじゃ」
フロガは血だまりを見てまた母と兄弟の最後を思い出していた。
いや、正確には忘れられる訳がない光景だった。無理やり忘れた気になっていた。
「あ、ああああ!」
「大声だすな!くそっ、しゃーない」
セグはフロガにすっと近づき背後に周り片手で胴体を抱き片手で口を押さえつけた。
「フロガよ。落ち着けと言っても無理かもしれんがな。苦しいだろう。鼻は押さえとらんからゆっくり鼻から息をするんじゃ」
セグは小さい声で、普段よりもゆっくりとフロガの耳元でそう言った。
口ではそう言っているが、このまま取り乱すのではセグの身も危ないため、胴体を抱いている手の中ではフロガのあばら骨がミシミシと音を立てていた。
(まいったのう。フロガはやっぱりまだまだ子供じゃし、相手は人間じゃろう。人間とは今ここで揉めたくはないんじゃがのう。フロガを眠らせて人間を口先だけで遠くまで誘導できるかのう)
セグはそんな事をこの場面でぼんやり考えていたらフロガが暴れなくなった。もう落ちたのかと思った。両腕の力を抜いてフロガを解放し地面に寝かせようとした。
「ごめんセグ。もう大丈夫」
「な?・・・ああそうか」
セグは落とした愛用の鉄の杖を拾いフロガに向き直った。
「さっき話した事はわかったか?」
「もう大丈夫、ボクも一緒に行く」
「いやぁ・・・その、言いにくいんじゃが、ゴブリンが一緒だと問答無用で闘いじゃ。ワシだけなら突然戦闘にはならん。わかるか?」
「ああ、じゃあ待ってるね。誰か来たら息を吹くよ」
「・・・いや、やっぱり少し離れてついてきてくれ。フロガの村の仲間がいたらお前がいたほうが話しが早いじゃろ。少し離れてついてきて後ろを警戒してくれると助かる」
「わかった!後ろから誰か来たら息をふくね!」
「よしいくぞ。まずは落ちている手の主が近くにいるはずだから探すか。生きてればいいんじゃが」
二人は周囲を警戒しながらも行動に移った。
次は土日予定です。出来たらですが(汗