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人間の襲撃に遭い、母と兄弟を失ったゴブリンの少年フロガ。彼は謎のドワーフに助けられ、生存の可能性がある父を探そうと暗い洞窟を進むが…

フロガの父のグラッツィ は村の狩猟部隊のリーダー敵存在であった。

祖父は族長であったが、祖父の後を祖父の弟が継ぎ、その娘婿にあたる物が今の族長であった。

ゴブリンは人間種ほど血筋を尊重しないが腕力だけで決めるほど愚かでもなかった。

ゴブリンなりの聡明さや高潔さが評価され、フロガが住んでいた村には500人ほどのゴブリンが生活していたが、権力争いなどはほとんどなく、自然と村の首脳陣は決まっていくような感じで存続していた。


グラッツィはあまり多くを語るゴブリンではなかった。

元々ゴブリンは言語能力も知能も低く、力も弱く、1対1の素手で人間の成人女性と戦った場合、ほとんどのゴブリンは負ける。

人間の簡素な戦略、待ち伏せや高所に構える弓兵がいたら人間の倍の数のゴブリンがいてもまずゴブリンは負ける。

ただ、落とし穴やくくり罠や自然の樹木を使ったトラップなどは案外上手に躱したりもする一面がある。自然の中で生きる野生の感性のなせる面なのかもしれない。

そんな無口なグラッツィが得意な狩猟方法は罠だった。

くくり罠や落とし穴といった地面で作用する罠を作り、人海戦術で追い込んで獲物を罠にはめる事を得意としていた。

知能が低いゴブリンの中で稀に生まれる個体ではあった。

元々ゴブリンは非力なので鹿一頭捕まえるのにも10人がかりで木の枝のようなこん棒とも槍とも言えない粗末な武器で襲い掛かり、時に反撃にあい負傷最悪死に至り、時に逃げられるといったことがザラであった。

そんな中で満足に会話もできず、罠の説明や指示ができるとも思えないのにグラッツィはそれを実現させた。

近隣ゴブリン集落にも名の知れた狩人だった。

フロガの自慢の父親だった。猟から帰った父グラッツィはなんだか光り輝いているように見えた。

フロガはゴブリンの中ではかなり弁の立つほうだったが猟や罠ははっきりいって無能だった。

いつも朝早くに狩猟に出かけ、時に何日も帰ってこない父だったが大好きだった。

何も話さなくても横に座って一緒に食事をするだけで幸せを感じていた。


そんな父が生きているかもしれない。

そう思うと早くドワーフを探したい、父を探したい、父に会いたい。

人間が来て母さんや兄弟がみんな殺されてしまった事を伝えなければ。

自分一人ではこの先どうしたらいいのかもわからない。生きてもいけないかもしれない。

でも父さんがいればなんとかなる。そう確信していた。


そんな事を考えドワーフを探しながら洞窟を歩いて程なく、何かの匂いを感じた。

道の先から匂ってくるようだ。

草をむしった時に感じるような青臭いにおいだけど不快感はなかった。

曲がりくねった洞窟だけど、次の曲がり角の先で火を焚いている灯りが揺らめいていた。

もしかしたらドワーフではない誰かがいるかもと一瞬考え足音を殺し、曲がり角からこっそり覗いたら、やっぱりひげもじゃのドワーフが小さな岩に腰を掛けて石を組んで小さな鍋を火にかけていた。

「やっと見つけた」

「よおボウズ起きたか」

声は同時だった。フロガは少し嬉しくなった。

「あんまり手持ちはないが豆を煮ている。少しだが食え」

小さなお椀を荷物袋から出して豆を煮たらしい物の汁をずいっと押し付けてきた。

ちょっとこぼれて足にかかって「あっ」っと声がでたがドワーフは気にした様子はなかった。

「な、なんでボクを助けてくれるんだ?」

フロガは父を探したいとか村に戻りたいとか、ここに来る道中にドワーフに聞こうと思っていた事を全て忘れて質問した。

ドワーフは「うーむ」とうなって自分の分の椀を出し汁をすすりだした。

フロガも無意識に汁に口をつけ豆と煮汁をまとめて流し込んだ。

ドワーフは自分の椀の中を全て飲み干し椀を地面に置いた。

「ボウズ、お前さんの村にたまに俺たちが取引しに行っていたのは知っているか?」

「うーん?何回か長老や父さんがドワーフと一緒にいるのは見たことある」

「おいボウズ!お前と親父さんの名前はなんという?と言うかゴブリンの癖にしゃべりがうまいな」

「ボクはフロガ。青い森の穴の一族。父さんはグラッツィ」

「おー猟師の息子か、ほとんどしゃべらないグラッツィとは大違いだな!はっはっは」

「と、父さんを笑うな!」

「違う違う。親父さんとお前さんが全然違うのがおかしかったんだよ。はは」

まだ笑っているドワーフをちょっとだけ睨みつけた。だが父を知っている相手だと思いほっとした。

「おじさんの名前は?」

「おお、オレの名はセグリノールフォルカルファルだ。他種族には長げえから(セグ)って呼んでくれたらいいぜ。雪の火山の出だが商人だ。お前の村には鉱石の買い付けやらお前の親父が取ってきた肉を分けてもらっていた。でもお前達のトコは金って概念が無いから主にナイフとかハンマーとかペンチで取引だったがな。ちょっとわからんか」

「ええとセグノル?セグって呼べばいいのかな」

「ああそうだ。お前のトコの村にはちょっと借りがあってな。人間の軍隊が近くに来ていたから教えに行こうと思ったが遅かった・・・いやお前だけでも助けられたか」

セグは無表情でフロガの頭を撫でた。フロガはドワーフを間近に見たことが無かったし、他種族だから表情もわかりにくいし、そもそもゴブリンの文化に他人の表情を読むことなどなかった。

ただセグは父さんや母さんみたいに優しいんだと思った。

「そ、そうだ!父さんを探さないと!セグ!村まで連れて行って!」

フロガの頭を撫でていた手をフロガは両手で握りじっとセグの顔を見つめた。

「うーん残念だが、あの村に生き残ったゴブリンはいないんじゃないか。何人かは逃げたとは思うが」

「父さんは朝早くから猟に出たから村にはいないんだ!村の近くにいけば会えるかもしれない!だから」

フロガは両手で持ったセグの手を上下にぶんぶん振りながらセグに懇願した。

「じゃがまだ人間がたくさんいるしのう。お前さん達は洞窟の外に集合地点みたなのはないのか?」

「しゅうごう?」

フロガは首をかしげて固まった。

「あーわからんか。洞窟の外で集まる・・・うーーんなんて言えばわかるかのう」

セグの右手はフロガにがっちりつかまれている為、左手であごをボリボリと掻いて

「そうだのう・・・遊ぶ時とかに待ち合わせ、集まる場所だ」

「岩の原!」

「おお!?岩の原?森の中にある?木が生えてない岩場か?」

「そう、そこ!」

「うーぬ石切り場になっているあそこか無草の峰か。そこはお前達の村より上か下か?」

「ちょっと上なのかな?洞窟の入口のよこから登って降りて登ったところの木の先」

セグはあごを搔いていた手を後頭部に回しまたボリボリとかいて

「まあ行けないことはないか、ここまでやったんだし。よし行ってみるか」


セグはそっとフロガに握られた手を抜け、空になった鍋や椀を片付け始めながら

「豆はうまかったか?塩がもうあんまりねーから薄味だったが」

「うん!うまかった!」

フロガは泣きはらした目だったが他種族のセグが見てもわかる笑顔だった。


次回は8/10の土曜日に更新予定です。

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